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ぼろアパート物語「最終夜」

大家さんにこのアパートを出る旨を伝えた。

大家さん「あなたはしっかりしているし、どこに出しても恥ずかしくないわ。大きな企業に勤めているし将来安泰よね。」

引越しの準備。

赤帽を手配し、パンパンに荷物を乗せた。

これでこのアパートともお別れ。

・・・何度目だろう。そして、あと何回あるだろう。

引越しの日の寂しさを味わうのは。

もう二度と戻れない日々を思うのは。

アパート階段で、住民たちと記念写真を撮った。

またいつでも遊びに来れる・・・その時はそう思っていた。


数年の月日が流れ・・・

用事があって東京に戻った時のこと。

近くまで来たので、あのアパートを見に行った。

あるはずの場所になかった。

取り壊されたのだろう。

周りの様子も少し変わっていた。

わずか数年。

もう二度と戻らない過去の日々を思った。


その後、あの201号室や102号室の彼女たちは無事に卒業していった。

彼氏とどうなったかは知らない。

103室のゴミ部屋の彼女は、私が引っ越す前に引っ越していった。

詳しい事情はわからないが、大家さんのところに田舎のご両親が来て頭を下げていったとか。

105号室の姉さんは、突然故郷に帰った。結婚することになったそうだ。

あの「想い人」とではなく、親が決めた人とらしい。


一度集まって、また散っていく。

人と人との出会いはただの偶然かもしれないし、何かプログラムされていたことなのかもしれない。

ただ、さらにそれから時が流れ、中年になった今思うのは、あの青臭い日々がやたら懐かしく思われることだ。


これで、私の小話は終わりです。


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