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金木犀の温泉と「コシギ」

近場にあるゲルマニウム温泉に、よく夫と行っている。
珍しい泉質で関節痛に効くというので、
ソウルからでもお客さん達がやってくる。
(ソウルから300キロの町)



建物の作りは日本の温泉を参考にしてるようで
暖簾もあれば露天風呂もある。
入ってくる誰かが
「日本の温泉旅行の思い出」を語り始める。



近くにシルバータウンがあって、
都会から移ってこられた定年後のご夫婦や
長く外国で暮らしたご夫婦等(アメリカ多し)が住んでいる。



彼らが購入したマンションの種類にもよるけれど、
温泉券が無料になったり半額になったりするので
そのちょっと(かなり?)豊かな御婦人たちが
平日の温泉には複数たむろしている。少しハイソな感じ。
立派な子供さん達の話やソウルに所有してる不動産の値段とか、
聞くつもりが無くても話が耳に入ってくる。声が大きいから笑



ところが、昨日の露天風呂はちょっと様子が違ってた。
連休の最終日でいつもは仕事に出てる女性達の休日だったせいだろうか。
聞こえてくるお話が猥雑でエッチだった。
江戸時代の風呂屋、下町の庶民文化を連想した。
湯治場でのあれこれが、物語になったりするけど
温泉で身体が緩むと言わないつもりの事も
ついポロリと出ちゃうのかもしれない。



ある50代の奥さんは
「自分は頭もついていかないし、長い時間働くこともしたくない~。
専門職の資格もない。今からとるのもシンドイ~でもお金欲しい~」
だから御主人とのエッチで夫に課金して頂くのだと。
その金額設定を巡っての話も笑えた。
また出来るだけ自分のお金を減らさないよう決済は夫のカードでしまくる。
御主人が「そのバック新しく買ったの?」と気が付いたら
「〇〇オンニにもらった」とか、ゴマカシまくる。
周りにいた6070代の女性達はやんややんやと笑って煽った。
「わかりゃしない!」と笑


私はひょうたん型の露天風呂の端っこにいて、
その人達とは最大の距離があったけどよ~く聞こえた。
お酒はないのに宴会みたいなノリで声デカい笑



連休最終日という混雑が予想される日に
温泉に行ったのは「金木犀」のためだった。
露天風呂に植えられてる木(椿とツツジが多い)の
端に三本だけ金木犀がある。
先週温泉に入った夜、密やかなその甘い香りに気が付いた。
星みたいな形の肉厚のオレンジの小花が満開だった。
平日の夜の露天風呂の客は、私と娘二人きりで
甘い香りに包まれて星空を見上げた至福な時間だった。
星のような花、空にも星。黒目がちな娘の瞳にも星。



今ならまだ金木犀が咲いてるかも、
という期待で連休の最終日に行ったのだった。
しなびてはいたけど花は残っていたので「来てよかった」と思った。
あの甘い香りもまだ密やかに漂っていた。



韓国ではそんなにメジャーな花ではないようで
金木犀に目を止める人も、香りに気が付く人も誰もいない。
「あー!金木犀が咲いてる」は私だけだった。
故郷の友達に久しぶりに会ったような、そんな気分だった。




小学生の時、学校前に大きな金木犀があった。
お医者さんちの庭木が道にはみ出したものだったと思う。
暇な田舎の小学生だった私は、
金木犀が咲くとそこに長い事佇んでいた。
甘い香りに気分が良くてたまらなかった。
友達にも親にも言わなかったけど毎年そうしていた。
子供の自分にとって金木犀の開花はとても大切な事だった。



