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これからは、すごいゲームしか出ない

※この記事は、YouTubeチャンネル「ゲームほめ事業部」の、おまけスピンオフです。(元のチャンネルはこちら

小林:放送おつかれさまでした。早速本題に入りますが…

社長:「今後は国内の商業ゲームほとんどが、大作だけになる」って言ってたっけ?2023年は大作ラッシュやったけど、これが来年も続くんかいな。

小林:はい、続くと予想しています。

社長:なんでや

小林:それを説明するために‥、社長にまず、ひとつ質問させてください。「近年遊んだゲームのなかから『唯一無二の、すごいゲーム』を挙げてください」って言われたら、ぱっと何が思い浮かびます?

社長:ティアキン

小林:いいですね。同感です。他にあります?

社長:あとはスマブラ、フォートナイト、マイクラとか

小林:すごいですよね。他にはありますか?

社長:なんぼでもあるで

唯一無二の、すごいゲーム

小林:ありがとうございます、十分です。

どれもケタ外れというか、他のゲームにはない魅力がありますよね。ゼルダは言うまでもないですし、スマブラもすごいです。メーカーの垣根を超えた、ゲームキャラ総出演のオールスター格闘ゲームなんて、以前なら絵空事でしたから。フォートナイトも、ひとつのゲームの範疇を越えて、いま最もメタバースを体現している存在ですし、マイクラも子供にとって理想のゲームですよね。

社長:せや、もう全部、夢のゲームやで

小林:で、いま社長が挙げたタイトルをこうやってみると‥、海外のゲームがけっこうあるんですよね。

半分は海外のゲーム

社長:ほんまや。よう考えたら、半分は海外のゲームなんか

小林:あと、これらのゲームの唯一無二の体験って、アイデアや独創性だけではなく、タイトルの規模と、洗練の積み重ねによるものです。その体験を作るには相応の開発費が必要で、それが投じられている、ということです。

たとえば「原神」は、総開発費が100億円超であることを公言しています。ひと昔前のゲーム20本分ぐらいかかっています。アサクリも、コールオブデューティも、100億円かかっています。とてつもない人海戦術によって、クオリティを実現しているということです。

社長:そうなんや

開発が大規模化した背景

小林:この「海外のゲームを遊ぶ機会が増えたこと」と、「開発費が高いゲームが増えたこと」は、互いに関連があります。この図を見てください。

エンタメの、国境の垣根が大幅に下がった

小林:日本のコンテンツは世界へ。世界のコンテンツは日本へ。この傾向はゲームだけでなく、エンタメ全体で、直近5年間で加速したように思います。それぞれ説明しますね。

まず「日本のコンテンツは世界へ」。いま日本のゲームは、世界で売れています。Switchの快進撃の影響が大きいですね。それに伴い、リリース日が世界同時になるゲームも増えました。

社長:世界同時発売って、昔は少なかったっけ?

小林:はい、昔は国内版リリース後、海外版がワンテンポ遅れて出ることも多かったです。国内売上に対して、海外はおまけぐらいの本数しか売れなかったので、あまり重要視されていなかったのかもしれません。

社長:そうなんや

小林:続いて「世界のコンテンツは日本へ」。さっき社長が挙げたゲームが、半分は海外製だったことでもわかりますよね。この5年で、かなり状況が変わりました。

日本のゲームはもともと内需が強く、ガラパゴスの傾向が強い国ではありますが、それでも垣根は下がりました。今ほど、海外のゲームを、日本のユーザーが遊んでいる時代は、かつてありません。中高生はフォートナイトを、小学生がマインクラフトを、特に産地を意識することなく遊んでいます。ユーザーのど真ん中に、自然に洋ゲーがある状況です。かろうじてモバイルゲームの市場は、国産ゲームで閉じていたのですが、それもここ5年で中国産のモバイルゲームが切り拓きつつあります。原神、アズレン、アークナイツなどですね。

