ナンパについていったらヤラれそうになった話①〜ナンパ待ちをして居酒屋へ〜

これは、わたしが大学生のときの話。
飲酒の話が出てくるので年齢は伏せますが笑、まだ世の怖さを知らず、男の人を舐めてた時のお話です。

その日、私は友人のサナとご飯を食べていると盛り上がってしまい、うっかり終電を逃してしまった。
タクシーで帰るか、どこかで始発を待つか。
しかしサナがその日はバイトの給料日前ということで、どちらからともなく
「よし、テキトーに男に払ってもらおう!」
と、幼稚かつ最悪なプランを立てた。
「ただこんな時間から知らない人と朝まで4時間くらい飲むのだるいよね。」
「だるすぎ。キャバの体入行く方がマシ。」
「ナンパしてくるやつの話とか絶対30分で飽きる。」
「あ、じゃあさ、一組につき一杯だけ奢ってもらって、一杯飲み終わったら店出て、何組か回して始発待とう!
それなら30分ちょっとだし、飽きずに楽しめそう!」
「それいいね!」

史上最低の夜明けを待つ女子大生の完成の瞬間である————


さて、私たちは、いつもナンパが多いため面倒で避けていた、駅の北口の前の広場に向かった。
いわゆるナンパスポット。
いつもなら早歩きで通り過ぎるもう閉まっている賃貸専門不動産ショップの前でわたしたちは足を止めた。
金曜日なので、まだ人通りは多い。

「これでナンパされなかったら笑うよね。」
「そしたらもう逆ナンしよう。」
「とりあえず何分でナンパされるか計ろうか。JDの市場価値を調査ってことで。」
「いいね。これを数年に一回して、時間がどう変化するかレポート書こう!」
と話しながら、わたしがタイマーを使おうとバッグから携帯を出したとき———

「ねえ、何してんの?」
タイマーを押す前に、二人組の男たちが声をかけてきた。

二人とも、背は170センチ弱。
同じような茶髪をワックスで固めたヘアスタイル。
一人はTシャツ、一人はストライプのシャツで、二人ともストレートの同じようなデニム。
歳は私たちと同じくらいか。

「え?えーと。時間測ってた。暇だから。」と私が言うと、
「なにそれ!」と男たちが笑う。
「俺ら今バおわで飯行くとこだから、一緒に行かない?」
私たちは顔を見合わせた。

「んー、奢ってくれる?」サナが聞く。
彼女は大学でも有名になるくらいの美しさで、世田谷で生まれ育った内部生でとても洗練されており、わたしに東京での遊び方を全て教えてくれた親友だ。
地方の女子校で育ち、あまり男性にははっきりと主張できない私をいつも叱ってくれ、私が東京で危ない目に遭わないよういつもアドバイスをくれていた。

「当たり前じゃん!奢る奢る。」男の一人が言うと、彼女は
「行ってもいいけど、朝までとかはないよ。私たちもうご飯食べたから、一杯だけならいいよ。それでもいい?」と返す。

私にはとてもこんな交渉はできない。美しく聡明な私の親友は、男の人にも決して物怖じしない。

男たちが快諾したため、私たちはすぐ近くの居酒屋に向かった。
居酒屋に向かいながら、わたしはたった一杯だと言ってるのにものすごく嬉しそうにしている彼らを見て、不思議な気持ちになっていた。
なぜ男たちは私たちと飲みたがるのだろう。彼らの誘いに高飛車に応える女に、自ら接待を申し出る。
たった一杯ならセックスできる可能性も限りなく少ないのに。

居酒屋で、簡単な自己紹介をする。
男たちは、年上だったが大学生だった。
彼らはそれぞれビールと食事を頼み、サナはジントニック、私はカシスオレンジを頼んだ。

サナが「ちょっとトイレ。」と席を立つ。
今ごろお酒の飲めない友人は、ジントニックにはジンを入れないように、カシスオレンジはカシスリキュールを少なくするように、またそれを連れの前では決して口にしないようにと、店員さんに伝えているはずだ。
これは彼女に教えてもらった、東京での遊び方のひとつ。
場を盛り下げず、しかし判断力の低下はしないように。

男たちと個人情報に気をつけながら大学の話をしているうちに、彼女が戻ってきた。
しばらくして、店員さんがドリンクを運んでくる。
男たちにビールをサーブし、「ジントニックのお客様。」と、ライムカットの入っただけのトニックウォーターをサナの前に置く。
背が高く、少し長めにカールした黒髪に切れ長の目の素敵な店員さんが、イタズラっぽい目で私に微笑み「カシスオレンジです。」と殆ど赤みのないオレンジ色のカシスオレンジを私の前に置き、わたしはぼんやりと「こういう人とならふつうに飲みたいのになあ。」と考えていた。

しかし、私の今の相手は目の前の大学生たちだ。
就活の話をしている。専門外の業界の話だったので参考程度にしかならないのだが、就活の話は素直に興味が持てた。
しかしそんな話は数分で終わり、そこからはセオリーどおり恋愛の話からセックスの話。
興味のない男の恋愛やセックスの話ほどつまらないものはない。どんな子と付き合っていたのか、どんな子を可愛いと思うのか、SかMか、好きなプレイやしてみたいプレイ。
男たちは誰しもそんな話を嬉々としてしてくるが、私はネットの掲示板の本当か嘘かわからないようなセックスの体験談を毎日のように読み漁っていたので、彼らの話はいつも陳腐に聞こえた。
また、わたしには経験がなかったため、彼らのする質問にもうまく答えられず、盛り上げることもできなかった。

「そろそろ行こうかな。」
殆どオレンジジュースのカシスオレンジを飲み干し、私は言った。
男たちが驚いた顔でこちらを見る。
「え!?まだぜんぜん時間経ってないじゃん!」
私は内心「確かにそうだよな。」と思いながらもサナの方を見ると、
「でも一杯だけって言ってたよね。」と彼女がすかさず言う。
頼りになるわたしの親友。

一人の男が怒りを孕んだ声で、
「いや、それはなくない!?」
と言い始め、私は少し怖くなってしまうが、サナが私の手を取り突然立ち上がった。

「私たち、最初に一杯だけって言ったじゃん。」
そう言ってバッグを肩にかける。
「えみり、行くよ。」

呆気に取られる男たちを置いて、私は慌ててバッグを掴み、友人に手を引かれて店の外に出た。


そのまま小走りに近い早歩きで駅まで向かう。
駅はとっくにシャッターが閉まっていた。
私は男たちが追ってこないか不安で何度も後ろを振り返りながら、ずんずん歩いていくサナを追った。

終電が終わったとはいえ、まだ金曜日の喧騒の残る駅前でサナが足を止めた。
不安気な私の顔を見て「ぷっ」と吹き出す。

「ちょっと、びびりすぎだよ!」彼女が笑う。
「だってあの人たち怒りそうで怖くなっちゃって。」私が言うと、
「大丈夫だよ。先に向こうの奢りだってことも一杯で帰ることも言ってるんだから。
私たち何も悪いことしてないでしょ。」

美しい彼女の自信に満ちた笑顔を見ていると、とても安心した気持ちになれる。
私は笑顔で頷いた。

時計を見ると、2時。始発までまだまだだ。
「どうする?まだやる?」私が聞くと、サナは
「次はえみりもカシオレじゃなくてジン抜きのジントニックにしなよ。いくら薄いって言っても一気飲みしないほうがいいから。」
と言ってまたナンパスポットのほうへ歩き始めた。

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