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【003】世界最大規模の複数国ラグビープロリーグ~Pro14~

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 今回は、一つの国の中でクラブチームが戦うのではなく、複数の国からクラブチームが参加して戦うリーグ(以下、「複数国リーグ」とする)Pro14を取り上げてみたいと思います。一般的に、サッカーやバスケなど他のスポーツでは一つの国の中にプロリーグが存在していますが、複数国のクラブが参加するリーグが存在するのはラグビーの一つの特徴とも言えると思います。なぜ単一の国のリーグではなく、複数国でリーグを形成することになったのか、歴史や背景を紐解いてみたいと思います。

Pro14とは?

Pro14とは、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、イタリア、南アフリカの5ヵ国からプロクラブが参加しているラグビーユニオンのリーグのことです。2014–15シーズンからスポンサーであるGuinessの名を付けて、ギネスPRO14(Guinness PRO14)とも呼ばれます。

 Pro14というリーグとしての歴史は新しく、1999年にウェールズとスコットランドのラグビー協会が立ち上げ、2001年にアイルランドが加わり、国対抗の国際試合への準備の場として、活気と競争力のあるプロクラブによる大会を提供することを目的に現在のリーグが形作られました。
 この3カ国は歴史的にもラグビーの発展のために連携しており、1886年に現在のワールドラグビーの元となるthe International Rugby Football Boardを立ち上げたことでも知られます。2010年にイタリア、2017年に南アが参画し、現在の14チームの構成となっています。(*1)

各国からの参画チームと国内リーグとの棲み分け

 アイルランドから参画している4チームは、Ulster、Munster、Leinster、Connachtというアイルランドを構成する4つの州を代表するチームです。これらの4チームはいずれも1870〜80年頃に創設され、非常に長い歴史を有しています。いずれも1995年のラグピーユニオンのプロ化に際してプロチームとなり、2001年よりPro14に参画しています。各チームはアイルランドラグビー協会(IRFU)の管轄下にあり、アイルランド代表の資格を持たない選手は控えも含めて各ポジション1名までしか登録できないなど、海外の選手の登録には厳格なルールが設けられています。
 なお、アイルランドには、All-Ireland leagueという国内リーグもあり、1990年に立ち上がり現在53チーム4ディビジョンで構成されています。All-Ireland leagueとPro14のチームの入替はありません。

 スコットランドから参画しているGlasgow WarriorsとEdinburgh Rugbyの2チームも、1870年代に創設された歴史あるチームです。スコットランドも、アイルランド同様に、スコットランドラグビー協会(SRU)が各クラブを監督するため、選手は代表戦を最優先できます

 アイルランド、スコットランドを例に挙げましたが、ウェールズ、イタリアも同様に代表チームに恩恵が大きくなっています。ほとんどの代表クラスの選手は自国のクラブでのプレーを選択することに加え、国ごとのクラブ数2〜4チームと少ないこともあり、他のリーグより有力選手が集中します。代表選手同士の連携が深めやすくなっていることが各国の代表チームの強化及びリーグの質を保つことに寄与しています。
 こうした各国のラグビー協会が深くPro14の運営に関与している背景には、ラグビー特有の代表選手に求められる条件が大きく影響しています。国籍主義ではなく協会主義と言われ、出生または居住の条件を満たす人が国の代表になる資格を持つことができるため、各国の協会のガバナンスが非常に強固となっています。(*2)

リーグの構成

 Pro14は、各チーム21試合を行うリーグステージと、リーグステージの上位のチームが進出できるノックアウトステージで構成され、年間152試合が行われます。
 リーグステージは、14チームが国ごとに同数ずつ2つのConferenceに分かれ、同一カンファレンス内でホームアンドアウェイ方式で各チームと2試合ずつ、各チーム計12試合を戦います。それに加え、交流戦のような形で相手のカンファレンスの7チームと1試合ずつ、各チーム7試合を戦います。また、特徴的な対戦カードとして、地域ダービーと称し、もう一つのカンファレンスに属する自国のチームと、各チーム2試合を戦います。Pro14に4チームが参戦するウェールズとアイルランドは2チームと1試合ずつ、ホーム1試合・アウェイ1試合を行い、2チームが参戦するその他の国は、1チームとホームアンドアウェイで2試合を行います。
 ノックアウトステージは、最大5試合が行われます。まず、各カンファレンスの3位のチームと、相手のカンファレンスの2位のチームで準々決勝を実施します。各カンファレンスの1位のチームと準々決勝の勝者で準決勝、準決勝の勝者同士で決勝を実施し、優勝チームが決定します。

Pro14の運営組織と収益規模

 Pro14は2005年8月に、アイルランド、ウェールズ、スコットランドの各ラグビー協会の出資により設立されたCeltic Rugby Designated Activity Company(以下、Celtic Rugby DAC)が100%の資本を持ち運営されてきました。2020年5月には、このCeltic Rugby DACにイタリアラグビー協会も出資すること、及びPro14の株式の28%に当たるおよそ約1億3千万ユーロをCVC Capital Partnersから出資を受け入れることとなった旨が発表されました。(*4)
 Pro14は収益などの情報を非開示としているため正確な情報は分かりませんが、収益の大半を占める放映権料収入で2017-18シーズンに4,000~5,000万ユーロを超える収益を上げたとされています。これはこのシーズンに南アフリカからCheetahsとSouthern Kingsという2チームを受け入れたことにより、南アフリカのテレビ局などから多額の放映権料収入を得ることができたためとされており、2015−16シーズンの放映権料収入のおよそ倍に当たるとされています。(*5)
 COVID-19の影響で3月12日以降リーグが中断されており、このままリーグの終盤戦が実施できなければ、各国のラグビー協会は1,500~2,000万ユーロの損失を被るのではないかとされていました。(*6)

