見出し画像

日本人とは、どのような特徴があるのか古典『菊と刀』を解説します①

『菊と刀』はアメリカの文化人類学者であるルース・ベネディクトによって戦争中に書かれた日本人に対する研究報告書がもとになっています。

「謙虚なのに尊大」で「小心者なのに勇敢」で「卑屈なのに思い上がる」

まるで逆の印象を持たれる日本人。そんな不思議な日本人論の古典である本書を今改めて読み解いてみたいと思います。

1.はじめに

作者は日本の歴史・ラジオ放送や新聞記事。当時アメリカに住んでいた日本人などから聞き取り調査をすることで日本人は一体どんな人々なのかを調べました。すると、このような特徴がみられました。

①階層的な上下関係の絶対性

②精神がすべての源泉であり、不滅

③世界にさらされる自画像の重視

まさに今の日本人を言い表しているとは思いませんか?

ではこのように作者が考えるようになったのはなぜなのか。どんなところかた導き出したのか。その道筋をたどって、日本人とはいったいどんな人々なのか考えていきたいと思います。

2.戦時下の日本人たち

まず作者は戦争中のラジオ・新聞記事などを見ました。すると他国ではありえない特色がありました。その主なものを見ていきます。

●空襲で焼きだされたら逃げてはいけない。戻って消火すべし。

当時の論調では、有事にも慌てず普段通りの生活をしてこそ、日本人である、と語られました。その内心には生死に関わる危険に身を委ねてこそ、潔い。という考え方が流れていました。たとえ、そこにいたのが負傷者でも、同じように行動をすべきだと求めました。

●降伏はするな。死ぬまで戦ってこその誉れ。

民間人にも降伏をしてはいけない、と教えたのはもちろん有名ですが、まさか日本人だけがそう考えている、とはまったく思っていなかった、というところに作者は驚きを感じていました。

また、捕虜になった兵士たちが明るく楽しく過ごすことも、まったくもって信じがたい、と思っていたようだ、とあります。笑ったら怒られた(殴られた)口答えも禁止でした。こうったことは日本軍の中で上官が下官に命じていたことでした。

●物質主義への蔑視

●天皇をけなすことは認められない。(明治維新より前はほとんど存在感がなかったのに!)

これらが声高に述べられていました。ではなぜこのような考え方になったのか。作者はもう少し前から歴史を紐解きます。

3.明治維新から生まれた現代日本人の姿

明治維新以前、日本人は仕事から着物や住むところまで身分で決められていました。明治維新で人々は「平等」ではなく「御一新」を求めました。「御一新」を言い換えると、人々は支配者の交代だけを望んだ、ということです。

ところで、明治維新を実行したのは下級武士+裕福な商人でした。彼らは自らが上流に上がったのち、この上下関係に終止符が打たれないよう、きっちりシステムを作り上げました。それは徹底的でした。

●政治:「大日本帝国憲法」をもって正式に国民に対し応分を与えました。この「応分」は本書のキーワードで、自らの分(立場)をわきまえている姿をさします。国民はそれぞれ応分をわきまえることで利益を受けられたので、そのシステム作りに協力しました。それは、国民が干渉したり、世論が口を出すのを警戒し、ありとあらゆる予防策を講じていました。

●宗教:国家神道を作りました。国家神道には教義はありません。国民の統一と優位性を表すシンボルを祀りの対象とし、国を代表とする神体は敬意を払われているか否か、忠誠の印であることが大事でした。

●軍隊:身分制度を退け、唯一貧しい階級の者でも将校になれる、というシステムを売りにし、階層移動の場としての役割も持たせました。

●工業の振興:国が何をするかを定めて興し、予算を潤沢に使って発展させたのち、法外な安価で選りすぐりの財閥に払い下げました。これは応分の場をもつもの(国家と大企業)への利益供与のシステムでもありました。

このように作り上げられた社会の中で日本人は生きることになったのでした。

「応分」「精神論」「自意識」など今に続く日本人の姿を解明していきたいと思います。

『菊と刀』を解説します②につづきます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?