リーナのトルタ・ディ・パスクア
イースター(復活祭)が来るとリーナのことを思い出す。リーナはイースターにはトルタ・ディ・パスクア(イースターのケーキ)を作ってくれた。リーナは私のことを姪っ子のようにかわいがってくれたお隣さんだ。
リーナには子供がいない。何度か流産し、結局子宝には恵まれなかった。夫のジャコモとはすごく仲良しだった。ジャコモが病気で亡くなってからも、リーナの中ではまるでジャコモが生きているかのようだった。
イタリアのイースターでは、日本のお正月並みに特別な料理を食べる習慣がある。特に子羊料理、デザートはコロンバという鳩の形をしたスポンジケーキのようなお菓子と卵型のチョコレートの中におもちゃが入っているイースターエッグ。イタリアの子供にとってはこれを割るのがワクワクの瞬間なのだ。
とはいえ、そもそも南イタリアに比べ、北イタリアでは伝統的料理をがっつりファミリー総勢で食べるというようなことはあまりない。特に我が一族は親戚全員がミラノに住んでいる典型的北イタリア人なので、親戚と一緒にランチ(といっても外食)することもあるものの、大抵は誰かしらがバカンスでどこかに旅行に行っていて、ファミリーが揃うことはない。私はこうして実にクールな感じでイースターを過ごしてきた。
でもお隣のリーナはウンブリア州という中部イタリア出身なので、私のために毎年必ず、トルタ・ディ・パスクアという彼女の地方の名物料理を作ってくれた。これはスポンジケーキのような成りをしているが、チーズ(ペコリーノという羊乳のチーズ)が入ったしょっぱいケーキ。リーナには言えないが、ちょっとぱさぱさで正直なところ、ものすごく美味しいというシロモノでもなかった。
それでも私は毎年、このトルタを食べた。リーナが大好きだから、トルタがおいしくてもまずくても、そんなことはどうでもよかった。そして今やトルタ・ディ・パスクアがないと、イースターが来た気がしなくなった。
リーナ、あなたがいたら、今年もイースターが来るのに・・・。今年はもう私にはイースターは来ないんだね。
(写真はWikipediaより引用)
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