変わる時代のコンサートホール➁
財政縮小、官民連携、業務委託に指定管理…。変わりゆく時代に、文化行政は、劇場はどのような役割を果たすべきかを考えるこのコラム。以前「変わる時代のコンサートホール①」を執筆したのは、なんと1年前ですよ…。お待たせしました、第2弾です!
➁アルコーラ劇場(英国・ロンドン)
演劇・オペラの制作と地域連携に特化した劇場。イケテル。何がイケテルかって、まず Instagram がイケテル。
イケテルポイント①:
子どもから大人まで。アマチュアからプロまで。演劇の担い手とファンを増やす仕組み
アルコーラ劇場の事業でまず目を引くのは、育成プログラムの多様さ。担い手を増やし、担い手の家族や友人を観客として引き込み、演劇ファンのすそ野を地域に広げていく取組みが多岐にわたって展開されています。
9歳~15歳の子ども向けに年齢別で毎週2回のレッスンを行う Young AYT ・ Arcola Youth Theatre、16歳~25歳の若者向けにさらに本格的なセミプロ俳優育成を目指す Arcola Academy では、プロの役者たちが、年齢ごとに異なる成長や悩みに寄り添いながら指導にあたります。
さらに秀逸なのは、Community Company という仕組み。演劇がさかんなロンドンにはアマチュア劇団がたくさんあり、「コミュニティ劇団」「コミュニティ・シアター」と呼ばれています。国籍、人種、ジェンダー、年齢など多様なバックグラウンドや地縁をもとに組織されており、アルコーラ劇場では5つのコミュニティ劇団を支援しています。
支援の内容は、プロの役者による演技指導、脚本制作や作品解釈・演出への助言、音響・照明などテクニカル面での支援、練習・舞台制作場所提供。毎年2~3月に「創造的破壊」という(シュンペーターの概念を彷彿とさせる)タイトルの演劇祭で、優良な作品は一般向けに上演されます。
イケテルポイント➁:
たぶん世界初なんじゃないか。電力会社を建てちゃった劇場。
2000年に、旧劇場から新しく建て替えられた当劇場。財源のひとつである英国アーツカウンシルの強いガイドラインを意識して、新設当初から「持続可能性」がキーワードになっており、2007年からは自然エネルギーを活用した劇場経営を模索。2010年には水素発電を各種インフラに導入するサプライチェーン Arcola Energy を作っちゃいました。
しかもその資本金は、劇場のコミュニティ・プログラムから得た収益だそうな。どっひゃー。
それから屋根にある太陽光パネルで自家発電。劇場で使う電力の供給をまかない、余ったら地域の人に売るそうな。で、その売上げはまた劇場経営に還元されるそうな。なんじゃそりゃー!
イケテルポイント③:
多様性へのはたらきかけ。移民社会への向き合い方。
先ほど紹介した5つのコミュニティ劇団は、多様なバックグラウンドをもった地域住民に、演劇を通してコミュニティを作るきっかけとなっています。
・性的マイノリティ(LGBTQI)当事者が、「クィア・アイデンティティを探り、演劇としてどう表象するかを探究する」グループ
・「精神疾患をめぐるスティグマを打破するために演劇を使う」グループ
・「演劇とパフォーマンスを探究する50歳以上」の住民グループ
・「イースト・ロンドン在住のトルコ系・クルド系住民に演劇で声を与える」グループ
・「演劇を演じ、声を集めることで女性のアイデンティティと経験を探究する」グループ
さらに Arcola Lab では、民族的マイノリティや難民などの背景をもち、表現の機会が限られてしまうプロの演劇人に対し、最大1週間の無料リハーサル場所と上演の機会を提供しています。一種のアーティスト・イン・レジデンス事業ですね。
イケテルポイント④:民間に支えられた経営
アルコーラ劇場の年間支出は150万ポンド。そのうち20%をアーツカウンシルなど公的財源から、80%を個人・法人からの寄付でまかなっています。
寄付の仕方は、年間会員の他に公演ごとに応援できるシステムもあり、ワンコインから気軽に参加できるよう工夫されています。「Game Changer」など、額に応じて英国らしいウィットの効いた称号が得られるのも、なんか楽しいです。
(つづく)
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