代表制直接風民主主義によるデジタル意志決定の可能性

デジタル技術を用いた社会的意志決定への参画について、私は、主権在民のもとで民主主義を実現するには究極的には個別政策を直接その国、地域に住む人々が決めるのが望ましいと考えている。技術的にはそれは十分に可能な水準にあるとは思うが、地方自治の規模ならばともかく、国政規模となると、それは民主主義の形態で見た時に現状の代表制間接民主主義とはあまりにかけ離れているために、政治的には制度論を含めたかなりの大変革が必要となって、なかなかすぐにまとまる話ではないのかもしれない。そんな時に、現状の代表制、もちろん選挙制度をはじめとした代表制自体の制度論的にもさまざまな問題があり、それはそれで解決してゆく必要があるのだと思うが、それとは別に、その代表制を維持したまま直接民主的な考え方を導入することはできないだろうか。

現状の代表制間接民主制

まず、現状を見てみると、間接民主制をとっているために、多数決によって代表の座を得てしまえば、その先はほぼ全面委任となり、一方で数の力によって動く政治では、政党という組織において、いかに組織のために働いたかによって評価が定まり、その組織の中での出世争いが、民意を聞いたり、政策を磨いたりといったことをするよりも重要なこととなってゆく。そして、組織で権力を握れば、党内権力で選挙の候補者や金の配分を決めたり、そしてそこから総理大臣となれば強力な人事権を行使して大臣・副大臣・政務官を任命して政治を動かすという、基本的に政策主導というよりも、人事を軸とした権力主導で政治が動いてゆくことになる。

これに対して有権者側としては、支持する代表者をなるべく権力に近い位置に押し上げて、それによって自分の意志を政策に反映させるようにするということがせいぜいで、そのためには支持する政治家を党内で出世される必要が出てきて、それによって社会全体が政治力学に基づいた権力闘争の色彩を帯びる状態となっていると言える。

民主主義的力学による権力闘争政治

政治力学というのは、それぞれの政治家の持つ一貫した政策はあまり関係なく、一方で権力闘争の中で影響力を確保するために政治的テーマ設定をいかに効果的に行うか、ということ、そしてもう一方で単に浮かび上がってくるテーマに対する賛否の数合わせゲームの中でいかにうまく泳ぎ切るか、といった政治的遊泳術がものを言うのであり、その中で個別政策は常に妥協の産物となり、政策の一貫性よりも”民主主義的”力学による階層的権力構造での力比べの方が重要なスキルとなっていると言えそう。実行力とは、権力に近づき、それによって自分の意志を押し付ける力であると言え、政策よりも実行力が求められると、政治はどんどん権力闘争の様相を深めてゆく。

限定的な有権者の権利

これは、代表制間接民主主義によって、有権者が個別の政策を問う権利をほとんど持つことなく、代表者の人気投票の地区代表のエントリーに関わるだけと言う、非常に小さな部分でしか主権を行使できないことを意味する。それは、民主主義というにはあまりに矮小化された権利であると言え、それで一体何の意志表示ができるのか、という非常に大きな問題を発生させる。現状このような問題を抱えながら、それでも民主主義が基本的に多数決的な原則で動き、そして政治が高度な職業的スキルで、分業体制の一部をなすと考えた時、主権をなるべく有権者に残したまま代表制の政治体制を機能させるにはどうしたら良いだろうか。

代表制直接風民主主義の可能性

それには、政治をもう少し、”民主主義”という言葉にふさわしいような仕組みにしてゆく必要があるのだろう。そのために、たとえば、デジタル技術を活用することで、国会議員から大臣を選ぶというプロセスにより民主的な仕組みを導入する、という考え方はありそう。国会議員は自らの政策を公表し、それに基づいて、国民一人一人が人事権者となり、自らの政権構想に基づいて少なくとも担当省庁を持つ大臣職については、誰にどのポストを充てるのかという、常に更新可能な人事構想をデジタル技術によって投票できるようにし、大臣職はその投票数が一番多いものが得るということにするという仕組みはどうだろうか。国会議員も、大臣も任期があり、議員は現状ならば衆議院四年、参議院六年となるが、大臣はたとえば一年を任期とし、その区切りで総理大臣を含めた大臣は一旦総辞職、そしてその時点の大臣得票数に応じて次の政権が決まるということにし、例えば総理大臣は、特命大臣のようなものを五人まで、国会議員や民間から自分の意志に基づいて任命できるようにすることで、政権の独自性を確保する、ということにしたらどうだろうか。一方国民は総辞職権と解散権も持ち、それが過半数以上の一定水準を超えたら任期を待たずして総辞職あるいは解散が行われる。これによって、権力がある一定のところに集中することを防ぐことができ、より有権者の意志が反映された直接民主制に近いものが実現されるのではないだろうか。

政策による政治評価のために

それによって有権者の政治家に対する知識が深まったら、副大臣も同じように投票制にして、有権者側にどんどん人事権を移譲するようにしてゆけば、政治家は自分の強い政策をアピールすることで自ら副大臣を経て大臣へ、という実績を積んでゆくことができるようになり、より政策主導的な政治が実現してゆくのではないだろうか。一方で、行政に常設委員会制度を導入し、国会議員は必ずどこかの常設委員会に所属するようにし、その常設委員会が省庁の政策決定に責任を持つことにして、その議論の過程も公開されるようになれば、国会議員一回生であっても常設委員会で実績を積んですぐに大臣候補になる、ということも可能になる。常設委員会での議論がそのように活発化することで、有権者の政治に対する関心が政局から政策に移って、それによって権力闘争の色彩が弱まることで、社会への権力の影響を制限的にしてゆくことができるのではないだろうか。

なるべく多くの権利を有権者へ

このようにして、人事権を権力者である総理大臣が一手に握ってそれで政治を動かすという権力集中システムをなるべく分権化し、権力を制限してゆくことで、民主主義という言葉にふさわしい、有権者の権利や意志表示がより尊重された政治制度となってゆくことが期待できる。

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