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石元泰博 生誕100周年 -高知にゆかりのある写真家

今年9月に東京都写真美術館で、石元康博の生誕100周年を記念した写真展が予定されている。とても心待ちにしているので、彼について纏めることにした。

石元泰博は、1921年に農業移民の両親の元にサンフランシスコで生まれ、3歳から18歳まで両親の故郷の高知で過ごす。カリフォルニア大学農業スクール、ノースウェスタン大学建築科で学び、さらに1948年にはニュー・バウハウスとして知られるシカゴのインスティチュート・オブ・デザインに転校し、1952年に卒業した。途中、建築科に移った理由を「空襲によって日本の都会は廃墟と化し、戦後の復興には大いに建築家の力を必要とするだろうと感じた」とのちに渡辺勉のインタビューで語っている。写真家になった理由については同インタビューで以下のように示している。

たまたまアメリカの本屋の店舗で、日本のカメラ雑誌を立ち読みしていた時、東条英機の裁判の写真に関する記事が載っていた。それは誰の書いたものだったか今ははっきり記憶していないが、とにかく写真はその写す人によって、様々な解釈が成立するものであるという意味のことが、そこでは述べられていた。それを読んで、政治家になるよりも写真家になる方が、世界各国の人々をひきつけることができるのではなかろうかと考えた。

石元泰博と聞いて、パッと作風を思い浮かべられる人はどれくらいいるだろうか。彼は「一生をかけて〇〇を撮り続けた」というタイプの写真家というよりも、常に社会の動きに目を向け、プロジェクトごとにモチーフや撮り方に僅かながらも変化を求めるような写真家だったのではないかと感じている。叙情や哀愁を醸し出すような、あるいは内面に向かうような作品というよりも、あえて情感を取り除き、モチーフの訴える力を信じている写真を撮っていたことも彼の特徴と言えるのではないか。

2012年に亡くなったあとすぐに、彼が幼少期から高校時代までを過ごした高知の県立美術館に「石元泰博展示室」が整えられ、これまで数え切れないほどの企画展が開催されている。高知県立美術館は、石元泰博のコレクションを持つ数少ない美術館なので、高知県立美術館が発信するイメージが今後の石元泰博像になっていくと言えるかもしれない。

学芸員さんの意図を解釈すると、世間が生前に持っていたイメージから徐々に外れたものを提示しているのではないかと推察している。最初はニュー・バウハウス在籍時にモホイ・ナジから影響を受けたようなモノクロ写真や街角を写したストレート写真の展示が多かったが、そこから外れた色彩豊かなものや土門拳の影響を受けたような文化財を撮ったもの、日常に転がったモチーフを残したものなどキュレーションの仕方が最初よりもどんどん幅が広がっている。

モホイ・ナジのようなモノクロの造形重視の作風も撮れば、土門拳のような文化財も撮る写真家って珍しいので、「振れ幅が大きい人だな」と感じる鑑賞者も多いのではないだろうか。1人の人間が生涯で目を向けられるものは限られているけれど、無尽蔵の好奇心とそれを作品に仕上げるまでのエネルギーを持ち合わせた人はなかなかいないので、それだけで心が震えてしまう。

シカゴを軸にした企画展はやはり数多く組まれており、以下のような展覧会は人気があったようだ。

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一つのジャンルに固執しない柔軟さが彼のおもしろいところで、彼は『アサヒカメラ』に1982年の1年間「食物誌」と題して妻のコメントと共に現代社会で異様に消費されていく食物に注目して写真を掲載した。

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モノクロの写真のイメージが強い人は、鯛のお頭!?と驚くことだろう。

先ほども少し触れたが、文化財の写真を撮っていたのも石元の特徴だ。実は土門拳に「オレの信用している写真家は、石元康博だ」と言わしめているほどで、今後高知県立美術館により企画される文化財写真の展示は注目されるのではないかと考えている。

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石元泰博については、冒頭に述べたとおり、東京都写真美術館で生誕100周年の写真展が予定されているので、コロナが落ち着いて開館していれば、ぜひ初日に見に行きたい。

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2019年の12月に友人を訪ねる途中で高知県立美術館に行ったが、改修工事で中に入れなかったため、次回は石元泰博コレクションを目当てに立ち寄りたいと思う。

川沿いの美術館なので、どうか豪雨などで作品に被害が及ばないようにと祈りながら。

参考資料
・渡辺勉『現代の写真と写真家 インタビュー評論35人』朝日ソノラマ
・高知県立美術館 石元泰博フォトセンター https://iypc.moak.jp/?cat=24
・東京都写真美術館 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3836.html



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