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ノリと勢いで、なんとなく憧れていたタイプライターを買ってみた話

戦前くらいが舞台の映画を見てるとよく出てくるタイプライター。髪の毛をシニヨンにした当時のできる女性が使ってそうなイメージとか、改行の時にレバーを動かす仕様とか、そもそもの機械のレトロさとか、なんとなくかっこよくておしゃれだなあとずっと思っていた。

でも特に買うには至っていなかった、タイプライターを買う最初のきっかけは、母親が見ていた50年くらい前のドラマだった。

そのドラマにタイプライターが出てきたことからタイプライターの話になり、なんとなく「そういえばあれ一回は使ってみたいんだよね〜〜」と、Amazonで調べてみたら売っていたのだ。しかも10万とかしそうと思っていたら、1万4000円という思ったよりも手軽な値段で(しかも今見たらさらに安くなってた)。

「いや、でも実際そんなに使わないでしょ。PC使うじゃん」と思いながらも欲しさはあり、「タイプライター欲しいけど無駄遣いすぎて迷う」といった趣旨のツイートをしたら、フォロワーさんが金言をくれた。

この発言に背中を蹴り飛ばされ、かつちょうどnoteのネタに行き詰まっていたこともあり、ノリと勢いで買うことにした。

当たり前に使い方がわからず試行錯誤する

そしてAmazonでポチってから10日が経とうとしていた今日、ようやくタイプライターが届いた。

早速箱を開けると、中身がまったく見えないくらい厳重にプチプチで梱包されたタイプライターが入っていた。5m分くらいあったように思う。

あまりに厳重で何かわからないレベル

余談だけどこのプチプチ、プチプチ自体がシールになってて巻くだけで接着できるようになっていた。テープで頑丈に止められてるから梱包を解くのに苦労するってこともなくて、ただ剥がしていくだけでよくて楽だしとてもよかった。プチプチも着実に進化しているんだなと思った。

そしてプチプチを剥がした末に出てきたのがこちら。よく見る姿ではないから「へえ、これが」って感じで正直あまりピンとこず、予想に反してテンションはあまり上がらなかった。

取っ手がついていて、ちゃんと持ち運べるようになってる。でも重かった。

そして蓋を開けると。

キーボードのフォントもレトロでかわいい

「よく見るやつだ!!!!!すごい!!!!!!」とやっとテンションが上がってきた。

とりあえず何か打ってみようと紙をセット。

紙のセットは普通にそれっぽいところに入れて、左右にあるダイヤルを回して印字できる状態まで巻き込むだけなのだけれど、なぜかうまく巻き込まれず、最初からちょっと手こずった。

この後も何回かやったけど、3/5回くらいしか一発で入れられてない気がする。

紙を入れるとこんな感じに

そして早速文字を打ってみた。

座右の銘です。

なにこれオシャレ……
このレトロっぽいフォントも、インクが掠れてる感じもよすぎる。名言がさらに名言に見えちゃうやつだ。

こうしてテンションが上がって、次は詩でも打ってみようと思った私は、ここで壁にぶつかる。

「J'ai」と打ちたいのに、「'」が打てない。タイプライターは8の位置に「'」があり、Shiftと同時に押すと打てるはずなのに、そもそもそのShiftがまったく打てないのだ。

8の呪縛のはじまり。

ちなみにタイプライターは、このように上下に文字や記号が用意されている。通常は下にある文字の部分が紙にあたることで文字が印字されるが、Shiftを押すと紙をセットしている部分が上がり、上の文字が紙にあたるようになる。そうして同じキーで2種類の文字を打てる仕組みを実現しているのだ。

なんかかっこいい。

何度やってもShiftが効かない。「Shiftってここじゃないのかな?」と思ってそれっぽいところを打ってみても出てくるのは8、8、8。拍手かよみたいな。全然拍手するべき状態じゃないのに。

