見出し画像

試合の緊張も悪ではないかも

以前に、ストレスは必ずしも悪いものではないということを書きました。
今回は試合での”緊張”について考えます。

昔、大事な試合がある時、どのくらい前から緊張しますか?とアンケートを取ったことがあります。答えは様々でした。
多かったのは、「前日」や「直前まで緊張しない」でした。
一方で、「先発に決まった日から」「1か月前から」のような人もいました。先発と控えでは随分と心構えが違うんだろうと思います。

この違いは”緊張”をどう定義するかにもよると思います。
「直前まで~」という人は胸がドキドキ、頭がかーっとするような状態を指していたのかもしれません。
ネットを見ていると緊張は「」で緊張感は「良い」と考える立場もあるようですが動作法の考え方で言葉の整理をすると

緊張”は交感神経が働いておきる身体的な反応(胸がドキドキ、筋肉が硬くなる、手に汗をかくなど)
緊張感”がその身体的な反応を感じているこころの感じ方

スポーツ心理学の世界では試合での”あがり(過緊張)”が課題であり、どうやって試合であがらず実力を発揮できるようにするかが研究されてきました。この”あがり”は英語では”performance anxiety”と言います。 "anxiety"は不安という意味です。

その知見の一つが
”あがり”つまり、緊張の状態を認知的にどう解釈(appraisal)するか、そのとらえ方によってパフォーマンスへの影響が良くも悪くもなるというものです。これは、認知が感情を引き起こすという認知療法の考えを元にしています。

要するに、試合前に心臓がドキドキしているのを
「よし、興奮してのってきたぞ」と思うとやる気モードになって良い影響を与える。
「どうしよう、緊張してきた~」と思うと不安になるということです。不安な気持ちが強いと脳が上手く働かないので普段の実力を発揮するのが難しくなります。

練習やコンディショニングが上手くいっていて自信がある時は、試合が楽しみでワクワクするかもしれませんが、逆に、不調な時や痛みがある時はそうは思えないでしょう。こうした要素も”緊張”をどう解釈するかに影響を与えます。

動作法を継続していた学生さんがある時、
動作法をする前は試合で緊張してきた時「どうしようー!!」と焦ったけれども、動作法をするようになって、緊張に気づいても「あー、緊張してるなあ」としか思わなくなった。結果、試合で実力発揮できるようになったということでした。

緊張して前日は一睡もできなかったけど、試合になるとちゃんと身体は動いて、いつも通りできたということもよく聞きます。だから、前日に緊張していたからと言って必ずしも試合で悪い状態に陥るわけではないのです。

どちらかというと、危険なのは、前日でも全然緊張してないという場合のように思います。大事な試合なのに”緊張”しないはずがないのですから、そういう人は単に筋緊張に気づいていないだけの可能性があります。でも、あるもの(緊張)は勝手にはなくなりません。気づいていないだけなので、突然試合直前に身体が硬くなって動かなくなるという体験をすることになります。緊張を”悪”と思うから、「そんなものはない」と思いたくなるのでしょうか。

ところが、研究では、緊張の程度よりも、頻度(試合のことを考える回数)の方が影響があると言われています。確かに、試合のことを考えるたびにからだのどこかに筋緊張が起きているとしたら、何度も繰り返し、試合のことを考えていると知らずに過緊張を溜め込むことになります。だから、直前まで緊張しないという人も試合のことを考えない、意識しないはずがないので、やっぱり単に緊張をためていることに気づいていないだけじゃないのかなと思います。

スポーツの場面で”緊張”はもちろん必要です。ダレっと弛緩しきった状態で“競う”なんてできませんから。別の学生さんに漸進性筋弛緩法を教えると、「これはものすごく力が抜けるから、今度の試合前にフルでやります」といったので、〈力が抜けすぎるからやめておいた方がいい〉と言うと、「自分は絶対緊張する人で抜けすぎることはない」と断言してトライしました。試合後に来談すると「びっくりするほど力が抜けて、ふにゃふにゃになって力が入らないとやる気も起きずダメでした。試合であんなにやる気がないのは初めてでした!」いろいろ試すことを楽しんでいる学生さんだったのでがっかりよりも、驚きの方が勝っていた様子でホッとしましたが。

試合の”緊張”も必ずしも悪でないどころか、必要なんです。
”緊張”に気づいて、どうとらえるか、どう対処するか、その体験の仕方がパフォーマンスに影響するということです。