作っている国は、アメリカと中国が多いですけど、それ以外の国もたくさんあります。

アメリカと中国だけじゃない

社長:こうやって並べると、ほんま世界中やな。遊んだゲームで世界地図、塗っていけそうや。

小林:そうですね。そして、こうなると、何が起きるか。

グローバル化が進むと、こうなる

小林:まず、開発会社からの目線でいうと「世界で売れることを見越して、開発予算を最初から大きくする」ことができます。現に、これらのビッグタイトルにおいて、日本の売上はせいぜい全体の20%程度です。逆に言えば、日本だけで売っていた時の約5倍、売れるようになったと言えます。これは大きな変化です。そのぶん開発費を大きく費やしても収支が合います。たとえばエルデンリングは、日本国内だけだと100万本ですけど、ワールドワイドだと2000万本、売れているそうです。

逆に世界で売るためには、クオリティやボリュームに妥協できません。世界中のゲームすべてがライバルですから、淘汰圧は当然、強くなりますし。その結果、国産タイトルの開発費も、大規模化しやすくなります。

Sランクのゲーム

Sランクの、すごいゲーム

小林:さっき社長が挙げたゲームをはじめ、すでに世界中で多くのファンを抱えるトップランクのフランチャイズタイトル、いうなれば「Sランクのゲーム」とでも呼ぶべきタイトルは、すでに、これだけ数があります。クオリティはまんべんなく高水準で、かつ、それぞれ唯一無二の突出した点があるゲーム。どれも世界じゅうで一千万人以上のファンがいます

社長:うむ。納得の最強ラインナップやな

小林:この最強Sランクのタイトルが16本あるということは、これらが4年に一回、新作リリースや大型バージョンアップをすると仮定すると、単純計算でいえば「3か月に一回は、このSランクのゲームの新作が出る」ことになります。ユーザーからすれば、常に、迷うことなき決定的な一本がリリースされている…という状態です。それぞれプレイボリュームも十分あるゲームなので、仮に、この16本だけを順番にプレイしていたとしても、ほとんどのユーザーの時間は埋まります。

社長:確かに。そう言われてみればそうか。そら、時間も足りんわけや‥

小林:まあもちろん、これはただの単純計算なので、実際にこの通りに行きませんが。なかには開発に4年以上かかるものもあるでしょうし、そもそもこのゲーム全部が好みに刺さる人は稀でしょうから。

社長:まあ、せやな。FIFAとコールオブデューティは毎年出とるけど、両方全部やる人はあんまおらんやろ

小林:そう思います。なので今はいったん「供給量が充分だ」という事実だけ認識してもらえれば。

あと、それぞれがリリースした後の、旬の期間も長くなっています。それぞれが、追加ダウンロードコンテンツを出すので。実際、旧作はリリース後も、売れ続けています。今年に入っても、スマブラやマイクラって、国内で20万本以上売れてますし。年間ベスト10に入る勢いですね。

社長:ポケモンの「ゼロの秘宝」もリリース半年後やったな

小林:そうでしたね。長持ちです。

また世界で出ているゲームはこれだけではありません。いわゆる「AAAタイトル級」も計算に含めると、さらにリリースが高頻度になります。この表を見てください

毎月のように、AAAタイトル級がリリース

社長:なんや、この、すごい数。

小林:ここではラフに「AAAタイトル級」と呼びますが、これらは、開発費を数十億円から100億円超を使って、クオリティとボリュームを両立させているゲーム群です。リリースすれば、ほぼ毎作とも、世界で数百万本程度のセールスをあげる、認知度の高いタイトル群ですが、その名前を書き出すだけで、これだけあります。これでも、まだ網羅はできてないぐらい。

社長:今年でいうと、ホグワーツレガシー、スパイダーマン、ディアブロとかがそうか。どれも大作やな

小林:はい。そして、おそらく、ここに書かれているゲームの、ほとんど全部がいま続編を作っているでしょう。各スタジオの代表的タイトルですし、経営を考えれば、作って当然です。幸いにしてゲーム産業全体の市場規模は右肩上がりなので、各社とも手を緩めることはしないはずです。仮に続編そのものを作っていないにしても、少なくとも同じスタジオが同じ規模、同じ方向性の新作を作っている可能性は高いです。

