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短編小説3 遠い所

お題:「あんぱん」「脚」「千客万来」

 皆さんこんばんは、今夜も千客万来で良かったです。多くのお客さんが入れ代わり立ち代わり来ていただいて、学者冥利に尽きますよ。
 さて、今日は何の話をしましょうか。そうですね…。そうだ、皆さん刑事という職業は知っていますか?
えっ、知らないって。まあ、それはそうですよね。なにせ、刑事についてわかったのなんて、最近の事ですから。
私でも、まだまだ知らないことだらけですよ。それでも、私にも意地がありますから、全力を尽くしましたよ。そして、何と!いくつかの事が分かったんですよ。
まあ、まあ。そんなに急かさないでくださいよ。あっ、はい急かしていないんですね、そうですか…。気を取り直して、まず何から語りましょうか。
まあ、まずは基礎的な事から、刑事とは職業であるらしいです。ああ、これは先ほども言いましたね。すみません。
では、まずは刑事という職業はあんパンを主食にしているらしいんですよ。あんパンは以前語りましたよね、あんこというペースト状のものを、パンに詰めた物です。
刑事とはそのあんパンを食べながら、犯人?という職業を追っているらしいんです。私的には、一種の娯楽的な行動であると睨んでいましてね。刑事はあんパンを主食にしていますからね、捕食的な行動で犯人を追っているわけではないでしょう。
他には、刑事は脚で稼ぐらしいです。何を稼ぐのでしょうか。以前の研究では人間はお金を稼ぐらしいですから、きっと刑事はお金を足で稼ぐのでしょう。
ということは、お金とは食品ではないということですかね…。謎です。
おや、もう帰るのですか?お早いですね。この世界には人間にあったらしい、夜や夕方などの概念もありませんし。もう少しゆっくりしていってくださいよ。もっと話したいことがあるのですから。
大昔に滅んだ未開発の辺境星の話なんて興味はないですか、そうですか…。それもまあ仕方がないです。
はあ、【地球研究科】の学者なんて私だけですからね…。まあ、皆さんこんなにも来てくださっているんですから、もう少し頑張りますか。
えっ、来てるじゃなくて、そこにいるだけだって。それでもいいんですよ。そこにいるだけで私は嬉しいんですから。
全ての人間が統合されて、同じ時間、同じ空間、同じ思想、同じ人格をもって生きている時代ですよ。私みたいに、元の人格を残している人は珍しいんですよ。他の人格や思想に押しつぶされて、消えてしまうんですから。
だから、私はこうやって元々趣味だった地球研究の話題を、みんなに向けて話しているんですよ。いつか私のように、固有の人格を持って生まれてくる人がいるかもしれないですし。 
少しでも、私が生きていた痕跡を残したいんですよ。これはきっと、本能のようなものですね…。
実際はかつての未開の辺境星が静かに滅んだように、私たちも緩やかに滅亡しつつあるんですよ。 
えっ。君たちは完璧な生命体ですから滅亡はあり得ないって。そんなわけないでしょ。君たちは無限の時間をかけて、膨張し続けているんです。あんパンを砕いて、海に撒くようなものですよ。どれだけ強い味でも、大海の中では無意味です。海に混じって、風味も残らず消えてしまいます。
君たちもいつか、人格や思想は膨大な時間の中に薄まり消えていきますよ。
 えっ、あんパンや海を知らないって。……まあ、これも地球の物らしいですから。この世界には存在しない物です。
 まあ、そんなことはいいですよ。今日は店じまいです、帰った帰った。
それじゃあ、さようなら

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