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ゲームで味わう極上の音楽 #ゲームとことば

ゲームのなかで流れる音楽はどのくらい重要視されているだろうか?単なる添え物?無音をごまかすための道具?

いや、違う。音楽は間違いなくゲームプレイに影響を与える重要な要素だ。

ホラーゲームをプレイしているとしよう。闇が広がる通路を歩いた先に曲がり角がある。何かが出てきそうな雰囲気だ。そこで流れるのがコミカルな音楽だったら、怖さは半減、いやほぼゼロ。ホラーとしてのおもしろさが損なわれてしまう(コミカルな選曲で雰囲気が壊れてしまうのは『廃深』で実際にあった)。

では、とりあえず恐怖を煽るような音楽を当てておけばいいのか?それではよくて及第点だろう。作品に合った選曲がなされることで、ゲームはより優れたものになる。この記事ではそんな作品を紹介したい。

「ゲームとことば Advent Calendar 2023」のために書いた記事です。

メロウなローファイ・ヒップホップに酔いしれる

ゲームと音楽が混ざり合う感じを意識しはじめたのはPlastic Tekkamaki Manufacturingのデジタルノベルの影響が大きい。テーマごとに解像度の違うテキストをかき分ける上手さと、物語を反映させたUIなど見どころは数多くあるが、とりわけサウンドが良い。

1作目となる『深夜徘徊のための音楽 beats to relax/stray to』は深夜の街を徘徊する兄妹の何気ない会話を中心に物語が進行する。ゆるめなサウンドが深夜の澄んだ空気と調和し、唯一無二の世界観を作り上げていた。

2作目『非実在都市伝説の作法 Imaginary Fakelore』はオカルトライターが都市伝説を調べるうちに社会の暗部にたどり着いてしまう社会派テイストなストーリー。

サウンドは前作に比べてリズムがシャープになり、スネアに深いリバーブをかけるなど、ゆるさのなかにピリッとした音が見え隠れしている。環境音をかけ合わせる試みがおもしろく、ディープさの増したサウンドに心惹かれた。

3作目『最近の日常的不可思議 Monday Loop』はタイムループもの。2作目の主人公が高校生たちと協力して繰り返される月曜日からの脱出を試みる。

音の1つ1つはよりアタックが強くなっているが、全体で見るとまろやかなサウンドとしてまとまっているのに驚く。シューゲイザーテイストのボーカル曲が入ったのが新鮮で、作品を公開するごとに音の変化が見えるのが楽しい。

ローファイ・ヒップホップ自体がゆるい定義(というかワード)であり、"それっぽいもの"はなんでも「チルいよね~」的にぶち込まれていくものになりつつある。

Plastic Tekkamaki Manufacturingの作品ではNujabesのようなエッジの効いたリズムトラックをチョイスすることもあったが、ローファイ・ヒップホップの自由さを逆手に取るかのようにジャンルの海をたゆたう遊び心が感じられる。そして、その枠からも飛び出そうとする気配さえある。すでに4作目『水底から鳴り響く音々 Monologue Bubblebath』の制作にも入っているようで、今後どんなサウンドを聞かせてくれるのか楽しみだ。

ムーディーな歌声にうっとり

獣人のキャラクターとモノクロのビジュアルが印象的なミステリーアドベンチャー『Chicken Police』

全編で流れるジャジーなサウンドがハードボイルドな雰囲気にハマっているのも良いが、特に素晴らしい1曲がある。

私的な捜査依頼を受けた老刑事はかつての相棒とともに依頼主が待つクラブへ向かう。そして、ステージでナターシャ・キャッツェンコが歌い出す「MY CITY IS ON FIRE」に心を奪われる。

それまでの無骨な雰囲気がガラッと変わり、ナターシャのムーディな歌声がすべてを支配する。時が止まったようにうっとりとしたひとときが味わえる名シーンだ。

哀愁のタンゴは情熱の香り

20世紀のアルゼンチンを舞台に青年が苦難を乗り越えて成長していく姿を描く音ゲー『El Tango de la Muerte (死のタンゴ)』は隠れた名作だ。

恋人の誕生日を目前に控え、一緒に踊るためにタンゴの練習をするあどけない青年・ルチアーノ。彼はある出来事をきっかけに波乱の人生を送ることになる。無骨さと情熱、愛を中心に展開する物語には心惹かれるものがある。

顔写真をベタ貼りしたようなキャラクターのビジュアルや、踊りながら殴り合うダンスパートなど斬新な部分に目がいってしまうが、作中で流れるタンゴが飛び切りカッコいい。

どの曲もおすすめだが、エレクトロなダンスサウンドにアレンジされている「Quemado」は必聴。タンゴの新たな魅力を発見できる作品だ。

ジャジー・ヒップホップでスタイリッシュに決める

近未来TOKYO風のデトロイトをサバイブするラン&ジャンプゲーム『Aerial_knight’s Never Yield』

デトロイトを拠点に活動するアーティストDANIEL “DANIME-SAM” WILKINSによるトラックはジャジー・ヒップホップを基調としたスタイリッシュなサウンド。

ゲームプレイと音楽がいまいち噛み合わないのが玉に瑕だが、そのあたりのゆるさも本作の味だ。楽曲のカッコよさは折り紙付きで、インストバージョンとボーカルバージョンを聴き比べて違いを楽しむのもおすすめ。

急き立てるチップチューンに大汗

レトロを追求したアクションゲーム『ドーナツドードー』はキュートなBGMが目白押し。

「Fun House Fiasco」の心が踊りだすようなノリのいいサウンドはゲームのBGMになると焦りを生み出す装置のひとつに早変わりする。

敵を避けながら、ステージ上に散らばったドーナツを集めるゲームである本作における最大の敵は焦りだ。落ち着いてやればできるプレイでも急き立てるBGMのおかげでまんまと失敗してしまう。ゲームのBGMとして使われることで重要度を増す。まさにゲームのための音楽だ。

余談だが、『ドーナツドードー オリジナル・サウンドトラック』のレコードがタイトルとかけてドーナツ盤になっているのがいいし、B面のラベルにはドーナツがプリントされているのもかわいい。
※ドーナツ盤:中心に大きな穴があるEPレコード

[おまけ]世界を切り開くのは"自分の声"

自分の声に自信がある人にはパズルアドベンチャー『One Hand Clapping』をおすすめしたい。

本作の特徴はプレイヤーの声を使った操作。キャラクターをコントローラーで操作しながら、マイクに向かって声を出すとステージ上のオブジェクトが動く。最初はただ声を出すだけだが、そのうちに音程を合わせたり、リズミカルになったり、歌ったりと音楽っぽさが高まってくる。

音楽を聴くだけじゃなく、自分も加われるのが独特で楽しいゲームだ(疲れるけど)。

おわりに

今回紹介したタイトルのなかで、『Aerial_knight’s Never Yield』『ドーナツドードー』は先に音楽を聞いて、ゲーム自体に興味が湧き、プレイした作品だ。

ゲームをプレイしているとき優れた音楽と出会えるのもうれしいが、SpotifyやBandcampなどで数多あるゲーム音楽のなかから自分のお気に入りの楽曲を見つけて、ゲーム音楽からゲームを遊んでみるのも楽しい。

それでは、よいゲーム音楽ライフを。



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