さっきのSランクタイトルと合わせると、50タイトル近くあります。ここに「4年に一回リリース」の単純計算を当てはめると、この表のゲームから「ほぼ毎月のペースで、どれか一本は新作として発売される」ことになります。プレイヤーからすれば、このなかから、かなり選り好みをして遊んだとしても、余暇時間は全て埋まるでしょう。充分すぎる供給量です。

また、日本国内メーカーからすれば、ゲームをいつ発売しようと、開発費100億円級のゲームのどれかと、同じ月でぶつかる…ということです。もちろん、こっちも実際にはリリース間隔が4年より長いものもありますし、運営型のゲームでリリースという概念がないものも混ざってるので、実態はそんな単純ではないとは思いますが、とはいえ、おおむね「いつゲームを出しても、AAAタイトル級の大作と競合になる」という事実は、間違いないと思います。

社長:確かに、まさしく今年はこんな印象やったわ…。てことは、これ今後も続くんか。日本のメーカーは、これらが常にライバル、ってことやな

小林:はい。そういうことです。加えていうと、この話にはまだ、モバイルゲームの大手は含めていません。このリストには、荒野行動も、ウマ娘も入っていませんが、彼らも、魅力的な大型アップデートや、日々の配信を続けます。

モバイル大手

小林:これらモバイル大手も、コンテンツ提供をし続けます。その分、ユーザーの余暇時間は減っていきます。

海外のゲームは、日本で売れない?

社長:でもさ、ディアブロとかって面白いのは分かるんやけど、なんか日本人でプレイしてるやつ、思ってるより少ない気せーへんか?

小林:鋭いですね。おっしゃる通り、海外のAAAタイトルは、世界のセールスに対して、日本の売上は小さい傾向があります。今回のディアブロも世界では1000万人レベルで遊ばれているようですが、日本の販売本数は4万本程度に留まっています。

その他、近年でいうと、世界で800万本も売れている「Horizon Forbidden West」も、日本では15万本しか売れてないです。ゴーストオブツシマやスパイダーマン一作目は、日本でもかなり売れましたけど、目立つのってそれぐらいですよね。

ただ、これについては、ソフトそのものより、正直、プラットフォームの事情が大きいと思います。いま世界で見ると、PS5やXBOXのシェアって、日本だけ際立って低くて。日本はNintendo Switchの一強です。なので、これらPS5やXBOX専売のゲームは、日本だとセールスがあまり出ないんですよね。売れていないのは、コンテンツに決定的な欠点があるからではないように思います。もし、海外のAAAタイトルが専売を離れ、Nitendo Switchへの移植に比重を移し始めたら、状況も変わるでしょう。

社長:このAAAタイトル達が、Nintendo Switchに移植され始めたら、みんな買うんかいな?今のこの状況から、そんな急に日本人の好み、変わるか?

小林:そこはいろんな意見があると思いますが、私は確実に脅威になると考えています。今の若い世代は、もともと海外のゲームへの許容度も高いので、きっかけひとつで変わるかと。海外のゲームがたくさん遊ばれる傾向は、さらに加速することはあれど、衰えることはないでしょう。

もちろん開発費をかけたゲームは必ず面白い…ということではありませんが、予算規模が大きいことで、ボリュームやグラフィッククオリティは上がりやすいですし、あと予算をかければ「荒いゲーム」から「整ったゲーム」にはできます。

社長:整ったゲーム?

小林:「とっつきやすさ」「ゲームバランス」「遊びやすさ」などのクオリティが高いゲームのことです。これらの要素は、予算によって確実に改善されやすいです。「チュートリアルが分かりにくい」「難しすぎる」「不便」といった課題は、時間と労力を費やしさえすれば解消されやすいので。ここが良化すると、基本的に一律、体験としての総合点は高くなります。

社長:ああ、時間かければ確実によくできる部分ってことやな

もうすごいゲームしか出ない

小林:ここまでの話をまとめると‥

国内メーカーは、この状況下で何を作るか

小林:こういう包囲網に囲まれた状況で、国内メーカーは、自分たちの作るゲームを定めます。この状況が、冒頭の「この先は、もうすごいゲームしか出ないのでは」という予測につながります。

