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【留学生時代】私の波瀾万丈なバイト物語④

留学で来日2か月に「資格外活動許可証明書」を持っていないということでアルバイト先から東京入国管理局に連行されたyanyanです。

東京入国管理局(略:入管)は体育館ほどの広さで、オフィスに椅子とテーブルがたくさん並んでいる。日頃、たくさんの不法滞在者を連行してきて、ここで取り調べをしているだろうか。私は真ん中のテーブルの前に座らせられた。

周りを見渡すと、不安で死にそうな私と対照的にほかに連行された人達は意外と冷静に見えた。ビザがないといずれこんな日が来るだろうと覚悟していたのだろうか。

私の左側に座らせられたバイト仲間の王さんは福建省の農村から来日した青年だった。「毎日酒場と家の往復だけで、唯一の楽しみは月末に家族に送金するあの一時」との話を思い出した。ビザがないから捕まらないように外出を控えていたんだね。

しばらくの間待たされていると、30代の職員が眉間にしわを寄せながら私の前に座った。面倒くさそうに手に持っているファイルをめくった。私の個人情報が記載されている資料だろうか。

一通りプロフィールについて聞かれた後、留学目的を質問された。通訳さんがいないので、たどたどしい日本語で自分の留学への熱意を述べた。

すると彼は「証明書が必要と分かっているのにアルバイトするということは、最初からまじめに留学する気がないでしょ?!」と。

「違う違う」思わぬ方向の質問に慌て、私は一生懸命頭を左右に振った。こういう時に通訳さんさえ居れば。

私がモタモタしていると、突然彼に大声で怒鳴られた。

「おい、ちゃんと答えろ!!自分がやっていることわかってんのか」

目の前で大声を上げられ、私はその声の威圧感に1瞬固まってしまった。

「証明書が必要なのを本当に知りませんでした」と私は呟いたら、向こうはさらにヒートアップした。

「知らないで済むと思ってるのか。ルール違反だぞ、強制送還だぁ!!!」

生まれてから人にこんなふうに怒鳴られたのは初めてだったかもしれない。屈辱で涙があふれた。

証明書のことは本当に知らなかった。職員が言うには、アルバイト先が証明書の提示を求めるのが決まりだと言うけれど、酒場の面接時に何の提示も要求されず、知るチャンスはなかった。

これで強制送還されるの?なんか理不尽に感じた。意気揚々で日本に留学して、中国に戻ったら大学の先生になる予定だったのに、志なかばで。。チャンスはもうないの?

深い絶望感に襲われ、私は何も答えられず、すすり泣きから号泣に変わった。

すると目の前の職員がいきなり立ち上がり、パーンっと机を蹴った。突然の音で私は驚き、耳を塞ぎながらしゃがみこんでしまった。

「おい、ちゃんと座れ。泣くんじゃないぞ。さっさと質問を答えて、国に帰れ!!」とにかく私の一挙手一投足、沈黙と涙に彼が激怒し、怒号と罵声を浴びせながら、何度も机を激しく叩いたり蹴ったりした。

私は恐怖と屈辱のあまり、震えながらうつむいて無言で涙を流し続けた。

あまりにも辛かったのか、そのうち私は彼の声を遮断して、自分の世界に入った。「お父さん、お母さんごめんなさい。親不孝な娘が留学先の日本で失敗してしまった。描いた夢が実現できなくなった。ごめんなさい。国に帰るから、家に帰るから」

・・・

どれくらい時が経ったのだろうか、気がつくと周りが静まりかえっていて、泣き腫らした目で周りを見渡すと、私一人だけが広い部屋にポツンと取り残されていた。壁の時計のカチカチ音が聞こえてきて、見ると夜10時半を回っていた。

先ほどの職員はどこかに消えてしまい、私はしばらく放置されてたようだ。

奥の扉が開き、静寂が破られた。顔を上げると、若い眼鏡の男性がおり、私に向かってきて、優しい口調で話しかけた。

「さあ行きましょう」

「ど、どこにですか?」

「夜遅いので、十条駅まで一緒に歩いて送るから、家に帰ってください」

えっ?送還じゃなかったの?家に帰っていいの?さっきの職員は?

言われるがままに眼鏡職員の後について、入管を出た。風が止んだ夏の夜は、蒸し暑く、私の重い心にのしかかった。

歩きながら、たまらず私は眼鏡職員に話しかけた。

「いつ。。。いつ私は送還されますか?」

「今回は上司の判断で送還しませんよ。ただ。。次のビザ延期はおそらく審査が厳しくなると思います」

「分かりました。教えてくれてありがとうございます。」

雲の上を歩いているようで、ふわふわした気持ちで駅に着くと、眼鏡職員が「切符買うお金は持ってますか?」「家までの乗り換えは大丈夫?」といろいろ心配してくれた。

この職員の真摯な対応・優しい態度に、私は感激してまた泣きそうになった。同じ入管の職員でも、人によってはこんなに態度が違うとは。。同じ日に天国と地獄を見たような気分だった。

”ありがとう!私を送還しないと決定してくれた上司の方。未熟な私にチャンスをくれた方”

”ありがとう!眼鏡職員の方。わざわざ駅まで送ってくれて、冷え切った私の心を優しい言葉で温めてくれた方”

ありがとう。。。





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