キーボードじゃないのかなと思っていろいろ見ていたら、とあるレバーを見つけた。

銀の!の上みたいなやつです。本当に見つかってよかった。

それを切り替えた状態でやってみると、「ガチャン」と紙が上にあがった。

そして「これはいけたんじゃない!?!?」と確信に近い期待を持ってキーから指を離すと、紙には待ち焦がれた「'」が印字されていた。

8の地獄からようやく天国へ。

こうしてやっと8から逃れられたわたしは、気を取り直して詩を打ってみることにした。

ここで新たな壁にぶつかる。誤字の壁だ。あとたまに文字が重なる。

当たり前だけれど、タイプライターは誤字をした場合にbackspaceで消すことができない。ここにきてbackspaceのありがたみを強く強く感じた。

なかなかタイトルすら満足に打てなかった。

誤字には明白な理由があって、それはわたしが普段、一般的ではない配列を使っていることだ。

詳しくはこちらのnoteに書いているが、「QWERTY配列」だと早く文字を打ちづらいと聞いたわたしは、昨年の年末くらいから「Eucalyn配列」というかな入力をしやすい配列で文字を打っている。

でもタイプライターでは、アプリでキーボードをカスタマイズすることなど当然できない。そのため数ヶ月ぶりに「QWERTY配列」で文字を打つことになり、やたらと誤字をしてしまっていた。

そして完璧に打とうとしては失敗するという流れを10回くらい繰り返して気づいた。そもそも、「タイプライターはそんな考えで使うものではないのではないか」ということに。

当時の人だって誤字をすることはあっただろうが、それで一から作り直していたらなにも進まなくなってしまう。ある程度の誤字は許容して、もしくはあとで修正しながら進めていたのではないだろうか。そしてそれこそ、正しい使い方なのではないかと思って、とりあえず誤字とかミスは無視して打ってみることにした。

そうしてなんとかひとつの詩を打つことができ、わたしのタイプライター1日目はひとまず終わった。

達成感。

ちなみにここで打っている詩は『サーディの薔薇』という作品で、こちらで少し取り上げているので、よければぜひ。

アナログはアナログで楽しい

同じ文字を打つにしても、PCのキーボードとは全然違うなというのがまず第一の感想だ。似て非なるというより、似てすらない気がする。

もちろんキーを押して文字を出力するという行為は同じなのだけれど、内部の処理がなにも見えないPCに対して、なにがどうなって文字が出てくるのかを見れるタイプライターはなんだか面白い。

頑張ってる感もすごくて、なんとなくPCに比べて愛着が湧くような気がする。

また先ほど「『QWERTY配列』だと早く文字を打ちづらい」とお伝えした。その理由はタイプライターの場合、あまりに早く打ちすぎると処理しきれないからなのだが、「こういうことか」と身をもって体感できた。実際に、適当なキーを連続で押してみたら処理が追いつかずきちんと文字を打てなかった。

この点に加えて、ガンガン打ってたら誤字しまくりそうというのもあって、じっくりと時間をかけて文字を打つこととなった。これがなんかよかった。文字を早く打つためにキーボード配列を変えてまで、とにかくいろいろなことをできるだけ短い時間でやろうとする資本主義の奴隷みたいなわたしにとっては、半強制的にとはいえ遅くしないといけないって体験は新鮮だったし、なんだか心にゆとりが生まれそうな気がした。

わたしはITツールが大好きだし、仕事においては紙なんてできる限り使いたくないと思っている側の人間だけど、それでもアナログもいいなと思えた体験だった。古くて逆に新しくて面白い。

仕事はすべてオンライン、予定管理も勉強ツールも読書記録もネットで、デジタルに塗れた生活だけれど、いやだからこそ、こうして時たまアナログの息吹に触れたいと思う。とりあえずフランス語の練習と、すっかり使えなくなっている「QWERTY配列」のリハビリに明日も使いたい。

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