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レモンの想い出

長女のピアノの先生のお宅には、立派なレモンの木がある。毎年収穫の時期になると、いつもおすそ分けをしてくださる。

いただいたレモンを、唐揚げなどの揚げ物に絞りかけるだけではなんとなくもったいなく思え、レモンの砂糖漬けを作ることにした。

子どもの頃、祖母の家でよく食べたあのレモンの砂糖漬け。そう思いついたら、無性に食べたくなった。

レモンを洗ってまな板の上に乗せ、ザッザッと包丁を入れる。すると、ツーとレモンの新鮮な香りがまっすぐ鼻の穴の中に入り、ぼんやりとした頭が冴えてくる。

祖母が作ってくれたレモンの砂糖漬けの味。大好きだったおばあちゃんとの想い出の数々が頭の中を駆け巡る。

次いで脳内に入ってきたのは、「レモン哀歌」の一節。

わたしの手からとつた一つのレモンをあなたのきれいな歯ががりりと噛んだ

「レモン哀歌」(高村光太郎『智恵子抄』より)

祖母に会いたい。
もう一度会えたら。

祖母と私の思い出は、祖母も私も忘れてしまったら、消えてしまうのだろうか。忘れたくない。

まだ十分に浸かり切っていないレモンの輪切りをがりりと噛んでみるのだった。

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