10代の終わりに出合って
忘れられないこんな文章がある。

  金もくせいの匂いがする 
  甘くて歯が痛くなりそう

  秋には恋に落ちないって決めていたけど
  もう先に歯が痛い

  金もくせいを食べたの  
  金もくせいも食べたの

  だから  
  歯の痛みにはキス

山田詠美『放課後の音符』新潮社 


例によってその本の感動も誰とも共有しなかった。
子供の頃は実に喋らない子供だった。
別にそれを寂しいとも困ったとも思っておらず、
密かにでも堂々と「私は私だ、私でしかない」と思ってた太い自分。
金木犀の香りが自分の中で「金色のリボン」のように今も輝いている。



私は露天風呂の金木犀に一番近い端っこの岩にもたれて
金木犀をぼんやり眺めていたのだけど
温泉のエロ話は更に盛り上がり、なんと!
1人のハルモ二(お祖母さん)が立ち上がって歌い始めた。



お爺さんが草刈りに行きました~
草を刈ろうとしたら、間違えて
コシギ(アソコ)を切っちゃいました!



そのコシギが飛んでっちゃって
仙女(仙人かも)がそれを拾いました~
仙女は「この金のコシギがお前のか?
それともこの銀のコシギがお前のか?」と
聞きましたとさ



お爺さんの「どっちも違います」に、仙女は
「おお正直者よ、この金のコシギも銀のコシギも与えよう!」
お爺さんは「要りません!三つもつけてたら、
コシギするとき(アレするとき)紛らわしいから!  


という歌のオチで、周りにいた女性達どっかーん、大爆笑!



昔話が混じりまくった歌。ハルモ二の即興らしい。
ハルモ二が身振り手振りで踊りながらこれを歌い、
アンコールに応えて二度歌った。
メロディがシンプルだったので覚えてしまった笑



露天風呂には親と別に入ってた4歳、5歳、7歳の女の子達がいて
キャッキャッお猿のように弾むハルモ二達をぼーっと眺めていた。
きっと誰かが後で「オンマ~コシギって何?」とママに聴くだろう笑



私の両脇には都会から来た30代頭位のお洒落なアガシ(お嬢さん)がいて
「今の歌、何言ってるんだかさっぱりわからない」と顔を見合わせた。
うちの町のハルモ二達は、結構な方言で話すので
ソウルの人には通訳が必要になる笑


「コシギコシギ」とケタケタと連呼する
あっけらかんとしたハルモ二達は
小学生男子が「そんな事言っちゃいけません!」ワードを
面白がって連呼しているようだった。
「あんたも好きね~」という言葉はまるで
「8時だよ全員集合」のカトちゃんギャクのようだった。




なんかもう生殖も子育ても全て終えて
温泉で遊んでるハルモ二達は子供みたいで可愛かった。
猥雑な話がアクを抜いた蕗の胡麻和えナムルみたいにすっきりしていた。
太くしっかり歯ごたえも栄養もある。濃厚なのに透明。



輝く金木犀の思い出に会いに来たら、
目の前でハルモ二達のカオスな宴。
混じりあってなんだか「良きかな~」と思えた。
どこも似てないのに似て見えた。純度の高さかなあ。
「カーン!」と澄んだ良い音鳴ってる感じ。
笑い弾むハルモ二達から。



この晩温泉で暖まった私は
晩9時には倒れ込むように眠ってしまい起きたら7時過ぎ。
10時間泥のように眠ったら、「痛いな」「重いな」と軽く疼いてた所が軽くなっていた。金木犀の甘やかな香りに心も軽い。
来年も金木犀に出会えますように。



ハルモ二達の宴会があるかどうかはその時次第。
そういえば、数年前の雪の露天風呂では
興にのったハルモ二が一曲歌った。
景色に似合ってそれも印象的だった。


そのうち、、、私自身が温泉で我知らず
歌い出してしまうのではないか、、という気がしている。
そんなハルモ二になってしまいそう~笑
今は先達の歌をじっと聞いてるだけだけど。
そのうち、、韓国の田舎の温泉に歌うハルモ二がいる
実は日本人だった!なんて笑える~!
ま、それも「良きかな~!」



ありがとうございました。












































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