終わりの見える恋
最初から終わりの見える恋をしたことがある人はどれほどいるだろうか。
きっと多くはないだろう。
私はその多くはない恋を現在進行形でしている。
彼と付き合い始めて1ヶ月とちょっとが経った。今までの私からしたら「まだ」1ヶ月。今の私にとっては「もう」1ヶ月。
終わりが近づいてくるのが怖いからそう思ってしまう。
彼は転勤族で例年通りなら来月、遅くても年明けには辞令が出る。私は来年の3月に大学を卒業し、就職する。
彼の転勤先と私の就職先の地域が被る可能性は良く見積もっても10%にも満たないだろう。
このことは付き合う前から分かっていた。それでも私たちは付き合うという選択をした。
付き合い始めて、お互いがお互いのことをどんどん好きになった。でも、お互いに忙しいこともあったから、依存することなく程よい距離感で1ヶ月過ごしてきた。
私はこの距離感なら遠距離になってもうまくやっていけると思っていた。でも彼は違った。
「別れなきゃいけないね」
もうすぐ辞令が出るという話をしながら、彼がそう言った。この話とこの言葉を彼から聞くのはもう3回目くらいだった。
以前にもしっかり聞いたはずのその言葉を再び聞いた瞬間、私はどんな顔をしたらいいのか分からなくなってしまった。
だから、ただ、
「別れたくないよ。だって好きだもん。」
そう返すことしかできなかった。
彼は困ったような顔をした。またその顔だ。ぐずる子どもに向けるような困った顔。
彼は私と手を繋ぎながら一体何を考えているのだろうか。一体どんな気持ちで私に大好きと伝えるのだろうか。
好きなら遠距離になろうが付き合い続ければいい。私が純粋にそう思うのはまだ大人になりきれていないからなのだろうか。
一度は結婚を経験し父となった彼にとって、誰かと付き合うこととはどんなものなのだろうか。私には分からない。
もし、自分の過去に引け目を感じて私にはもっといい人がいるとか、自分はこの先幸せになる資格がないとか思っているのなら、それはお門違いだ。彼は私を選んで、私も彼を選んだのだから。遠距離だろうが何だろうが嫌になるまで一緒にいるのが恋愛ってものだと私は思う。
そんなのは全部綺麗事だってことは、百も承知だけれど。
だから、どうか彼と過ごす時間が1秒でも一瞬でも長く続きますようにと願うことしかできない。
悔しくてたまらない。
こんなに好きになるはずじゃなかったのに。
きっと私は最後まで彼の心を変えることはできなくて、彼の困った顔を見つめることしかできないのだろう。
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