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読書感想文 [帰宅部ボーイズ 感想]

 パワハラ気質で陰湿な顧問のいる野球部に辟易し、帰宅部となった中学1年生の主人公直樹。同じく外れものとして帰宅部になったカナブン、テツガク、ウメ。

 なんてことないどこにでもある、だが彼らにとっては何にも変え難い唯一無二の経験を、大人の直樹が回想する形式で振り返るストーリー。




 帰り道にある米軍基地に侵入して射撃練習に使用された実弾を拾ったり、ジジイの庭で育ていてる柿を盗んで全力で逃げたり、無意味な事に全身全霊をかけるくだらない臨場感。男子の多くが思わず共感してニヤニヤしてしまうだろう。それ程解像度が高い。




 帰宅部ボーイズの彼らは決して軽くはない悩みを抱えている。



 ガキ特有の名前や容姿から連想される安易な蔑称、複雑な家庭事情、部活動に所属していない少数派であるという劣等感。


 まだ自分の気持ちを言語化できずに自分なりに噛み砕いて飲み込むことしかできなかったあの頃。

 そんな純粋で最も複雑な年代である中学生ならではの、些細な一大事がかなりのリアリティを帯びて描かれているのだ。



 私は読み終えた率直な感想として、とても羨ましいと、そして彼らは恵まれていると思えた。


 自らの意思で部活動という流されるだけのレールを踏み外す勇気を携え、そしてその道なき道を共にする仲間がいたのだから。それに4人もだ。


 私は踏み外す勇気がなく、唯々諾々と部活動という群れの、そして市内の限られたコンフォートゾーンに留まっていた。そこから踏み出しても行動を共にするカナブンやテツガクはきっといなかっただろう。





 今作品は淡い青春時代を回想できる良作である。が、良作であるが故、輝きすぎている。そんな彼らと自らの忌々しい過去を照らしてしまうのだ。



 だが、帰宅部ボーイズの頭脳担当のテツガクのこんなセリフがある。



 「自分っていうのは、それまでのすべての自分の堆積なんだよ。自分の経験したことがひとつ残らず塵のように降り積もって、今の自分を作っている」



 帰宅部ボーイズの彼らは彼らの堆積であり、彼らの輝きこそが彼ら自身なのだ。


 ならば、忌々しい濁った私の過去も今の私を支えるかけがえのない塵となっているのだ。


 比較して悲観するのはお門違いなのだろう。



 万人には万人の過去があって、今に至る。誰のどんな汚い過去も、今存在するというその事実自体が、過去そのものをも抱擁しているのだ。




 ならば、踏み出し続けるしかないだろう。自らが残した塵を抱えて。

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