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計算論的神経科学 第4章-2

 「計算論的神経科学」(田中宏和)の第4章(p103〜p109)についてメモ書きする。第四章では観測を理論を用いて外界を最適に推定するための評価関数について説明されている。

因果推定と情報統合

 因果推定とは、複数の感覚入力が単一もしくは複数の信号源から出ているのかを推定することで、著者は因果推定問題にベイズ推定を適応した研究を紹介している。(4.27)式にてσ^2_Vは視覚、σ^2_Aは聴覚位置の分散を示しており、視覚位置から聴覚位置を引いていることから-1/2は(4.11)式に倣う。複数信号原のとき視覚および聴覚位置の確率密度関数は独立であることを期待しモデル化している(式(4.28))。また、式(2.49)および式(4.30)の分母はいずれも全事象を示している(ベイズの定理のΣ以降同様)。P(C=1)=P(C=2)のとき
P(C=1|x_A, x_V)/P(x_A, x_V|C=1) = P(C=2|x_A, x_V)/P(x_A, x_V|C=2)
で事後確率は尤度関数(P(x_A, x_V|C=1) , P(x_A, x_V|C=2)の部分)で決定する。また視覚および聴覚の位置を推定し、信号源が一つであると判断されたときその推定位置は引き寄せ合う。このようなベイズ推定は心理物理実験で用いられた。

カルマンフィルタ

 カルマンフィルタとは確率変数に時間変化の概念を導入した確率過程である。確率過程を状態空間モデルで記述すると
x_(k+1) = Ax_k + w_k
z_k = Hx_k + v_k
でxが状態変数、zが観測変数、wがノイズ、vが不確実性を表す(式(4.31))。ここで時間発展方程式および観測方程式は確率的であり、ノイズはガウス分布に従うものとする(式(4.32), (4.33), (4.34))。観測値系列に対し期待値および分散が与えられているとすると(式(4.35)、分散共分散行列)次のステップk+1の期待値および分散はノイズを加味して式(4.37)で表される。ここでフィルタリングとは予測値に観測値を補足したもので、全て正規分布に従っておりカルマンフィルタはベイズ推定とみなすことができる。
 予測について、kステップまでの観測データに対し運動方程式(式(4.31))より^x_{k+1|k}は式(4.38)の形で表される。ここで^xは測定値ではなく推定値であるためノイズが加味されないことに注意(式(4.39))。フィルタリングとはk+1ステップでの観測値(z_{k+1})が与えられたときにその予測値(H^x_{k+1|k})を補正することである。式(4.40)内のK_{k+1}(z_{k+1}-H^x_{k+1|k})は予測の外れ度合いを示しており、Kは係数行列である。これを用いて式(4.37)より共分散行列を求めると
Σ{}_{k+1|k+1}=Cov[x_{k+1}|z_{1:k+1}]
=E[(x_{k+1}-^x_{k+1|k+1})(x_{k+1}-^x_{k+1|k+1})'|{z_{1:k+1}]…①
で^x_{k+1|k+1}=^x_{k+1|k}+K_{k+1}(z_{k+1}-H^x_{k+1|k})より①式は
Σ{}_{k+1|k+1}=E[(x_{k+1}-(^x_{k+1|k}+K_{k+1}(z_{k+1}-H^x_{k+1|k})))(x_{k+1}-(^x_{k+1|k}+K_{k+1}(z_{k+1}-H^x_{k+1|k})))'|{z_{1:k+1}]
=(1-K_{k+1}H)Σ{}_{k+1|k+1}(1-K_{k+1}H)'+K_{k+1}Ω^V(K_{k+1}'
である(式(4.41))。ここでK_{k+1}HはXに対する重み付けKに係数行列K_{k+1}がかかっていることに注意し、K_{k+1}はなるべく小さい共分散を持つように決める。trはトレース、すなわち対角成分の和Σ{n}_{k=1}a_{k|k}を示し、この最小(二乗誤差)を取ることはよくある最適化である。式(4.42)を解いた式(4.43)・K_{k+1}をカルマンゲインと呼ぶ。
 (4.45)式においてz_{k+1}-H^x_{k+1|k}は観測値のズレを示して予測値を補正する。(4.47)式は
I-K_{k+1}H=I-Σ{}_{k+1|k}H'(Ω^v+HΣ{}_{k+1|k}H')^(-1)H
=I-H'H([Σ{}_{k+1|k}]^(-1)(Ω^v)^(-1)+H'H)^(-1)
=([Σ{}_{k+1|k}]^(-1)(Ω^v)^(-1))+H'H-H'H)([Σ{}_{k+1|k}]^(-1)(Ω^v)^(-1))+H'H)^(-1)
=([Σ{}_{k+1|k}]^(-1)+H'(Ω^v)^(-1)H)^(-1)[Σ{}_{k+1|k}]^(-1)
となる。式(4.49)において用いられたウッドベリーの行列恒等式は
CD(A+BCD)^(-1)=D(AC^(-1)+DBA^(-1))^(-1)=(C^(-1)+DA^(-1)B)^(-1)DA^(-1)
である(式(4.49))。式(4.46)を書き換えたものが式(4.50)で[Σ{}_{k+1|k}]^(-1)^x_{k+1|k}が予測、H'(Ω^v)^)(-1)z_{k+1}が観測を示す。また分散Σ{}_{k+1|k+1}(式(4.41))もウッドベリーの行列恒等式よりΣ{}_{k+1|k}+H'(Ω^v)^(-1)H
と簡単な形(式(4.52))に書き換えることができる。これは最尤法で導いた式(4.13)の分散と一致し、カルマンフィルタは最尤法と同じ計算を行っていることに注意する。


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