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海外の医療制度⑦ シンガポール 前編

アジア随一の経済立国、シンガポール共和国。
一人当たりのGDPがアジアで最も高いことで知られており、2018年実績で世界8位の64,578USD*。GDPの成長率は3%前後で推移している。
(対して日本は世界26位の39,303USDだ。因みに東京の一人当たりのGDPは約1,100万円。)

面積は東京23区と近い(1.2倍くらい)。対して人口は東京23区に対して4割減ほど。うち4割ほどが海外籍保有者だ。

シンガポールは最初は木々に囲まれたジャングルだった。
1819年にイギリスの東インド会社の支配下で、アジアにおける中継貿易地として発展。マレーシアから追放される形で独立をしたのが戦後1965年。国としての歴史はまだまだ浅い。
独立から今のシンガポールの礎を作ったのが李光耀(リー・クアン・ユー)。その彼の建国にまつわる歴史のドラマは非常に面白い。
独立を余儀なくされた過程で李光耀が涙を流しながら「これからは我々はマレーシア人ではなくSingaporeanである」と国民に語ったシーンがあった。日本では考えられないことだが、国民としてのアイデンティティを獲得していく過程もこの国ではあったのだ。そんなシンガポール人は色んな人種からなり、中華系を主として、マレー系、インド系と多様な民族背景の人が住む、多様性に寛容な国家だ。

シンガポールに住んでいる人はシンガポールと言う国をどうみているか。
シンガポール在住(かつシンガポール好き)の日本人の友人が口を揃えて言うのは”明るい北朝鮮”。
シンガポール人の友人(同世代)が言うのは”退屈な国(boring)”。
この目線が違う2つの言葉は、それぞれシンガポールの状況を捉えているのだと感じる。これについての解釈は機会があればどこかで書きたい。

シンガポールの医療制度を語る際に、最近1つ注目すべき動きがあった。新型肺炎に対するシンガポール政府の動きだ。
シンガポールは今新型肺炎の感染者が増えており、中国との往来をシャットアウトしている。そして隔離対策としてここ数週間で中国から戻ってきたシンガポール人には自宅謹慎を呼びかけるなどしている。
該当する労働者は有給の病欠扱いになり、その分を補助するため、政府が雇用者または個人事業主に1日100シンガポールドル(約8千円)を支援することを発表したのだ。
https://news.yahoo.co.jp/byline/nakanomadoka/20200219-00163580/
さらに、こういった迅速な対応に加え、シンガポール政府は2月18日に以下を発表した。

2020年度予算(1060億Sドル、約8兆円)のうち、64億Sドル(約5000億円)を新型肺炎対策(8億Sドル、約640億円)と景気への影響を和らげる経済対策(56億Sドル、約4400億円)に充てる

さらに雇用者が新型肺炎によってビジネスが減退した際に労働者をいたずらに解雇をしないよう、雇用を継続するためのインセンティブ(ローカル労働者の月収の8%を3か月間雇用主に支給、上限あり)や、経済活性化のため所得に応じて100~300Sドルを21歳以上の全国民、100ドルを20歳以下の子どものいる保護者に支給することなどを含む「Care and Support Package」(16億Sドル)を打ち出した。

シンガポールは徹底した人的資本投資による経済発展を国の目標として掲げてきた経済国家であり、福祉国家に関しては「自助努力を阻害する」と忌み嫌ってきた経緯がある。
医療制度にある思想は”自分の身は自分で守る、健康管理は個人の責任の下で”だ。
その辺の思想と今回の措置との結びつきがしにくいようにも思えるが、
人的資本として国民のことは大事にするけれど、働くことを前提としており、自助努力は求めるスタンスによるものなのだ。

そんなシンガポールの医療費は政府出資は非常に低く、国民が大きな医療負担を行う。しかし、シンガポールの医療制度は世界的にも評価されており、WHOが公表した2015年医療制度世界ランキングでは、シンガポールが6位と評され、アジアでは1位になっている。
この理由も含めてシンガポールがどのような医療制度を取っているのかを探っていきたい。


参考資料:
世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング
都民経済生産
2016年海外情勢報告

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