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伝えようとする 受けとろうとする
祖父は耳の聞こえがよくない。
わたしが幼い頃からそうなってしまっていて、確か突発性難聴の治療が遅れたことが原因だったと思う。
そして、徐々に悪くなっていったらしい。
補聴器をつけてはいるが、すごくクリアに聞こえるわけではなく、人の声ではなく物音を拾ってしまってむしろ疲れるときもあるそうだ。
祖父は、耳の調子が悪くなっていくにつれて、社交の場に出ることが少なくなっていった。
ざわざわした音を補聴器が全て拾ってしまうのと、わからないのにうんうんと頷くことがしんどくなってしまったと言っていた。
相手に何度も言わせるのも申し訳ない気持ちになるから、とも。
ただそれで塞ぎ込んでしまうということはなく、もともとの趣味の園芸や畑を続けたり、家まで来てくれる親しい人とは交流したりしている。
会話のときは、補聴器でことばを部分的に聞き取って、相手の口の動きで推測できるようになってきたと、ちょっと嬉しそうな様子だった。
ここまでが、2019年くらい。
それから、コロナ禍があって、なかなか祖父に直接会いに行けなくなった。
祖父はだんだんと電話の鳴る音にも気づかなくなってきていた。気づいたとしても、受話器から声を聞き取れない。わたしの家族も含め、親戚も困ったのが、家に行く以外にどうコミュニケーションを取るかということだった。
そういえば。
祖父は以前入院したときにガラケーでメールを習得していたはず。
ものすごくわかりやすく手順を書けば、LINEが使えるのではないかということで、iPad miniを贈ってみた。
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当初は、ボイスメッセージができればいい
と思っていた。
祖父はボイスメッセージができるようになると、今度は文字でのメッセージに挑戦し始めた。
ガラケーでのメールができていただけあって、文字入力はわたしが思ったよりもスムーズだ。
これで、祖父との意思疎通はだいぶ楽になった。
祖父は、今まで以上に人のことばを受け取ろうとするようになった。
素敵な姿勢だな、と思った。
そして先日、5年ぶりに祖父に会いに行った。
今回大いに役立ったのは、DAISOの電子メモパッド。
祖父にはすでに「かきポン」という磁気式メッセージボードをプレゼントしていたが、1枚のボードを行き来させていると会話のテンポが落ちてしまうかと、わたしが書いて祖父に伝える用に電子メモパッドを持って行った。
簡単に文や単語を書いて口を動かしながらボードを見せるとよく伝わって、たくさんおしゃべりができる。
祖父も、ボードを見てはことばを返してくれる。
流れているテレビ番組の感想、ごはんのこと、昔の話。
伝えなければならないことだけではなくて、なんてことないことも伝えようとしてくれると感じられたのが嬉しかった。
そして、初めて対面したわたしの夫とボードでコミュニケーションをとっている光景もよかった。
伝えようとすること
受けとろうとすること
お互いにその姿勢が見えると、声でも文字でも、コミュニケーションできることそのものを嬉しく感じる。
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