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【脳波解析】脳波(EEG)の生物物理学的原理

 本ページでは「Analyzing Neural Time Series Data Theory and Practice」(Mike X. Cohen and Jordan Grafman)のChapter5をベースに、EEGの生物物理学的原理及び脳波と認知について、勉強していきます。
前回のノートはこちら↓

EEGで測定可能な生物物理学的なイベント

 EEGとは、シナプス後電位の電気的活動の総和のことで、活動電位ではないことに注意してください。シナプス後電位とは、シナプス後細胞のシナプス後膜に発生する電位で、
1) 興奮性シナプス:細胞内に陽イオンを流入
2) 抑制性シナプス:細胞内に陰イオンを流入
の2つに分けることができます。1つのニューロンの活動では電界が弱すぎて測れないため、EEGは大量のニューロンの電気活動をまとめて測定しています。そのため、EEGでは測れない脳活動があります。
1) 分子、シナプスレベルの活動
2) 特定の神経伝達物質、神経調節物質によって生じた活動
3) 少数のニューロンによる活動
4) 深いところにある脳部位(視床、大脳基底核、海馬、脳幹など)
→ 生み出す電界が非常に弱く、物理的に電極から遠いためです。さらに、ニューロンの集まりが並列に並んでおらず電場が打ち消し合うことも理由として挙げられます。
5) 低周波数の脳波(<0.1Hz)
→ 多くの増幅器についているハイパスフィルターが低周波数の脳波を減衰させるためです。
6) 高周波数の脳波(>100Hz)
→パワーが弱すぎるためノイズと区別ができないためです。

振動の神経生物学的メカニズム

 振動とは、ニューロンの興奮の律動的な変動のことです。興奮性ニューロンと抑揚性ニューロンの相互作用が振幅の仕組みの基本ですが、興奮性ニューロンの回路と抑制性ニューロンの回路それぞれ単独でも生じることもあります。

ERPモデルの基礎的理解

 ERPについては、以前の記事にて簡単に説明をしましたが、ここでは解析的説明をします。周波数解析とは、周波数帯域の異なる波を解析することで、ERPは周波数解析を用いて観察します。ここで、ERPは位相と時間が同期した時だけ可能であるということに注意してください。ERPには3つのモデルがあります。
1) additive
→ERPを外部刺激に反応した時の電位ととらえます
→振動と外部刺激は無関係であると仮定するため、振動は加算平均で消すことができます
→振動を起こす神経活動とERPを起こす神経活動は異なると仮定します
2) phase reset
→ERPは発生している振動の位相のリセットから生じている、と考えます
→外部刺激が起きることにより、発生していた特定の周波数の振動の位相がリセットされるため、これをある神経活動の反応を反映しているとみなします
→additiveと異なり振動をノイズと捉えません
3) Amplitude asymmetry or baseline

脳波と認知

 それでは、脳波は認知と因果関係にある根拠はいったいどこにあるのでしょうか。その根拠は、様々なところで見ることができます。LFP(local field potential)の振動とシナプス活動の関係に着目しましょう。LFPとは、細胞集団全体の活動を調べることです。例えば、ヘブ則や記憶の形成の基本である海馬の強化はθ波(4 ‒ 8 Hz)の時に生じやすいです。ここで、個々の神経細胞の発火活動を調べることを単一ユニット記録といいます。大脳皮質の局所フィールド電位を頭皮上または硬膜下から間接的に測定したものが、それぞれ脳波(electroencephalogram, EEG)、皮質脳波(electrocoticogram, ECoG)となります。
 LFPの振動の位相と活動電位のタイミングについて、LFPの位相に合わせて活動電位が同期して生じる可能性が高いと考えられます。さらに、振動の同期は、知覚と認知プロセスにおいて非常に重要です。ネットワーク間の振動の同期と、神経回路をめぐる情報伝達の基本メカニズムとして、位相が同期している時が分散した神経回路が最も効率よく情報伝達できるとしばしば考えられます。最後の根拠して考えられるのが、ephatic couplingです。ephatic couplingは、イオンの伝達を通して起きるニューロンの相互作用のことです。
 脳波は認知と因果関係にあることがわかったところで、実際に検証する方法はあるのでしょうか。ここでは、二つのやり方を紹介します。1つ目は、オプトジェネティクスです。これは、光でマウスなどの小動物の神経細胞を制御する方法です。しかし、今のところ小動物でしか扱えないという短所もあります。そこで、ヒトレベルで検証する方法として上げられるのが、TACs(電気経頭蓋刺激)です。これは、ヒトの脳に電気刺激を与える方法ですが、神経細胞レベルの因果関係は見れない可能性があります。


最後に、このノートにスキを押してくれると、とても嬉しいです!ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
<謝辞>このnoteを書く上で、弊ラボの岡本峻さんにご協力いただきました。ありがとうございます。


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