発表されている、今後のタイトルラインナップを見ていると、各社とも「ジャンルNo.1シリーズ作だけに、予算を集中投下させている」ような気がします。一方、野心的なニューカマータイトルは、とうぶん影を潜めるのではないかと‥。

ジャンルNo.1シリーズ作というのは、たとえば、桃鉄、太鼓の達人、ストリートファイター、パワプロ、無双‥というような、国内で認知が高いフランチャイズのタイトルです。これらは、国内で一定のファンが確保できているので、セールスも見込める、堅いビジネスといえます。そしてこれらも、競合タイトルとクオリティやボリュームで見劣りしないために、かける予算を増やして豪華にしているように見えます。いうなれば、大作化している。また開発費をかけようがないジャンルのゲームでも、宣伝費は上がっているように見えます。

社長:なんでジャンルNo.1シリーズ作に集中投下するんや?絞らず、いろんなゲーム作ったらええやんけ。

小林:さっき挙げたような、国内外の強力なライバルタイトルがひしめく状況により、クオリティ水準が上がってきていて、低予算のチャレンジタイトルを作りにくいのだと想像されます。低予算だと、勝算が薄くなっているのでしょう。

ぎりぎり2017年ぐらいまでは「小さな良作」と呼ぶべき、開発費が比較的リーズナブルで、特徴の色濃いニューカマーのタイトルが、メーカーから6000〜7000円程度で発売されることがあったのですが、最近そういうタイトルが減っている気がしませんか?ここ5年でいうと「ハーヴェステラ」や「十三機兵防衛圏」みたいなタイトルです。こういうタイプのゲーム、今後の発売予定のカレンダーに他にあまり見当たらないような。

社長:めっちゃ金の都合で、作るもん決めとるんやな‥。もっと作りたいもん作れよ

小林:その気持ちもわかりますが、一方で会社は営利活動なので‥。赤字を出すわけにはいきませんから。

あとこういう状況下だと、シリーズ作に加えて、過去のヒット作のリメイクも多く作られがちです。幸い、リメイクの元になる名作は、すでに40年分程度のライブラリがある状態なので、選択肢は豊富です。そして認知度も高く、セールスも手堅い。今年末にドラクエモンスターズ、来年はサガや、風来のシレンのナンバリング新作が出ますけど、こういった人気シリーズのリブートも、その延長上ですかね。

社長:リメイクなら、面白いことが保証されとる…って理屈か。

小林:はい。今は、国内の中小のディベロッパー企業が、大手パプリッシャーからの受注で、リメイク作を開発しているケースが多いように思います。最近は中小のディベロッパー企業が、オリジナルのゲームを作る機会が、ほとんどないように見えますね。

実際、中小の開発会社さんの開発実績紹介を見てると、最近はスマホゲームを作るか、過去作のリメイク開発を請け負うのが仕事の中心になっている気がします。あとはAAAタイトルの、ある一部分だけを作る…という形で、大規模なプロジェクトに参画していたり。

社長:ある一部分だけを作る?そんなことできるんや。

小林:大作のスタッフクレジットを見てもらうとわかりますけど、いくつもの開発会社が、連なる形で一つのゲームを作っていることが増えてきました。

社長:ふーん、そんなことあるんか。

今後は続編ばっかりになるんかな。じゃあ新しいゲームはどうやって出すねん?

小林:それについては、社長が言う「新しい」というのが、どの意味かによります。まず「新しい」が「新シリーズ」という意味であれば、今後も出ると思います。現に、スターフィールドは新シリーズですし。

社長:まあ、そうか

小林:また「新しい」というのが「新鮮なプレイヤー体験」という意味でも、今後も出ると思います。番組内でも触れましたが、ポケモンSVは新しい挑戦をたくさんしています。ゴーストオブツシマも、スパイダーマンも、新鮮な体験です。

ただ、どれも「大規模タイトルとしての挑戦」の範疇にとどまります。前例が全くない、斬新なゲームデザインや、ゲームジャンルごと創出するような実験的な企画は、大手のゲームメーカーからは出にくくなるかもしれません。そういったチャレンジは、小規模ならではなので。

社長:なんや、その「小規模ならでは」って。別に斬新なチャレンジをするのに、規模は関係ないやろ

小林:いえ。大規模だと、実際しづらいですよ。斬新なアイデアは、外れる可能性も上がるからです。開発費が高くなっているということは、投資としてみれば「ギャンブルのレートが上がっている」ということなので。リスクを取ることに慎重になります。

社長:もう、とことん金の事情なんやな…、納得いかん。

あとさ、Nintendo Switchの今後発売予定のゲーム一覧を見てると、シリーズ作でもない新作ゲームが未だに、いっぱい並んでるように見えるけど、あれはなんや?

