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眠りにつくまで


目が覚めたら、一緒に寝ていたはずの彼が隣にいなかった。

不安になって見渡すと、ソファで眠る彼を見つけてほっとした。

前日、私は仕事でしんどいことがあって、年甲斐もなく会社で少し泣いてしまった。誰にも見られないようにしていたつもりが、彼の目に留まってしまったようで、業務用のチャットで「何かあったの?」とメッセージが来ていた。

「何でもないです」と返したけれど、なんのためにそんな嘘をついたのかはわからない。

今日は仕事終わりそう?鍵ロッカーに入れといたから、というメッセージを残して20時ごろにひと足先にオフィスを出て会食に向かった彼。

21時すぎ、急ぎの仕事だけ終わらせて私もオフィスを出て彼の家に帰った。シャワーを浴びて、残りの仕事をやらねばと思っていたところに彼が帰ってきた。

換気扇の下でタバコを吸いながら、なんで泣いてたの?と聞く彼。本当は全部吐き出してしまいたかったけれど、そんな気力もなかったし、弱い自分を見せるのも嫌で、ちょっとキャパオーバーでした、と一言だけ返した。

そのあと、ソファで座る彼に無言で抱きしめてもらいに行った。それだけで充分だった。


ウーバーイーツでマックを頼んで食べてお腹を満たしてから、2人で仕事をした。その間に洗濯を回して、全部終わった頃には1時半近くなっていた。


ベッドに入って、抱き合って、彼が私にキスをして、私も返して、そうやって眠りにつく瞬間がたまらなく愛おしくて、同時にたまらなく寂しい。

やわらかい彼の体温。あたたかい彼の匂い。それらに包まれる感覚が幸せだ。

だからこそ、彼が眠りについて意識を手放す瞬間、緩む腕が寂しい。手を握っても握り返してくれない感覚が切ない。



私は何度も目を覚まして、彼を抱きしめ直す。彼の腕から離れてしまわないように。そうすると彼も少しだけ目覚めて、抱きしめてくれる。好きだよ、と小さく呟きながら。そして私も、私も好きですよ、と返す。そうやって安心してまた眠りにつく。


だからこの日、朝目覚めて彼が隣にいなくて、すごく不安になってしまった。

夜中の3時くらいに、歯が痛いと言って起き上がっていたのをうっすらと覚えていた。そのままソファに移動して寝てしまったようだった。


起きる予定の時間よりも1時間も早く目覚めてしまったけれど、なんだかこのまま1人で起きるのも嫌で、狭いソファに無理やり体をねじ込んでもう一度寝た。


起きてから彼はなぜソファで寝ていたのか覚えていなかった。



どこにも行かないでくださいね。眠りにつくまでも、眠ってからも、できればずっと抱きしめて離さないでくださいね。私はとても寂しがりやなので。


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