見出し画像

メキシコ研修体験記 (ノンフィクション)

おはようございます。

9月に2週間メキシコに行ってきたのでそこで思ったことをレポートする。東大にはスペイン語みっちりコースというものがあり、私は入学したての頃、コース担当教員の研究室の前に三日三晩飲まず食わずで立ち続けてコースへの参加資格を勝ち取った。今回はそのプログラムの研修兼卒業旅行といったところだろうか。

ケレタロという都市の街並み。
今回文中では全く触れられないが、この写真を自分でなんとなく気に入っているので最初に載せておく。

さて、皆さんはメキシコについて何を知っているだろうか。タコスとかでっかい麦わら帽子とかだろうか。カンクンとか、あとはマフィアとか麻薬とかのイメージもあるかもしれない。ブラジリアン柔術はブラジルです

メキシコ文化について説明する際に必ず触れられるのが、先住民文化と、外来勢力であるスペインとの文化の共存、融合である。中南米にははるか昔、マヤ文明(現在のメキシコ周辺地域)やインカ文明(ペルー周辺)など、数々のユニークな古代文明が存在していたが、コロンブスがアメリカ大陸を発見してしまったことによりスペイン人が逃走中のハンターのように流入し、中南米は彼らの支配下に置かれることとなった。その結果流入したスペイン文化ともともとあった先住民文化が、時に融合し、時に混在しているのが今日のラテンアメリカ文化である。

コロンブス。
微妙な表情をしているのは船酔いのせいだろうか。たしかに船酔いしている時に「肖像画を描くからそこに黙って棒立ちになっていて下さい」と言われたらこういう顔になるかもしれない。

実際メキシコの街中では、メキシコの先住民の伝統的な衣服や工芸品が売られている市場の真横に、スペインの国旗の構成色である赤と黄色で塗られたヨーロッパ風の建物が佇んでいるような光景がよくみられるほか、メキシコ音楽も先住民の音楽にヨーロッパのラテン音楽の諸要素が取り入れられながら発展したジャンルが多く存在する。

また食文化についても、例えばメキシコ料理の代表格であるタコスなどはメキシコで紀元前から食べ継がれてきたトウモロコシや唐辛子と、スペインがもたらした西洋の肉料理やタマネギが組み合わさった結果誕生したものである。このように、先住民文化とスペイン文化の関係が垣間見えるような瞬間が滞在中には多々あり、大変面白かった。

文脈的には絶対にタコスの画像を載せるべきなのだが、
なぜか写真がなかった。というわけで、皆さんご存知、
フライドポテトです。

ただ、今回それ以上に私が個人的に印象に残ったのがメキシコ人たちの、メキシコ国民としての意識の強さだ。今回私がそれを肌で感じることができたのは、我々がメキシコに行ったのが9月前半だったからという理由が大きいだろう。その時期はちょうどメキシコの独立記念日の直前だったこともあり、街の至る所からメキシコ人の愛国心、メキシコ人というアイデンティティに対する誇りを強く感じた。商店街やレストランがメキシコ国旗の構成色である赤、白、緑で飾り立てられていたのはもちろんのこと、田舎の小さな民家や街中を走る乗用車までもがメキシコ国旗を掲げていた。アイメイクを赤白緑の三色にしている(白い部分は何も塗らずに地肌の白さを活かすという高度な技を使っている)タコス屋の女性も印象に残った。

図解。二重幅が広いからこそ成せる業だ。
赤と緑逆だったかもしれない
やっぱりタコスの写真よく探したらあった。
メキシカンアイメイクの女性がいたのとは別の店。
不要なフライドポテトの記憶をこれで上書きしてほしいのだが、あいにくここにもフライドポテトがある。

さらに、OXXOという名の、圧倒的な店舗数を誇るコンビニチェーンでは、メキシコ国旗の三色にデザインされたゼリーが売られていた。見た目重視だったらしく味はほぼしなかったが鮮やかな色彩がとても綺麗だった。

ゼリー。特にコメントはない。

また、今回食べる機会を逃してしまったが、チレスエンノガーダという食べ物が人気らしい。緑の唐辛子(辛くないと言われたがメキシコ人の「辛くない」は当てにならない)に白いソースをかけ赤いザクロをちりばめ国旗の三色を表現した料理であり、独立記念日の位置する9月によく食べられているようだ。このように、景観や食べ物などにメキシコという国のアイデンティティが非常に色濃く反映されていた。

チレスエンノガーダ(想像図)

こうして独立記念日に合わせて国民のメキシコに対する愛が爆発するのは、やはりスペイン勢力を追い払い外部からの支配からの独立を勝ち取ったという歴史が国民としての誇りや連帯感を一層掻き立てているからという理由が大きいだろう。独立記念日の2日前、サンミゲルアジェンデという町ではソンブレロをかぶり馬に乗った数十人もの人々が広場に集まっていた。中心には市長の姿もあり、演説を行って人々を盛り上げていた。かつてスペイン植民地政府を追い払い独立を達成するための戦争では男女関係なく馬に乗って戦ったという。この行事はその勝利を祝うためのイベントなのだ。しばらくすると馬に乗った集団は広場を去り、辺りには馬糞のみが残された。これから独立を祝して街中を闊歩するらしい。歓声を浴びる旗手たちの姿は独立戦争の戦士たちの姿を想像させた。

白馬に乗る男性。王子とかではなさそうだった。

また、首都のメキシコシティもサンミゲルアジェンデに劣らず特に大きな盛り上がりを見せる。高速道路の周辺には首を真上に向けて直角に曲げなければ見ることができないほど巨大な国旗が街中にたなびいておりその光景は圧巻だ。滞在していたホテルでは、夜な夜な外から小さな爆発のような音を聞き、銃声なのではないかと怯えていたが、実際は独立を祝うための、光の出ないタイプの花火であることが後に明らかになった。独立記念日前夜になるとメキシコはいよいよ大騒ぎである。ソカロと呼ばれるメキシコシティの中央広場に何万人もの人々が詰めかけ大統領の演説を聞いたり小麦粉を投げたりする。私もすべての荷物をホテルにおいて身一つでソカロに向かったが、モタモタしている間にメインイベントである花火(今回はちゃんと光も出る)や、メキシコ万歳と皆で叫ぶ一斉コールは終わってしまっていた。満足げな表情で帰っていく人々をかき分けながら広場へと足を運んでみたが、もはや誰も小麦粉を投げておらず、黄緑色の作業着の人々が掃除に追われているだけで、見どころといえばイルミネーションと、ピンク色の綿あめを売るおじさんぐらいのものであった。30分遅れではあったが、一応広場の中心でメキシコ万歳とつぶやいておいた。いつかもう一度9月にメキシコを訪れた際には時間に余裕を持ってソカロに到着し、メキシコへの賛辞を叫びたい。

ソカロにあった建物。
ライトアップはもちろんメキシコの三色なのだが、町中こうしてクリスマスカラーで照らされているのでなぜかだんだん年末みたいな気分になってくる。

一方ソカロから少し離れた大通りは深夜0時を過ぎているというのに人でごった返していた。一年に一回の祭典を満喫する人々の表情は非常に幸せそうで、露店に群がる互いに見ず知らずの人々もメキシコへの愛を媒介として一体感を共有している様子だった。日本ではたとえ建国記念の日だろうとこのように町全体が愛国ムードに包まれることはないので、とても新鮮な経験だった。日本においても、一年に一回ぐらいは皆で白と赤丸のアイメイクをして日の丸弁当を食べるのも一興かもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?