 上記の様にPro14で想定される放映権料収入は、先日紹介したフランスのTOP14と比べても1割程度です。また、Pro14に参画する各チームに求められるスタジアムの収容人数の条件も5,000人となっており、10,000人を必要とするTOP14やイングランドのPremiership rugbyと比べてチケット収入も期待ができません。これらの情報から、具体的な数値が開示されないまでも、Pro14の各クラブはかなり厳しい経営状況にあることが想定されます。
 そういった背景もあり、近年は収益力向上を目指す取組が目立っています。一つが、先ほど述べたCVCからの投資を受け入れたことです。これにより、各クラブにも資金が配分されたとされています。
 他にも、Pro14は2019年5月にラグビー界で初めて、独自のサブスクリプションサービスを立ち上げたことが話題になりました。料金は、1試合3.99ユーロ、金曜〜日曜に見放題で6.99ユーロということです。現在どれだけの収益を上げられているのかは定かではありませんが、新たな収益源の確保にいち早く動いています。(*7)

観客動員数

 2001年のリーグ立上げ時には1試合平均の観客数は4,000人程度でしたが、直近5シーズンの1試合平均の観客動員数は平均8,500名程度で推移しています。平均してしまうとフランスのTOP14の約13,000人に遠く及びませんが、年間最多観客動員を記録した試合では直近5年で平均約59,000名を動員しており、いずれもJudgement Dayと呼ばれるウェールズの伝統の一戦で記録しています。Judgemnet Dayは、先述の地域ダービーの一種でウェールズの国内4チームによる対戦2試合が、約74,000人を動員できるMillennium Stadiumというウェールズの国立競技場の様な会場で行われます。

エモカル_ラグビーリーグ調査_v01

日本ラグビーへの示唆

 ここまで述べてきたように、伝統あるTier1の国々で構成されるPro14では代表の強化及びリーグの質の維持を狙い、海外選手の流入に強く制約を掛けています。一方で、OTTサービスへいち早く取り組む、ファンドから資本を受け入れるなど、伝統国で成り立つリーグと言えども財政的には厳しい状態にあり、変革を迫られていることが伺えます。実際に、現地の様々な報道では、今後も南アフリカの他クラブやヨーロッパの他国のクラブの参入、それに伴う放映権料の増大を検討しているとされています。
 日本のトップリーグは、2019年のラグビーワールドカップ後に元NZ代表キャプテンのKieran Readがトヨタに加入し話題となるなど、リーグへの外国人選手の誘致が積極的に行われています。日本選手ではキヤノンの田村選手の約4,000万円の年俸が最高額とされていますが、外国人選手には1億円近い年俸が支払われ、フランス・イングランドに準ずる報酬が得られること、NZやオーストラリアの選手にとっては、欧州と比べ時差が少なく治安が良いこと、試合数が少なく自国リーグとの兼任が可能なことなどから、外国人選手には人気の高いリーグだと言われています。(*8)
 現状で高待遇を実現しているのは、クラブを抱える各社の企業努力によるところが多いと考えられますが、プロ化を目指すということはクラブ単体の収益性が問われることになります。
 2019年のラグビー W杯で日本代表が高い注目を集めましたが、コロナ禍でせっかくの機運に水を差されてしまった感もある中、国内の放映権料だけで十分な収益を確保できるのかは難しいところだと思います。
 場合によっては、東アジア域の他国クラブを受け入れるリーグ運営なども積極的に検討することで収益性の向上と、東アジア域全体のレベルアップに寄与することでラグビー界全体の底上げにも寄与できるかもしれません。

まとめ

 今回は、ラグビー特有とも言える複数国リーグ、Pro14について見てきました。ラグビーが文化に根ざした国々を多く擁するリーグであるにも関わらず、代表の強化に重きを置いてきた戦略もあってかビジネスとしては非常に厳しい状態にあることが伺えます。伝統国の苦戦という事実からは、長くアマチュアリズムを是としてきた背景も関係するかもしれませんが、プロ化してからまだ25年と歴史が浅く、ラグビーというスポーツ全体がビジネス化に苦慮している印象を受けます。それは翻すと、これからプロリーグを立ち上げる日本にとっては世界の有力な選手を集め、ビジネスモデルを世界に示すチャンスがあるとも言えると思います。引き続き他国のリーグについても調査を進め、日本ラグビープロ化に向けて考察を深めていきたいと思います。

引用
(*1) https://www.pro14.rugby/about
(*2) https://www.worldrugby.org/wr-resources/WorldRugbyDIR/Handbook/English/pubData/source/files/Regulation8.pdf
(*3) https://www.sportireland.ie/sites/default/files/2019-11/ism-2019-mid-year-report-final.pdf
(*4) https://www.cvc.com/media/press-releases/2020/partnership-between-guinness-pro14-and-cvc-capital-partners-to-develop-the-league
(*5) https://www.rugbypass.com/news/why-pro14-could-soon-become-pro18-im-absolutely-keeping-on-with-my-negotiations-roux-south-africa/
(*6) https://www.irishtimes.com/sport/rugby/pro14/pro14-nations-could-miss-out-on-15m-in-tv-revenue-if-league-is-not-completed-1.4224352
(*7) https://www.sportspromedia.com/news/pro14-first-rugby-union-league-ott-service
(*8) https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201408290001-spnavi

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