小林:インディーズゲームですね。その話もさせてください

インディーズゲームの勢いは増していく

小林:社長が期待するような、発想が斬新なゲームの発売は、今後よりインディーズゲームからのみ出てくるようになるでしょう。インディーズはとにかく追い風が吹きまくっていますから。

社長:そうなん?

小林:はい。今後もインディーズからは、画期的なゲームが多く出ると思います。「さらに小さな野心作」というべきタイトル群です。定価が1000円〜2000円と安く、ダウンロード専売なので、見れば区別がつくかと。

ここでいう「インディーズ」というのは個人製作だけでなく、いわゆる独立系ディベロッパー全般を含みます。大手パブリッシャーの資本が入っておらず、ゲームの作者自身が、決裁権を持っている開発体制のことです。

ここ5年、日本で話題になったインディーズゲームを並べてみましたが…

ここ5年の、インディーズ発の、主な話題作

社長:めっちゃおもろいゲームばっかりやんけ!これ全部インディーズ?

小林:はい。アマングアスとPUBGの成功がひと際光りますが、それ以外も話題作ばかりです。あとどのゲームも、独創性が目立ちますよね。私も今、スイカゲームやってます

社長:確かに。新鮮なゲームは、けっこうインディーズから出てるんやな

小林:もうちょっとさかのぼると、マインクラフトもインディーズ発です。

社長:まじか!

小林:はい。間違いなく、インディーズゲーム史上最高の成功だと思います。

社長:なんでこんなインディーズばっかりで、奇抜なゲームが出るねん。

小林:皆さん、すごい発想力ですよね。頭が下がります。

社長:さっき言ってた、インディーズゲームの追い風ってなんや?

小林:今の時代は、インディーズゲーム開発が活発になりやすい好材料がいくつかあるんです。まずはUnityやそのミドルウェアエンジンなども含めた開発環境が、使いやすい状況になっていること。加えて、世界配信するためのプラットフォームも確立されました。Steam、AppStore、GooglePlayなどですね。おかげで、かなり、マニアックなゲームを作りやすくなりました。マニアックでも、とにかくとがったゲームを作れば、世界のどこかでユーザーの琴線に触れる可能性が拡がりました。

社長:誰かが見つけてくれる‥ってことか。

小林:加えて今後は、生成系AIの登場が、それをさらに助けると思われます。

社長:生成系AIが何の関係があるねん。

小林:今までインディーズゲーム開発で壁になっていた量産タスクを、圧倒的に乗り越えてくれますから。イラスト制作から、BGM制作、翻訳、ボイス、3Dモデリング‥あらゆることをAIでやれます。

社長:AIの恩恵を得るのは、なんでインディーズだけなんや?大手メーカーも使ったら、ええやんけ。

小林:大手メーカーも、技術的には使えるんでしょうけどね。いかんせん、権利関係などの懸念が払拭しきれない都合などもあって消極的なようです。あと正直「インディーズゲームなら許されるクオリティ」と「大規模な商業作品でも許されるクオリティ」って、やはり差があって、AIが作るものは、現状、前者への貢献のほうが大きいように思います。

社長:そうなん?クオリティの話は、ピンと来うへんけどな

小林:インディーズは、ソフトの販売価格も安いですしね。1500円のインディーズと8000円の商業作品では、プレイヤーの期待値が違うので、自ずとクオリティの合格ラインにも差があるように思います。実際、インディーズで売れているゲームには、あえてローテクに抑えたドット絵のゲームが多いですが、商業作品でドット絵は今やほぼ見ません。そこには差があります

もちろん、遅かれ早かれ、大手メーカーも開発に生成系AIを取り入れるでしょうが、直近に限ると、AIの恩恵を大きく受けやすいのはインディーズです。今後、インディーズは、完全な個人制作のゲームで、AIを活かした、すごいクオリティの作品が出てくる可能性が高いでしょう。そして、個人開発者は、全員がディレクター化していくかもしれません。

社長:「全員がディレクター化していく」?

