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歌という芸術への讃美歌[映画 キリエのうた 感想]

 主人公キリエは売れない路上ミュージシャン。


 過去のトラウマから声がうまく出せない。だが、歌を歌う時だけは違った。



 ある日運命の再会を果たす。高校時代の友人真緒里。今はイツコと名乗っているらしい。金持ちの男と関係を持ち、その家を転々とするイツコと行動を共にすることにしたキリエ。

 イツコはキリエのマネージャーとして彼女を売り出すことを宣言する。


 イツコのアドバイスに従い、徐々に路上から人気を獲得していくキリエ。

 だが、イツコとキリエには失われた、引き剥がされた取り戻せない過去があった…

 キリエにどんな過去があったのか。

 それでもキリエから離れなかった唯一のもの、音楽。音楽を通じてキリエは新たな自分を勝ち取っていく…


 と言う話。




 3時間ほどある長尺映画なのだが、納得の凝縮された3時間である。



 不可抗力である震災によって全てを失い、法律という抗えない強大な力によって唯一の身寄りからも引き剥がされたキリエ。




 そんなキリエから唯一奪えなかったものこそが音楽。彼女のうたなのである。


 そんなうたという武器と出会わせてくれた真緒里と、再び東京で、イツコとして出会う。


 衣装、バンド仲間、レコード会社、フェス。装備を少しずつ確実に増やしていく。


 そうして、家族や生まれ故郷を糧に得た音楽という武器を解き放ち、己を縛り付ける社会そのものに最大の復讐をラストシーンでキリエは果たす。

 彼女と音楽はもはや引き離すことはできない。芸術は何人たりとも妨げられない最大の武器なのである。



 そんな思いをラストシーンで私は馳せていた。


  イツコとキリエはフェスの直前。


 2人で海へ行く。

 キリエから、路花から全てを奪った海へ。



 全てを奪われた海で己を縛り付ける全ての柵を忘れて光差す海で踊る路花。

 青と赤が淡く入り混じる先に広がるのは果てしなく続く地平線。


 あれ程美しい海はあるだろうか。



 今作は歌という芸術への讃美歌なのではないだろうか。



 ここで今作を見終えて思い出し、ピッタリだと思ったピカソの名言を引用してこの文を終える


 芸術は飾りでは無い。敵に立ち向かうための武器なのだ。

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