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「PERFECT DAYS」

友人が「洋楽好きにとってストライクゾーンだと思う」と感想を寄せてきて、格別洋楽好きでもないけど、WIM WENDERSが描く東京、役所広司はどうなんだろうと気になっていたので、年内に観にいくと勢いよく返してしまい、その責任を果たすべくちゃんと!?年内に観にいった。

いろんなところで上映している作品は、今は殆どネットで予約してチケットを買うのだが、上映時間や場所をあれこれ探しているうちにどの映画館の予約を取ったのかわからなくなるのは私だけだろうか。日比谷に行かなければならないのに、30分前まで日本橋に行く気だった。軌道修正できる時間帯でよかった。電車で旧Twitterで私の尊敬する二階堂尚さんもこの作品中の音源を聴いている旨呟いていて、これは心強い。「PERFECT DAYS

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スカイツリーの麓なら押上あたりか、ひときわ日本の濃度が高いロケーションだろう。じわ、じわ、コツコツと精緻に積み上げていく平山さんの規則的すぎる日常を丁寧に収めるカメラワークは紛れもなくヴィム・ヴェンダース作品。早朝に起きて、歯を磨き、鉢植えに霧吹き、缶コーヒーを1本買ってカセットテープで音楽を聴きながらトイレ清掃の現場へ向かい、お昼にコンビニのサンドイッチと牛乳を飲み、フィルムカメラで木漏れ日を撮り、仕事を終えたら銭湯で清め、馴染みの居酒屋に寄り、本を読みながら眠る。これらのシーンが何度も出てくるのだが、ひとつひとつがあまりに豊かで、平山さんとしての「perfect day」を彼自身が大事に噛み締めている音が聞こえる。コインランドリー、自室の掃除、フィルムの現像とプリントのピックアップでなぜか柴田元幸さん、古本屋で犬山イヌコの1行書評、石川さゆりが供するポテトサラダって突っ込みたくなる休日だけ行く居酒屋、週末のルーティーンも作品を観終える頃は大体私たちも覚えている。規則正しい生活を実践し音楽と文学を求め、それらを平山さんのリズムで取り込んでいく。美しく、知的で幸せな日々とはこのことだったのか。PERFECT DAYSの響きが付帯する勝手な尾鰭が木漏れ日の光に溶かされていくような、そんなシーンも随所に現れ、そこは私はヴィム・ヴェンダース作品であることを思い出させる瞬間でもある。
たまに彼の平穏を乱す出来事がちょいちょい起こる。平山さんは無駄に解決しようとしない。受け入れてしまう弱さもある。それでも規則的な朝がまた訪れ、平山さんは仕事に出かけるために家を出た時、どこかを仰いで微笑む。平山さんの幸せが勝つ瞬間。
綴るほどに陳腐になるので、映像に早く身を委ねてほしい。
私は幸田文の『木』もいいが、パトリシア・スミスの『11の物語』というのも早く読みたい。

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