小林:「パーツを作るタスク」がAIに置き換えられることで、監督一人だけいればゲームが作れるようになっていくと思われます。イラストも、3Dモデルも、AIに託せるなら、個人制作のハードルもかなり下がるのではないかと。オーケストラに例えるなら「指揮者だけ人間で、奏者は全部AI」というようなイメージです。

社長:ああ、なるほど。それはもう今すぐできると思うで。形になって世に出るのも時間の問題やろ

小林:また、そうしてAIが多用されれば開発費が下がるので、よりニッチなゲームも作りやすくなります。これまで収支の都合で作れなかったものが、制作コストが下がることで実現できます。少しの人に売れれば黒字になるので。ゲームは、より多様性が増すはずです。

社長:インディーズゲームで良いゲームが出そう‥ってのは分かったけど、それを大手メーカーがマネできひん理屈がよーわからんけどな。大手も、小さくてとがったゲームをいっぱい作って、どれかが世界のどこかでウケるのに賭けたらええやんけ。

小林:戦略という意味でいえば、それは可能なはずです。だが実際、その手段が選ばれるかというと、難しいでしょうね。ゲームの作者自身が、決裁権を持っていない、というのは大きな差ですから。この話題作の一覧だって、どれかひとつでも大手ゲームメーカーから出せたか‥と思うと、プロセス的に難しい気がしますね‥。

面白くなるかどうか分からないものを手探りで作るのは、インディーズの方が向いています。ここは説明しにくいですが「畑に合った作物」という概念が現実的には存在していて、インディーズにはインディーズの畑に向いたゲームがあり、メーカーにはメーカーの畑に向いたゲームがある…という感じかと。

社長:よーわからんけど、そうなんや

小林:会社の経営戦略として「とにかく数を出して、どれかがヒットするのに賭けます」という策を掲げるのは、畑の質に合わない気がしますね。あえていうと、イングレスがそういう出自に近いですけど。

社長:そうなん?

小林:はい、あれは、もともとはGoogleの社内スタートアップなので。

社長:へー、そうなんや

小林:あれは非常に幸運なケースです。今の日本のゲームメーカーがマネするのは現実的でないでしょう。

二極化するゲーム業界

小林:これらを踏まえると、今後は二極化が進みます

二極化が進む

社長:巨大な塔と、多様性のある建物群。

小林:はい。これまで両者の間はグラデーションがありましたが、それが、くっきり二極化していく。この傾向は進むでしょう。

開発者にとっても、どっちを作りたいか?は、好みが分かれるところです。

どっちを作りたいか?

小林:今からゲーム業界に入ろうとしている学生の方は、自分が、どっちに関心があるのかを、いちど考えてみるといいかもしれません。「ポケモンが好きなので、ポケモンが出てくるゲームに関わりたい!」というような欲求と、「自分が監督する、斬新なゲームを生み出したい!」という欲求は、同じ会社のなかで両立しにくい状況にあります。

「自分の好きなゲームのシリーズ作を作りたいか?オリジナルで独創的なゲームを作りたいか?」は、最初に決めたうえで、職業選択をした方が良いと思います。今の時代に、ゲームメーカーに就職すると、このうち、一方の選択肢の可能性を、いったんは下げることになります。100~200人の開発チームで、その中の一人として、有名シリーズ作に関わるという形で、キャリアの一歩目を歩むので。そして、その期間はとても長いです。

社長:両立はホンマにできひんのかいな

小林:一昔前はチャンスもありましたが、先ほど言った理由で機会が減っているんではないかと。この傾向は、少なくとも直近3~5年程度は続く気がしますね。先々、新たなプラットフォームの誕生などで時代が移れば、状況も変わるでしょうけど。

