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習近平のサウジアラビア訪問の狙いとは?中国が近い将来、台湾に軍事行動を起こすなら、油の確保が最優先だが…

■習近平のサウジアラビア訪問は、なぜこのタイミングなのか?

 中国国家主席の習近平は、今週(8月15日~)サウジアラビアを訪問します。習近平にとっては実に3年ぶりの外交訪問となりますが、なぜこのタイミングなのかが気になるところです。

 ペロシ米下院議長の台湾訪問後に、台湾を囲む形で軍事演習を始めた中国ですが、パンデミック以降、徐々に国際舞台で孤立してしまっています。直近では親中派だったスリランカの政権が崩壊し、新政権は中国と距離を置いているし、バルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)が中国と東欧の協力フレームワークから脱退すると発表したばかりです。

 中国にとってサウジ訪問は、国際舞台で孤立していないというアピールをするのと同様にエネルギー資源の確保という国家戦略の二つの観点で重要です。サウジ政府の待遇もバイデン大統領より豪華になる見通しです。バイデン大統領の訪問は静かに行われましたが、習近平の訪問は2017年のトランプ元大統領の訪問並みに豪華な待遇になると報じられています。

■トランプ元大統領は、2017年に最高額の武器売買契約を締結。バイデンが冷遇されたのは無理もなかった…

 2017年5月にトランプ元大統領は就任後初の外遊でサウジアラビアを訪問し、米国史上最高額となる武器売却契約を結びました。この契約は米国がサウジに初期段階で1100億ドルの防衛用武器を売却し、軍事サービスを提供するという内容でした。また、今後10年間かけて米国はサウジにさまざまな軍事支援をするという、合計金額が3800億ドルに及ぶ大型合意でした。

 この巨額の買い物はもちろん条件付きでしたが、その条件とは米国がサウジ・イラン対立でサウジの肩を持つことでありました。オバマ政権の8年間では米国の中東におけるプレゼンスが弱体化し、またイランとの外交関係も正常化しつつありました。もっとも大きな出来事は、イランと欧米諸国の核開発合意でした。

 ドナルド・トランプは2016年の大統領選挙のキャンペーン中にオバマ政権のイランとの核合意は米国史上最悪の合意のひとつだと猛烈に批判し、大統領就任後に核合意を白紙に戻しました。

トランプ大統領、サルマン国王とエジプトのシシ大統領が2017年5月21日に、反過激主義世界センターをサウジでオープン。ここでの会合は中東にとっては象徴的な出来事であり、その後、カタール、サウジ、シリアとイランで大きな動きが起きた

 王位継承順位が3位だったモハマド・ビン・サルマンが皇太子になり、実権を握った背景にもトランプ政権の強いバックアップがあります。モハマド・ビン・サルマンはトランプの娘婿であるジャレッド・クシュナーとも非常に仲がいいです。

 つまり、バイデンがサウジで冷遇されたのは無理もありません。バイデン政権はオバマ政権の継続のようなもので、イランとの核合意の復活に尽力しているし、ジャーナリストのカショギ氏の殺害についてもサウジ政府を強く批判していました。

 しかし、原油高によるインフレ高騰が米国の立場を弱体化させ、バイデンがサウジを訪問せざるを得なくなりました。

■習近平のサウジ訪問にもっと深い「真の理由」がないことを願う

 習近平のサウジ訪問については色々な角度からの分析は今後も行われるでしょうが、個人的な願いは、この訪問にもっと深い真の理由がないことだけです。

 私が何を言っているかわからないかもしれないので、簡単に説明しますと、戦争を起こすにはまず準備が必要です。最大の準備は油の確保。油がないと船も戦車も戦闘機も動きません。中国はパンデミック以降、ありとあらゆる資源を買い溜めして備蓄してきているため、とても嫌な予感がします。

 このタイミングで習近平がわざわざサウジに向かっているのも非常に嫌な感じがしています。中国が近い将来、台湾に対する軍事行動を起こす気があるなら、油の確保が真っ先にやるべきことです。そして、その油をマラッカ海峡を通さずに、ミャンマー経由で中国に届けるパイプラインの建設も終わっています。「新冷戦の巨大プレイヤー」は一つ一つ丁寧に駒を動かし始めました。

中国が近い将来、台湾に対する軍事行動を起こす気があるなら、油の確保が真っ先にやるべきことになる© AdobeStock


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