見出し画像

国際金融制度改革の必要性10 ー 同時多発テロからの政策的示唆

4. 同時多発テロからの教訓 - まとめに替えて

いま、同時多発テロから20年の節目を迎えるに当たって、その事件によって期せずして明るみに出た不均衡なルール、つまりいかさまギャンブルと言えるデリバティブに代表されるカネでカネを売買する金融商品や、有限責任制度という株式会社の制度について考え直す絶好の機会であると言える。一方で、テロとの戦いという、国家権力が一方的にテロリストを定義し、それとの戦いを正当化するという不均衡な暴力的支配理論についても見直すべきであろう。

金融商品

金融商品については、基本的にはカネでカネを売買するようなものは禁止すべきだろう。すなわち、先物については現物の裏付けのないものは認められないこととし、そして送金為替についても、実際の契約を伴わないものは直接為替では取引できず、契約解除のときには元のレートによる解約に限ることとして、投機取引は排除する必要があろう。また、その時々の会社の評価であるべき株式について先物を設定すると言うことは、生産的資源配分の観点からその存在意義が全くわからないので禁止すべきで、むしろ投資家の会社に対する長期的関与を確保する為に、少なくとも取得後1期の株主総会を経るまでは売却できないという制限を設けるべきだろう。そして、何らかの企業不祥事が明らかになった時には、その直前の総会時の株主名簿を公開することによって株主責任をもう少し重くする必要があるだろう。一方で、長期的リスクをヘッジする再保険のような仕組は、自然災害リスクの拡大と共により重要になりそうで、これはリスクの度合いに応じて最低でも例えば1年間といったようにリスク顕在化頻度に合わせた保有期間の義務づけ、という形でリスクの所在を明らかにする仕組は必要なのだろう。

有限責任制度

有限責任の制度についてだが、有限責任が認められるのは、それが生産を促進する為であるからだと言えるので、株式会社は生産的資産の保有に限るべきで、資産運用などの為に有限責任の制度が利用されるのは、それ自体がすでにモラルハザードであると言える。資本主義の制度は、希少な資本を社会的に有効に利用するという観点から正当化されるわけであり、その資本を有限責任のメリットを享受して自己の資産の増殖の為に使うというのは、資本主義の社会的意義というものを全く無視して私的に濫用していると言わざるを得ないからだ。だから、株式会社が生産的資産以外の資産、つまり金融資産や土地を保有することは禁止すべきだろう。生産体としての株式会社の価値保全は、将来に亘る生産力確保の為の資産を保有することで行われるべきであり、則ち設備投資や研究開発に投じられなければならない。金融資産に投資するというのは、自己では生産的な直接投資行動ができないと認めていることで、そのような非生産的な株式会社はもはや社会的役割を終えているのだから、解散すべきなのだろう。その代表的なものが子会社の株式であり、それは理屈として子会社の方が利益率が高いからその株を保有していると言うことであり、子会社よりも生産性の低い親会社というのは、社会的には害悪でしかなく、だから子会社株式の保有は社会的にはなにも正当化される根拠がない。

土地

土地に関しては、第一次産業について言えば生産的資源であると言うこともできるが、それ自体を株式会社が保有する必要はない。天然資源を生産事業体が排他的独占保有するというのは、資源の有効配分の観点から合理的とは言えない。土地に色はついておらず、生産に使うか否かはわからないからだ。企業の生産利用名目での目的外利用を防ぐ為にも、資産としての土地の保有権自体は個人に帰すようにし、利用権についてのみ法人も設定可能であるとすべきだろう。食料をはじめとした再生可能な天然資源については個人を含めた多数の参加者がその利用権を持つことで結果として独占的ではない市場がうまく機能することにつながるが、再生不可能な資源についてはその資源の偏在性から個人保有となると独占が発生する恐れがあるので、土地の保有権とは別に利用権自体は公有または国有とし、その開発権を株式会社が入札のような形で分配するという、三段階方式にして市場がうまく機能するようにする必要がありそう。

安全保障

安全保障については、テロとの戦いという、国家権力が一方的にテロリストなるものを定義し、それを国家の暴力機構である軍隊を使って、他国の領内であっても一方的に攻撃できるようにし、さらに新たな決議なしに始めたイラク戦争のように集団的自衛権を用いて国連の民主的機構であるとも言える安全保障理事会の決議すらなくても地球規模の戦争を始めることができてしまうと言う、全く歯止めの効かない危険な戦争理論は決して認められるものではない。国家の自衛権は個別的なものに限り、もちろんテロとの戦いなども認めないとする必要がある。

更に言えば、アメリカのような超大国の、軍事的、経済的横暴に対して異議を訴えるには自爆テロのような形を取るしか手法がなかったという民主主義の本質的欠陥についても議論されるべきなのだろう。私は、ある程度限定的な地域の中での直接民主制をベースに、外交権、つまり貿易や為替取引などの民間外交権をその地域ごとで管理し、どの地域と経済関係を結ぶかを地域が独自に選択できるようにすることで、グローバルな価値観が大国による力比べで決まるのではなく、より民主的な地域の自主性に基づく、ひとりひとりの意志が行き届き、きちんと反映されるような仕組が望ましいのではないかと考えている。更には、為替とは独立した地域通貨によって地域がある程度の通貨自主権を確保することで、国家通貨による中央集権、そして基軸通貨によるグローバルスタンダードによるくびき、縛りから解放されることで、日常の生活により多くの自由が確保できるようになると考えている。
これらの政策はそのまま経済の活性化にも通じる。まず、デリバティブの禁止を自国通貨で先行して行えば、これまで金融市場内に留まっていた資本が国内で環流するようになり、金融政策の効果が有効に作用するようになる。それは過剰流動性の罠からの脱却を可能にし、ケインズ政策の有効性を取り戻すことになる。法人の株式や土地保有禁止は、企業のバランスシート経営を強化し、資産効率を上げる一方で、個人の投資対象の幅を広げることで貯蓄から投資への流れを強化し、成長の源泉となる個人の資本蓄積を促進する。一方で地域経済で先行して法人の土地保有禁止を行えば、地価の下落を通じて生産コスト、そして生活コストの切り下げにつながり、企業や住民の誘致に大きく貢献する。

誰かが読んで、評価をしてくれた、ということはとても大きな励みになります。サポート、本当にありがとうございます。