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飲み会が最良のコミュニケーションと言う上司に「認識論的質問」を実践してみた

前回に引き続き、頑固な人の考え方を変えるのに有効だとされる「認識論的質問」を、色々な場面で実践しています。前回は言葉がきつすぎるパワハラ上司に試してみましたが、今回は「部下との信頼関係は飲み会で作られる!」と信じ切っている経営者との対話を記録しておきます。
「認識論的質問」がどんなものかは、前回の記事をご覧ください。

飲み会大好き社長との出会い

クライアントの人事部長から「エンゲージメントサーベイの結果がとてつもなく悪化してしまい心配だ。でも、社長は人事については自分なりの考えを持っていて、一切他人の意見に聞く耳を立てない。どうにかしないと・・・」とご相談を受けました。まずは、エンゲージメントサーベイが急落した真因を探っていきましょうという結論になったのですが、プロジェクト開始前に社長の承認が必要となり、事前面談を行うことになりました。
(エンゲージメントスコアの話はここでは無関係なので省きます)

社長に会う前の準備

当日いきなりだと厳しいかなと思い、事前に社長がどうしてそのような考えに至っているのか、人事部長に色々と聞いてみました。

・ポリシーは何か、そしてそのポリシーを持つに至った背景は?
・何かを指摘する際、「俺の経験上・・・」とか言っていないか?
・普段は理屈で説明するのか?根拠を示すか?
・普段の判断基準は「他もそうしているから」はないか?

などなど、社長の普段の口癖から、信念を形成するパターンを推測できる質問をいくつかさせて頂きました。人事部長のお話では「論理的に正しいか否か」で信念を形成していると予測して、面談に向かいしました。

いざ、社長との面談

面談当日は、社長と数名の幹部の方が同席する、とても和やかな場で、社長もユニークで話しやすい方でした。エンゲージメントスコアが急落した理由に、何か心当たりはないかと質問をしたところ、同席されていた幹部のみなさんからは
「昇給率が悪くなったことが原因では?」
「急に忙しくなり、人手が足りず残業が増えたから?」
など、いくつかの意見が出てきました。

全員が意見を言うのを待って、最後に社長が一言。
「コロナの影響で、飲み会が開催出来ていないことが原因」
と断言されました。

同席されていた幹部のみなさんからは、同意も否定も特に発信されなかったので消極的承認です。決して威圧的な雰囲気ではないのですが、社長が口にした言葉に対して、議論をする習慣はないようです。当日は外部の私がいたことで、普段と雰囲気が少し異なっていたのかもしれません。

まずは信念形成パターンを探ってみました

今回も社長の言葉に対しては、認識論的質問を投げかけてみました。

「コロナ前は、社員とよく飲みに行っていたんですか?」
「飲み会で、社員と絆がうまれたと感じたのはどんなとき?」
まずは、社長が「飲み会こそ社員との信頼関係を築く場」と信じ切っている背景を探るところから質問を開始してみました。

すると
「今でも一番尊敬する上司は、そうしていた」
「自分も若い時、失敗すると飲みに連れて行ってもらった」
「自分も真似をして、今までそれで成功してきた」
と、これまでの飲み会成功ストーリーを懐かしそうに語ってくれました。

認識論的質問のコピー

社長の信念形成パターンは
・信仰
・過去の成功体験
この2つのミックスでした。「信仰」は自分が信じている宗教の教えなどを一般的には指しますが、この場合は「最も尊敬する上司」が信仰の対象となります。事前に推測していたパターンとは異なっていました。

今回の1つの学びとして、事前に周囲の人から「口癖」などを聞いて推測する際は、周囲の人が対象者に抱いているバイアスが、かなり影響します。つまり、参考にはなりますが、当てにはならないです。

「認識論的質問」をぶつけてみました

社長の信念形成パターンが予測できたので、質問をぶつけてみました。

「尊敬する上司のどのような点を敬っていたのか?飲み会以外にも部下から信頼される行動・発言はなかったか?」
「これまで飲み会に参加していても、上手く関係が築けなかった部下はいなかったか?」

今回は、特に前者の質問が効果を発揮しました。尊敬する上司は「いつも責任を負ってくれた」「いつも自分の言うことを、不満も含めて聞いてくれた」などなど、当時を思い出しながら、たくさんの点が出てきました。

話していくうちに、本音を語り合えるコミュニケーションの機会が大事だと論点が少し変化していき、「飲み会」以外にそういった場をどうやって作るかにシフトしていきました。

飲み会=部下との信頼関係を高める方法
本音で語るコミュニケーション=部下との信頼関係を高める方法

このように社長自身が話しながら、「気付き」を得て、思考を変化させていたったのは、まさに狙い通りの展開でした。

但し、今回は社員のエンゲージメントスコア急落の真因を調査するためのプロジェクトだったため、この社長の推測は恐らく真因ではありません。

最後に今回の面談を経て、いくつか疑問があったので記しておきます。
「そもそも社長は頑固なのか?」
社員のみなさんが言い難いだけで、そもそも頑固ではなかったのでは?と疑問を持つほどあっさりと考えを変えて行かれたので、全てが「認識論的質問」の効果だとは言い切れません。ただし、多かれ少なかれ影響を与えた手応えはあったので、やはり有効な手法だとは感じています。

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