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赤い口紅

断捨離が流行りミニマリストが増えた昨今。物が溢れる時代だからこそ、物を厳選することが心と時間の余裕につながる。そうはいっても使わないのに捨てられない物がある。

Diorのルージュアレーヴル、トレトレディオール832。旅行好きな叔母から譲られた口紅だ。私の手元にいつからあるのか覚えていないが2000年に発売開始、すでに廃盤になっているので、トレンドどうこうではなく口紅としての使用期限をとうに過ぎている。(一般的に、未開封でも3年を超えると化粧品は変質するので使うべきでない。)塗ることはないが、手放す気にならない。

六角形の青い容器に金字のロゴ、そして鮮やかな赤。子供が母の化粧品を羨ましく眺めるような、初めて百貨店の化粧品売り場を訪れた時のような、そんな化粧への憧れを思い起こさせる口紅だ。重厚感のある「ザ・口紅」という佇まいとその色に、どんな人なら似合うのだろう、いつかつけこなせる大人になりたいなあと幼心に思ったことを記憶している。

ベージュやブラウン、ティントにグロス、どんな色や質感の口紅が流行しても赤リップを持っている人は一定数いるのではないか。赤リップだけを持つ人は少なくとも、二、三本目には赤を持ちたくなるのは、赤リップが自分の気持ちを高めてくれることを知っているからだろう。ブラシでしっかり輪郭を取りきちんと発色させるメイクではなく、あえてぼかすようなつけ方をしてでも赤を塗りたい時がある。

派手な口紅と短いスカートは不景気に流行るそうだ。好きな物を好きに選んでいるのだから、つまらない分析をしないでと言いたくなるが、間違いでないとも思う。それをまとった時の心地よさよりも、自信を身に着けることを優先させたい心理だと思っている。

赤リップは加減を失敗すると口だけ浮いてしまうし、ラインががたつくと途端に残念になる。歯紅(歯に口紅がついてしまう状態)になるとみっともないし、食事をすればはげたりグラスについたりと、とにかく気を使う代物だ。ほんのりピンクであれば簡単で可愛らしいし、場も人も選ばない。それでも濃い色から淡い色までとにかく様々な口紅を試した時に、赤リップは分かりやすくエネルギーをくれる。(透け感のある赤リップやメイクしやすいものも最近は多いです。研究開発職の方々に感謝。)

マスク生活で口紅の低迷が進むも、マットな質感や新処方による落ちない・マスクにつかないリップは在庫切れを起こすほどの売れ行きだ。マスクを外すひと時のため、自分の気持ちのため、見えても見えていなくてもつけていたい、そんな心意気か。もはや赤に限らず、口紅をつけていること自体がマスク生活以前の赤リップへの意識とリンクする。それをつけている人を見るとハッとする、美意識の一片を窺い知る気持ち。きれいな化粧をしている人を見ると自分も化粧を楽しもうと思える。化粧が作業になっていないか、問いかけてくれるお守りがこの赤い口紅だ。



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