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長い日曜日 後編

コーヒーなんて何年ぶりに飲んだんだろう、こんなにも酸っぱかったのか…
また江戸原さんは僕に質問をしてくる。

「君はさ、将来何になりたいの?」

…将来の夢は高校の時に馬鹿にされて希望を持つことは辞めた。
持つのは無駄、無駄に心が折られるだけ…

「…いや…特に…ないです」
「持って良いことなんかないでしょ、だから神経を擦り減るんでしょ」

ぶっちゃけ江戸原さんとの会話に目処が立たないと思ったので思い切って愛想つかしてみた。

「…でも擦り減ることで美味しくならない?」
「擦り減ったらただのゴミじゃないですか?」
「かつお節は削った方が旨味が増すよ」
「そうですけど具材じゃないからただの駒でしょ」
「ただの白湯の野菜とか食べたい?」
「それはいらないですけども…」

流石に痺れを切らしたのか江戸原さんがちょっと苦言を呈した。

「あのさ、僕も夢破れた人の一人なんよ。別に擦り減ることは悪いことじゃないよ」
「自分を出さないでください、綺麗にしてヒーロー面しないでください」
「ヒーロー面なんかしないよ、もちろんダークヒーローにもならないよ。僕なんて酷い人間なんだから」
「じゃあ酷いって何なんですか?」

少し間を空けて江戸原さんは自分の価値観や幼少期の話をしてくれた。

昔は河川敷で蛙を炙って遊んでた話、SNSで誹謗中傷と戦った話

…正直誉められたもんではないが何故か少しホッとした。

僕も昔から友達が動物しかおらず飽きたら海に流して優越感に浸っていた、僕は破綻した疑似的な倫理観の崩壊に浸っていた。

「僕たちなんか似てますね」

「だから僕はお母さんに話をもらった時に運命を感じたんよ、だから明くんにも外の世界は面白いってことを知ってもらう為にこうして色々お話してるんだよ」

ただ正反対の人間と会う恐怖の方が優っていた。
そんなこととも露知らず江戸原さんは話てくれた。
気づけば夕方になり江戸原さんは帰って行った。

帰宅後僕は久しぶりに一人で家を出て川辺に行き鳥や魚をぼーっと見ていた。
当初、癒されるだけのつもりだったがだんだんこの生き物たちが幸せそうに動いていることに苛立ちを覚えて来た。
「こいつらの絶望した目こそが今の僕の目と同じなんだ」勝手な被害妄想で近くにいた弱っていた鳥に対して石を投げてみた。
するとすぐにバランスを崩したので追い討ちをかけてみたら倒してしまった。
近くで見てみると目がリラックスしていた、こいつが生涯を真っ当して満足して極楽に行ってる姿を想像するとまたイライラして目を枝で突き刺した、しかし形があまり変わらなかった。
そこでこの鳥は地獄でもそこで往生するだけの打たれ強さがあるのだろうと思い落胆してしまった。
恐らく江戸原さんも幼少の時に同じように思ったのではないかと思うと帰って怖くなった。

そこからしばらくして殺傷の快楽を覚えた僕は外には出るようにはなったが何かを傷つけることで生きる喜びを得るようになった、またしばらくして江戸原さんが訪ねてきた。そして僕の顔見るなり
「君はダークヒーローになりたいのかい?」と聞いてきた。
僕は咄嗟に「はい」と返事したがその日から江戸原さんが来ることは無くなった。
あの質問の意味や意図がまだ掴めずに部屋で時計の針を見ていた。

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