加えていうと、ゲームメーカーで、200人の開発チームのリーダーになる人は、当たり前ですが、200人に1人しかいません。狭き門です。99%の会社員は、その立場にならない。

社長:あ。そうか

小林:たとえば4年で経費100億円を使うゲームの開発プロジェクトがあったとして、もうそのリーダーともなると、金額的には、かなりの大企業の経営者ぐらいの責任を背負っていることになります。そういう人には、クリエイティブの能力と、ビジネスの感覚と、人を統率するリーダーシップがバランスよく求められるでしょう。芸術家で、会社社長で、生徒会長でもある、というような資質が求められます。全ての能力がパーフェクトである必要はないにせよ、どれかが大きく欠けていると厳しいとは思います。浮世離れした夢想家では務まりません。

そういった要件に対し、人選の淘汰を潜り抜けた人だけがリーダーになります。タイプ的には「オリンピック選手に選ばれる」とか「宇宙飛行士に選ばれる」というような類の競争です。開発者の99%は、そうでないキャリアを歩みます。

社長:なんか夢がない話やな‥

小林:もちろん、夢を持つことは自由です。成功する人も世にはいるので、前例にとらわれる必要はありません。自分の可能性に賭けることは素晴らしいとは思います。

ただ一方で、99%の確率で起きる、普通の結末に対して、目を背けるのは不自然だなとも思うのです。夢をあきらめろ、と言っているわけではなく、目指している門戸が狭い認識がないまま、会社で努力を重ねた結果、報われず「俺の人生、こんなはずじゃなかったのに」と悲しむ人を減らしたいです。

99%の「ゲームを作る、普通の人々」

小林:ここまでの話、もしかしたらニュアンス的に「インディーズゲームは自由奔放に作れて楽しいけど、ゲームメーカーへの就職は楽しくない」と聞こえたかもしれませんが、そう言いたいわけではないです。

むしろさっき言った、ゲームメーカーで働いている、99%の人について、言及したくて。その人たちは「ゲーム開発者としての生活に満足していて、楽しんでいる」ということです。

伝統あるシリーズのナンバリング新作を、一員として作るのも、楽しい仕事ですよ。きょう番組内でポケモン開発チームの話をしましたけど、ああやって、こだわりを持って、タイトル開発に臨むことを想像すると、楽しそうな気がしませんか?

社長:確かに。こだわりをいろんなところに入れられるのは、やりがいある気がするな。

小林:そうです。有名シリーズ作を作るのだって楽しいんです。なんたって、待ってくれているプレイヤーがたくさんいますし。あと自分がそのシリーズに愛着ある場合、仕事ひとつひとつが輝いて見えるでしょう。きっとポケモンのシリーズ作のスタッフはそういう感覚なのではないかと。

大きなタイトルの開発は、個別メンバーの作家性を活かすことはできないかもしれませんが、職人としての喜びは感じられるでしょう。場に即した、小さなアイデアを生み出し、形にして、体験クオリティを地道に向上させていく。それが職人の仕事です。

あと「チームワークで、大きな成果をなす」ということも喜びです。一人ではできない、すごいものが作れます。チームの成果を自分のこととして喜べるメンタリティさえあれば、とても達成感が大きいと思います。

社長:なるほどな

小林:もしこれを読んでいる方が、ゲーム業界への就職を検討しているとして、あなたの適性を判断するとしたら「チームワークによる成果を、自らの達成として感じられるか?」が分かれ目だと思います。

もう20年以上、実績を積んだポケモンに対し、今から打倒ポケモンを目指して開発に挑むのは大変です。あなたがポケモンを敬愛しているとしたら、新時代のポケモンをゼロから作るより、素直に今のポケモンの開発に関わった方が幸せかもしれません。

社長:まあポケモン好きなら、その方がええか

小林:はい、やりがいあると思いますよ。

あと‥これも隠してもしかたないので正直に言っちゃいますけど、いちど会社に入ったからといって、ずっといなくちゃいけないわけではないので。短期間の下積みだと割り切って、いったんゲーム会社に入る手はあるでしょう。有名シリーズ作を3年作って満足したら、そこで培ったノウハウを生かして独立し、インディーズゲーム開発を始めることはできます。

