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1人で生きていくつもりだった結婚願望ゼロの男が結婚するまで

今回の日刊かきあつめのテーマは「#結婚」です。

自分では何を書いていいやら決めあぐねたので、妻にリクエストを求めてみたところ「なんで結婚したのか聞いてみたい」という話になりました。

もともと私は結婚願望がなかったので、そんな人間がなぜ結婚しようと思ったのか、という話です。話の流れでなんとなく触れたことはあったものの、確かに改まって妻に説明したことはないかもしれません。

というわけで、リクエストに応えて「1人で生きていくつもりだった結婚願望ゼロの男が結婚した理由」を書いてみようと思います。

1人で生きていくつもりだった

20代半ばまで、私は1人で生きていくつもりでした。

大げさな話ではありません。結婚願望もなければ、結婚相手や生涯のパートナーを探すつもりもなく、それどころか人と積極的に関わる気がありませんでした。

25歳ごろまでの私は、人と関わることに恐怖を感じていました。それというのも、「将来、一緒にカフェでも開こうよ」なんて話をしていた親友が突然音信不通になり、借金を踏み倒されてしまったのです。昨日まで当たり前に話していたのに。

彼とは、あらゆる趣味が合い、煙草さえあれば2人でいくらでも話し合える仲でした。煙草と酒をやりながら、小説やら音楽やらアニメやらゲームやらについて、一晩中語り明かすこともざらでした。

当時の私にとって、彼ほど信頼を寄せていた相手はいなかったので、そんな彼とうまく意思疎通を図れなかったという経験は、私の中で人間関係へ恐れを抱かせるのに十分過ぎるものだったのです。

ショックを受け軽いうつ状態になった私は、当時勤めていた会社を退職して、一人暮らしの部屋を引き払って実家に帰らざるを得ませんでした。

立ち直るきっかけはクラウドソーシング

「こんな思いをするくらいなら、人と関わらずに生きていきたい」

そう考え、極力人と関わらずにお金を稼ごうと考えた私は、クラウドソーシングでWebライターのお仕事を始めました。

まったくの未経験だったので、文字単価1円未満の案件しか取り組めず、最初の1ヶ月は1万円稼ぐのがやっと。副業ならともかく、本業でこれではやっていけません。

これは余談ですが、自分がそんな体たらくだったので、SNSなどで1ヶ月目からしっかり稼いでいるライターさんを見ると、すごいなぁと感心してしまいます。

話を戻しましょう。1ヶ月目こそ1万円しか稼げなかった私も、数ヶ月やっているうちに、なんとか生活の足しになるくらいは稼げるようになりました。それでも、「実家暮らしでなかったらどうなっていたやら……」という不安はぬぐえません。

クラウドソーシングで出会ったクライアントの1社から声をかけられたのは、そんなころです。

「東京のオフィスで正社員として働きませんか?」

実家という平穏な環境でのびのびと過ごし、チャットが主体のリモートワークという環境で仕事をしたおかげで、数年前、仕事が続けられなくなったときほどの恐怖はありませんでした。

それよりも、自分の生活費すらままならないこの状況を打破したい。

そう考えた私は、クライアントからの誘いを受けることにしました。

人と関わると寂しさを感じるようになった

実家を出て、東京で一人暮らしを始めた私は、仕事にのめり込みました。月の残業時間は100時間を優に超え、週末に家でやっていた分も含めれば200時間を超えていたかもしれません。

しばらくリモートワークをしていたので、久しぶりに人と働くのが楽しくて仕方なかったのです。

しかし、それにもだんだんと慣れていきます。

刺激に慣れてくると、やがて寂しさを感じるようになりました。

人と関わると、どうしても比較してしまうのでしょう。人を遠ざけている間は、誰かを羨む気持ちも、誰かと関わりたいという気持ちも、一切抱かなかったのに。

友達がほしいとか、恋人がほしいとか、明確な目的もないまま、誰かとつながりたくてSNSやマッチングアプリを始めました。

でも、ぜんぜんダメ。

友達付き合いが致命的に苦手で、仕事を抜きにどうやって人と仲良くなるのかがよくわかりません。これは、結婚した今でもそうです。学生のころ当たり前にできていたことが、彼と音信不通になったあのときを境にできなくなってしまったのだと思います。

純粋にこの人と一緒にいたいと思えた

そうこうしているうちに妻と出会いました。

妻は、私よりも1年半ほど遅れて入社した同じ部署の後輩です。仕事を教えたり、手伝ったり、ランチへ行ったりしているうちに、この人ともっと一緒にいたいと思うようになりました。

「この人と一緒にいたい」という気持ちを、ずいぶん久しぶりに抱きました。寂しさを埋めるため、ではなく、純粋に「この人ともっと一緒にいたい」と思ったのです。

気持ちを自覚してからは迷いませんでした。

妻と出会ってまだ2ヶ月ほどでしたが、告白して、一度フラれて、少し時間を置いてまた告白して。付き合い始めてから3ヶ月ほど経ったとき、妻の誕生日にプロポーズをしました。

差し出せるものが「時間」しかなかった

付き合って3ヶ月でプロポーズというのは、一般的に考えるとずいぶん早いと思います。それは、まっとうな職歴もお金も何もない私なりの誠意でした。

この人と一緒にいるために、自分が差しだせるカードは未来の時間しかないと思ったのです。

それを伝えるためのプロポーズでした。だから、プロポーズのときには婚約指輪でなく時計を渡しました。

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画像引用:LIPオンラインストア

渡した時計は、LIPというフランスの時計メーカーの「サービスウォッチ」と呼ばれるモデルです。

サービスウォッチとは、時計をオーバーホールや修理などに出した際、一時的に貸し出すための時計のこと。本当に貸出用の時計というわけではなく、1964年~1966年に実際に貸し出されていたものをベースに復刻したものだそうです。

文字盤には、貸出用時計であることを示す「購入済」の文言と、「あなたに時間をお貸しします(意訳)」というメッセージが刻まれています。

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自分が伝えたい想いにぴったりであることと、手ごろな値段が決め手でした。

立派な婚約指輪を買うお金があれば、指輪も一緒に買ったかもしれませんが、当時の私にそんな余裕はありませんでした。

結婚したいと思ったわけではない

駆け足になりましたが、以上が、「1人で生きていくつもりだった結婚願望ゼロの男が結婚するまで」の経緯です。

まとめると、妻と一緒にいるための手段が結婚だったのであり、結婚したいと思ったわけではないし、人付き合いに対して別段ポジティブに考えるようになったわけでもありません。

結局のところ、1人で生きていくつもりだったのが、2人で生きていきたくなった、という話でした。


執筆:市川円
編集:鈴きの彩子

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