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夜の演奏会

不安と不満といろいろな未来が混ざり合って
うまく寝付けない夜。
不規則に流れていた風の音が遠のいて、
静寂が広がっていく。
すると、まるで待っていたかのように、
きみの寝息のスイッチが入る。
隣でテンポよくテンションが上がる寝息は、
少しずつ野生に還り、
それは壮大なイビキとして、
一定のリズムを打ち始めた。
ぼくの眠りを誘う、野生の音楽である。

眠りについたぼくは、しばらくすると
歯ぎしりでセッションに参加するだろう。
ふたりが主役の
ふたりの知らない演奏会が、
間もなく幕を開ける。
どちらかと言えば、かなり不健康な演奏会。

もしも
きみの寝息が世界から消えてしまったら、
ぼくの夜は今よりもずっと長くなるだろう。
そんなことを
考え出したらまた寝付けなくなるから、
今はきみの演奏にうっとりしよう。

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