インディーズって、売れないと食っていけないでしょうから、何も担保がないまま始めるのは、ふつうにしんどいでしょうしね。それを避けるため、メーカーにいったん入るという選択肢はあるのかなと思います。日本の会社は、新卒を貴ぶ傾向がまだあり、多くのメーカーはそのタイミングで入らないと、近づく機会を失います。学校を卒業後、いきなりインディーズゲームでキャリアをスタートすると、有名シリーズ作を作る機会は遠のいちゃうので。

社長:会社が、まるで学校みたいな扱いやな…。いつか卒業する前提ってことか?

小林:もちろん会社としては残念でしょうけど、個人の人生の方が大事ですから。

社長:逆のパターンは?インディーズゲームで実績を出した結果、有名シリーズ作の監督に抜擢される‥みたいなことはないんかいな

小林:どうでしょう‥?私は聞いたことないです。

ハリウッド映画は、インディーズでヒットを出した監督が、メジャー作品の監督に起用されるケースがよくあるそうですが、日本のゲーム業界では、あまり聞かないですね。もし、これをお読みの方で、ご存じの方がいたら教えてください。

* * *

小林:こういう話って、就職するまで、ほとんど情報として見えてこないの辛いですよね。業界外からメディアだけを見てると、スタークリエイターしか目に入らないのは良くないと思っていまして。

ゲーム業界で働く、普通の人の話を聞ける機会をもっと増やせればと思っています。このYouTubeチャンネルを通じて、やれることもあると思うので、それはまた改めてお話ししますね。

社長:おう、なんか分からんけど、頼むわ

小林:改めて、ゲーム業界志望者の方に、この図を出しますが…

小林:自分が、ゲーム作りを通じて、なにを得たいと思っているかは、いちど心に問うてみてください。そこで腹がくくれたなら、ゲーム会社へ就職するのが良いと思います。

逆に既にゲーム業界にいて、業界3年目ぐらいで腐っている人がいるとしたら、このギャップに困惑しているのだと思います。そういう人も、この図を見て、「この先、どっちを経験したいと自分は思っているか」というのを、立ち返って考えてみるといいかもしれません。そのうえで、今の会社でしか得られないことがまだあることに気づけば、目の前の仕事にも前向きになれるかと思うので。

* * *

小林:念のため‥、今日話したことは、特定のメーカーの事業戦略や意志を示しているわけではないことを断っておきますね。あくまで、データから導かれる個人的予測のひとつでしかないです。あと、かなり話を単純化しており、ディティールは正確性を欠く、荒い表現をしていますが、そこはご容赦ください。

社長:まあ、荒かろうが、これを読んで、ゲーム業界で幸せになる人が増えるんやったら、それでええんちゃうか

小林:そうですね。実状を知ったうえで、前向きにゲーム開発に関わる人が一人でも生まれたらいいな‥と思っています!

(了)

【ゲームほめ事業部】

こちらの記事は、YouTubeチャンネル「ゲームほめ事業部」内で公開した動画のスピンオフ番外編となっています。

▼元のチャンネルはこちら▼

【ポケモンSVをほめたたえる】ポケモンが、ゲームの歴史を変えた<前編>


【YouTubeチャンネル「ゲームほめ事業部」とは】

「ゲームをほめたたえ、世界を学ぶ。」ゲームと教養のトークプログラム!天才AI犬社長チャッピーと、会社員小林でお送りします。

【参考文献】
開発が大規模化した背景
https://diamond.jp/articles/-/251442
https://www.4gamer.net/games/036/G003691/20191214004/
https://ja.wikipedia.org/wiki/ELDEN_RING
https://teitengame.com/index.html

もうすごいゲームしか出ない
https://www.nintendo.co.jp/schedule/index.html

インディーズの勢いは増していく
https://ja.wikipedia.org/wiki/Ingress
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2307/25/news177.html

※本記事にはフィクションが含まれます。「犬ゲームス株式会社」という団体は存在せず、実在の人物・団体などには一切関係ありません。

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