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韓国木浦で金木犀と銀木犀

先日、韓国の田舎の温泉で出会った金木犀の話を書いた。

https://note.com/emikorea_love/n/n43e17db4d89e




韓国では金木犀でさえ日本ほどは目にすることが無いけれど、
白い花をつけるあの銀木犀にも会いたいな~と、ふと思った。
それを軽く口にしてたら、二日後銀木犀の木に出会った。
それは木浦(モッポ)という海辺の町だった。



木浦は韓半島の西海岸沿いの南端に位置する町。
ソウルを400キロ位南下した韓国の端っこ。
今では人口25万人の田舎町だけど、
物資と人の交流ルートがほぼ海路だった100年前は
朝鮮ナンバー5というレベルで栄えた大きな港町だった。
日本の占領時代、木浦には多くの日本人が住んでいた。



その当時に出来た共生園という福祉施設が今もある。
いや、今でもどころか昔より格段に大きくなって存在してる。
それは高知出身の「田内千鶴子さん」という女性に起因する。
過去には「孤児院」と呼ばれた施設。
田内さんは木浦で韓国の孤児三千人を育てた「木浦の母」。
先日、木浦の共生園の大きな行事があった。
そこに参加するという友人にひっついて木浦を訪れた。



ちなみに大統領夫妻が式典に来るというので警護が厳重~。
日本からは岸田総理のメッセージ代読に国会議員、
高知県からは副知事、加えて日本各地からの参席者もバス一台分。
共生園にはJALから寄贈されたという鶴のマークがついた建物があった。
木浦の田内千鶴子さんの業績は、韓日友好のシンボルになっている。


田内千鶴子さんの事はこちらに。



私の住む町から木浦までは高速バスで一時間。
式典は午後だけど、午前中は木浦観光を兼ねて
儒達山という山に登ろう!と早めに木浦に到着。
その足でまず共生園の理事さんに挨拶に。
共生園は儒達山の麓にある。



儒達山は標高300メートルも無いなだらかな山。
てっぺんまで行っても2時間位で回れるという事で。
少し山に分け入ったら、どこからか甘い香りが漂ってきた。
「金木犀だ!」この特徴ある香りを間違えるもんか。



木は見えないけれど香りだけがすごい存在感で届いた。
大阪弁で「いらっしゃーい!」と言われてるような気がした。
もちろん脳裏には、桂三枝さん笑
新婚さんじゃなくもうすぐ銀婚さんだけど!



とにかくこんな濃い金木犀の香りに包まれるなんて
20年以上韓国住んでて初めて!
儒達山に金木犀が植わってるんだ。
韓国南端の温暖な気候、かつ湿気が多い海辺。
ここ、なんだか日本に似てる。
浜辺には椰子の木も植わってた。


金木犀は日本三大芳香木の一つなんだそう。
(沈丁花、クチナシ、金木犀)

また、金木犀が還暦アラフォー世代に強烈な懐かしさを感じさせるのは
もしや、、この事実↓と関連してるかも~私は心当たりアリ笑



70年代地方生まれの私の幼少期のお手洗いはくみ取り式。
段々と水洗トイレに移行した。当時は家風呂が無い家も沢山あった。
庭のある家は、臭気防止の為トイレの側に金木犀を植えたそう。
それに当時のトイレ消臭剤て「金木犀」の香りが多かった笑
確かに~!!オシモと繋がった香り!
そのせいで「金木犀」の香りは
なんだか妙に思い出深いのかな。


ま、オシモだろうがなんだろうと、ただ嬉しかった。
初めて登る木浦の山で懐かしい匂いに出会った事に。
思わず口からこぼれた言葉は「幸せだなあ~!」
加山雄三さんの歌の台詞「君といつまでも」(1965)
更に懐かしい。



友達と日本の歌をいっぱい歌いながら
誰もいない韓国の田舎の山を歩いた。
郷ひろみ「処女に少女に娼婦に淑女~」(1980)
千と千尋の神隠し「呼んでいる、胸のどこか奥で~」(2001)
井上陽水「探し物はなんですか?見つけにくいものですか?」(1973)
三木露風・山田耕筰「夕焼け小焼けの赤とんぼ~」(1927)
ジャンルも年代も超えた沢山の歌。



そしたら、あれ??登りじゃなく
下りの道に繋がってたらしく下山し始めた~
道間違えた?もう一回戻るのもシンドいね!
流れに任せてこのまま降りることにして
そのまま歩くと、道なりに立派な建物があった。



木浦で成功した事業家の個人博物館だった。
その博物館の入り口の立派な金木犀が
これまた濃い香りを放っていた。
わあ~!ここにも。私と友人は喜んで写真を撮った。
イキナリ撮影会!



