見出し画像

★【SUPER GT】テストの進め方

こんばんは。Emperor-Dです。

更新の感覚が空いてしまいごめんなさい。SUPER GTの開幕戦も終了して、時間が確保できたので更新しました。今回は皆さんにもっとレースを好きになってもらえるように、エンジニアの仕事の一部を紹介したいと思います。内容は『テストイベントの進め方』です。具体的な内容等はお伝え出来ませんが、今後のレースを楽しく見るための情報となれば幸いです。

では、内容に入ります。

1.レーシングカーのテストイベントって何をするの?

まずはレーシングカーのテストイベントでは、どんなことをしているのかを簡単に説明してみたいと思います。カテゴリーや車両によってテストする内容は変化しますが大まかにこの3つでしょうか。

⑴ 車両関係テスト(セットアップやパーツ)
⑵ タイヤテスト
⑶ ピット作業練習(レース想定)

⑴に関してはパフォーマンスを上げるために、セットアップを変更したり、新規パーツ(※開発可能な車両・カテゴリ―に限る)をテストして、ラップタイムを縮めようとしています。
⑵はSUPER GTではタイヤメーカーが複数社あるという世界的にも珍しいタイヤの開発競争があるカテゴリーで、タイヤ開発のためのテストを行っています。実際には、タイヤが1種類だとしても確認すべきことは山ほどあり、タイヤを上手く使いこなすためのテストもします。
⑶に関してはレースに向けた機材や人員配置等を実際に練習して、レースに備えるというものです。メカニックは普段からピット作業の練習を行っていますが、実際に走行した車両は温度上昇により、金属が膨張しホイールナットが取れにくいなんていうこともありますので、そういったことも加味して本番に近い状態での練習を行います。

こうやってまとめると少なく見えるかもしれますが、実際には数日のテストではやりきれないほどのボリュームがあります。我々はその中から優先度の高いものを厳選してテストしているのですが、今回はこのnoteの目的でもあります⑴のセットアップテストに注目して書いていこうと思います。

2.テストのスケジュールとセットアップの進め方

テストイベントは基本的に、2時間のセッションが2日で4回あり、これが1回のイベントとなります。
イベントに入る前には事前準備として、走行のプランを組み立てたり、走り出しのセットアップを考えたりします。これはレース当日もテストも同じです。

走行プランは何周走行するのかや、新品タイヤの投入時期、セット変更の内容などを、分刻みで決めておくことで、効率的にテストが出来るようにするものです。そのため赤旗が出た場合は、その場で残り時間を考えながらリスケジュールしていますが、これがなかなか大変です(笑)

セットアップの決め方は秘密ですが基本的には車両諸元から様々な計算をして決めています。そのベースに対して更にラップタイムを稼げそうなアイテムを準備しておき、セッション中に投入して進化させていきます。最初から入れればいいじゃないか思われるかもしれませんが、100%速くなるとわかっている場合以外は、セッション中に変更しデータとドライバーコメントから確認するのがテストの”キホン”です。きちんと基礎が出来てるかわからない土台の上に家を建てる人はいませんよね?それと同じです。

そして、そのセットアップがテストを通してどのように進化していくのかをグラフにすると下図のようになります。横軸はセッション(時間経過)とし、縦軸をパフォーマンスレベルとおきます。

画像1

このグラフについて簡単に説明していきます。
まず、レースで良い結果を出すためにはラップタイムが速くないといけないのでそのパフォーマンス目標を仮に車両の本来もっている性能の80%に設定します。(グラフ赤線)

Flow①から見ていきましょう。(グラフ青線)
テストのスタート段階では『Set up A』から入りますが、最初のパフォーマンスレベルは40%とします。
セッション1~4までバランス調整やパフォーマンスUPに繋がるアイテムを投入することで、テスト終了時には『Set up A'''』という90%まで進化させることが出来ました。そして、テスト後に分析を行うことで更に進化し、レースイベントの持ち込み段階では、『Set up A''''』 という95%のパフォーマンスを発揮する車を仕上げました。これがグラフの青色パターンです。これは上手くいってる状況です。

では、もう一つのパターンを見ていきましょう。(グラフオレンジ色の実線)
最初はFlow①と同じく『Set up A』から入りますが、セッション2の終わりの段階で、思ったよりパフォーマンスが上がっていないという状況に陥っています。つまり『Set up A』は進化させても速くない可能性があるということがわかり、次のセッションには違うセットアップである『Set up B』に変更します。そこからはFlow①と同じように進化をさせることで、最終的にレースイベントの持ち込み段階で『Set up B''』となり80%のパフォーマンスを発揮できる車両が仕上がっています。Flow①よりはパフォーマンスが下がりましたが、目標には到達しています。もし、Flow②で『Set up A』が速くないということに気づけなかった場合、グラフ内のオレンジ色の点線のようにパフォーマンスは60%と目標に到達できていないかもしれませんので、エンジニアの技量が問われます。

ちなみにSet up AやBはどんな違いがあるのか、例を挙げるとすれば、『Set up A』はダウンフォース重視するコンセプト作ったセットアップで、『Set up B』はエアロの効率(L/D)を重視するコンセプトで作ったセットアップという感じでしょうか。ダウンフォースが大切なのか、L/Dが大事なのかはサーキットによっても異なりますので、そういったことをテストで確認しています。もちろん事前検討段階である程度把握していますが…

どうでしょうか。テストの中でセットアップがどのように進められているのかなんとなくわかって頂けたでしょうか。よく持ち込みセットアップが大事だなんていうコメントを見かけることがあると思いますが、この記事からも同様のことが言えます。

3.テストの難しさ

さて、2で説明した内容はかなり簡潔にしてありますが、実際はもっと難しいです。一体どこが難しいのかというと、”パフォーマンスが高いor低いをどう判断するか"です。というのもラップタイムは気温や風、路面コンディションによって変わってしまいますし、タイヤのグリップも使えば使うほど落ちます。そのため、レーシングカーを走らせるときにいつも同一条件で走れるということはほぼありません。
大概、何かの実験をする時、変数は1コか2コに絞ることで、この変数を変えると○○が変わりますといった結論を得られるのですが、そうはなっていないということですね。これが難しくなる要因です。
では、実際にどうやって判断しているのかというと、他車の状況や実際の気象データ、走行データ、ドライバーコメントから、不明な変数を把握していきます。そのため、1日走行した分を全てを分析するにはその何倍もの時間が必要になりますが、現場ではそのような時間はありませんので、取捨選択をして判断を下しています。なので、あまり大きな声では言えませんが、現場での判断が良くなかったなーなんて思うことも多々あります...

4.まとめ

いかがだったでしょうか。テストの裏側を少しでもお伝えできればと思い、エンジニアが考えるテストの進め方という内容で記事にしてみました。
レースイベントの練習走行もこれに近いことを考えながら進めていますので、レースを観戦する方にほんの少しでも興味を持ってもらえたらいいなと思います。

次はセットアップ講座に戻ろうと思いますが、今年はこれから毎週のようにレースがありますので、オフシーズンまでは更新頻度が下がってしまうかもしれませんが、気長にお待ち頂けると嬉しいです。

もし内容が参考になったらサポートして貰えると嬉しいです。 継続的に活動を続けるモチベーションになります🥺