私らがあまりに浮かれてたのか、
隣の家のオルシン(お年寄りという意味の敬語)が
ニコニコ近寄ってきて言った。
「クムモクセイだな、こんなに香りの強いのは珍しい」と。



は?今なんと仰った?
もちろん韓国語で喋ってるのだけど
オルシンは確かに「クムモクセイ」と言った。
韓国語で金木犀はクムゲ(金桂)なのだけど。
この町では日帝時代から「キンモクセイ」と呼ばれていたのじゃないかな。
「金」は韓国では「クム」なので
今は混じって「クムモクセイ」になっているのだろうか。



釜山とはまた違った感じで、日本との繋がりを色濃く残した町、木浦。
町には神戸の異人館通りにあるような西洋風の建物や
かつての日本家屋の特徴を持つ家があちこちに残っていた。


そのオルシンにご挨拶し旧領事館に見学に向かい、
共生園に戻る帰りの山道で今度は大きな銀木犀の木を見つけた。
「銀木犀だ!!!!」訳もなく嬉しい!!
幼馴染に偶然上海のホテルで会ったみたいに嬉しい!



銀木犀の花は落ち着いたクリーム色の花。
金木犀のような明るいオレンジ色ではなく。
しかも花は終わりかけで少ししおれていた。
香りは金木犀よりずっと密やかだった。
静かに佇む臈長けた女性みたいだった。




また、金木犀がボーイフレンドいっぱいの次女だとしたら、
銀木犀て「好き」を自分から言い出せない大人しい長女みたいだ。
平成のNHk朝ドラで「ひらり」というのがあった。(1992年)
その主人公姉妹の性格がそういう設定だった。
主演は石田ひかりちゃんで、主題歌はドリカム「晴れたらいいね」だった。



あっ、銀木犀の方が原種に近くて
金木犀が枝分かれの改良種らしいから
その印象はあながち間違ってないみたい。
金木犀より「お姉ちゃん」な花。
控え目で密やかな銀木犀。


とにかく、韓国に銀木犀なんてあるのかな~
あったら会いたいな、って思ってた矢先に
出会った田舎の山の銀木犀は妙に嬉しかった。
なんだか女優の倍賞千恵子さんみたいな花だと思った。
銀の髪のソフィーが思い浮かぶからかな。
「ハウルの動く城」が思い出された。
倍賞姉妹て、若き日には妹さんの方が目立って見えた。
石田姉妹も然りだけど、石田ゆりこさんは今やアラフィフの一番星だ。




午後の行事には尹大統領夫妻がやってきて
直に見た尹大統領は実に恰幅が良かった。
美貌の大統領夫人はテレビで見たそのままに
信じられない位若くて芸能人のようだった。
大統領夫人の黒ぶち眼鏡は美人隠し?
ファーストレディが綺麗なのって良いなと思った。



式典で最前列の大統領夫妻の隣に座った方は、
田内千鶴子さんの御子息夫婦だった。
午前中に共生園の入り口で偶然奥様に出会い、
ご挨拶させて頂いたけど
上品な佇まいと澄んだ眼差しが美しい方だった。





きらびやかな韓国の奥様達は沢山いるだろうけど
銀の美しさを持つ女性は少ないかもしれない。
侘び寂びの美しさ。見えない部分の磨かれた光。
韓国は特に「金」が好きな国。銀より金。
「見えなきゃ意味ない!」と
「目に見える部分」を大切にする傾向がある。



韓国人が日本人女性に感じる美は、
静謐と謙遜の飾らぬ美しさ。
褒められても「そんな大したものではありません」
と軽く受け流す身に着いた自然な謙譲。奥ゆかしさ。
一朝一夕にできる事ではないから憧れる。



田内千鶴子さんは1968年に亡くなられたが
生前の1967年に藍綬褒章受章。
韓国でも1965年に勲章を授与されている。
だけどその偉大な功績に対して常に
「夫の留守を守っただけ」とサラリと仰ってたそうだ。
田内千鶴子さんは銀木犀のような人だったのかもしれない。



いつかの田内千鶴子さんに「ありがとう」の気持ちを込めて
私と友達は手を繋いで歌いながら山を歩いた。
立派な韓国生活の大先輩。足元にも及ばないけれど心から尊敬する。
神社がある山に遊びに来た小学生みたいな気持ちで空に声を放った。
実際、日帝時代の儒達山には神社があったそうだ。



田内千鶴子さんは紛れもない偉人で
「マザーテレサ級」と言われるのも、ごもっとも。
大統領が来るような式典の主人公なので讃える方は沢山いる。





私は音楽の先生だった田内さんの慣れ親しんだ山で
「赤とんぼ」を歌いたい、と思った。
田内さんが過ごした共生園の前に広がる海で「浜辺の歌」を歌いたかった。
友達にひっついて木浦に行った理由は、それだった。
儒達山が見せてくれた銀木犀は
なんだか田内さんからのお返しのような気が勝手にしてた。
式典中には、赤とんぼが飛んできた。



朝の儒達山で出会ったあの銀木犀はかなり大きな木だった。
いつからあった木だろうか。
かつて田内千鶴子さんも目にした銀木犀だったら嬉しいなと思う。



夕焼け小焼けの赤とんぼ
追われてみたのはいつの日か。
韓国の南の果ての海を望むこんもりした山は、
何故だかやけに「赤とんぼ」の歌が似合った。



秋夕(お盆)が過ぎて、朝晩ぐっと冷え込みはじめた。
きっと今週のうちに金木犀も銀木犀も花を落としていく。
またね、儒達山の金木犀と銀木犀。



ありがとうございました。







































































































韓国では金桂(クムゲ)と呼ばれます。










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