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第4次少子化社会対策大綱の不妊治療分野について語る

2020年5月29日、【第4次少子化社会対策大綱】が閣議決定されましたね。
今後5年はこの大綱をもとに対策を行っていくそうです。

発表され、不妊治療に関する内容が盛り込まれたとの記事に「不妊治療の負担軽減など検討」という字が含まれているのをみつけ、非常に心が躍りました。日本がついに動いてくれたのだとさえ思いました。

今回実施されたパブリックコメントで寄せられた意見、3800件のうち、実に4割以上が不妊治療の制度拡充の要望だったそうです!
実に1500件以上、こちらの数字は圧巻ですね🍀

皆様の切なる声が届いたということがとても嬉しくて、また一人一人の声が政治を変えるのだという事実に感動しました。

…と思っていたのも束の間。

実際の第4次少子化社会対策大綱をよくよく読んでみると。
「え?」と思うようなことばかり。

さて私の感想を交えつつ一緒にご覧ください。

少子化社会対策大綱(概要)

まずこちらが今回の概要です。

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<基本的な目標>を抜粋します。

「希望出生率1.8」の実現に向け、令和の時代にふさわしい環境を整備し、国民が結婚、妊娠・出産、子育てに希望を見出せるとともに、男女が互いの生き方を尊重しつつ、主体的な選択により、希望する時期に結婚でき、かつ、希望するタイミングで希望する数の子供を持てる社会をつくる
(結婚、妊娠・出産、子育ては個人の自由な意思決定に基づくものであり、個々人の決定に特定の価値観を押し付けたり、プレッシャーを与えたりすることがあってはならないことに十分留意)

希望出生率とは。
出生率1.8にするための希望を持てるような未来、を目標にしているのでしょうか?目標に掲げる数字にこんな曖昧な表現を使ってくるなんてどういうことでしょう。出生率でも合計特殊出生率でもない。

気になったので調べてみました。

結婚して子供を産みたいという人の希望が叶えられた場合の出生率。健康上の理由や経済的な事情などで子供を持てない場合もあるため、実際の出生率を上回る数値となる。

希望が叶えられた場合の出生率。つまりは理想の数字。
こんなアバウトな指標を目標にする意味って本当にありますか?

出生率や合計特殊出生率といったわかりやすい指標を使わず、それらと同じものだと認識させ、あたかも高い目標であるかのように掲げる。しかし5年後実際には希望であったためクリアできていなくても特に責められる筋合いはない。ある種逃げのように感じました。

最後の()内の「これ以上何も言わないでくれ」感も嫌になりますね…。


少子化社会対策大綱(本文)

次に大綱本文内の不妊治療にかかわる部分を見てみましょう。

妊娠・出産等に関する医学的・科学的な知識を提供することにより、子供を持つことを希望する方が適切に判断・行動できるよう支援する。
調査研究等を通じて不妊治療に関する実態把握を行うとともに、男女問わず不妊に悩む方への支援に取り組む。

うーん、なんともぼんやりとした内容ですね…。実態把握がまだ不完全であるため今後検討をしていく、といったニュアンスでしょうか。

医学的・科学的知識がないから不妊になるわけではないのですが。むしろ皆様よく自分で勉強なさって知識も多く、積極的なように感じますが。職業柄でしょうか…。


少子化社会対策大綱(別添1)

さらに詳しく見てみましょう。

施策の具体的内容Ⅱ-3(1)妊娠前からの支援より 不妊治療等への支援

○不妊専門相談センターの整備
・男女を問わず、不妊治療や不育症治療に関する情報提供や相談体制を強化するため、不妊や不育症に関する医学的な相談や心の悩みの相談等を行う不妊専門相談センターの整備を図る。

まず専門相談センター整備。

悩む患者様が少なくなることはいいですね。不妊治療を続けていく方で精神を病んでしまう方もいますので、心のケアは不妊治療を続けていくにあたって必要不可欠です。正しい知識を得られるというのは重要ですし、迷った時の駆け込み寺的な形の場所ができるというのはいいことだと思います。

でもこれが、政府が不妊治療の支援として一番に掲げたいことなのですか?

2番目に挙げられてはいますが、本当に悩んでいる方々のことを考え、パブコメをしっかり読んだのだとしたら、経済的負担の軽減を一番に考えて掲げてほしかったです。

さらに医療者としては、ただでさえ医者や看護師、培養士などが不足している現状を踏まえて、誰がそのセンターを運用していくおつもりなのでしょうかと問いたいです。現場を圧迫させかねないです。

現在の不妊専門相談センターを拝見しますと、直接対話できる(電話・面談)時間は週に1~2時間などの限られた施設も多く、さらには助産師や看護師のみのところもあるように見受けられました。また産婦人科医を配置していても、生殖分野に精通していなければ満足のいく回答が得られないこともあるのではと危惧します。

センターの配置は必要だと思いますが、数だけを増やせばよいものではありません。

どのように転んでいくか気になるところです。


○不妊治療に係る経済的負担の軽減等
・不妊治療の経済的負担の軽減を図るため、高額の医療費がかかる不妊治療(体外受精、顕微授精)に要する費用に対する助成を行うとともに、適応症と効果が明らかな治療には広く医療保険の適用を検討し、支援を拡充する。そのため、まずは 2020 年度に調査研究等を通じて不妊治療に関する実態把握を行うとともに、効果的な治療に対する医療保険の適用の在り方を含め、不妊治療の経済的負担の軽減を図る方策等についての検討のための調査研究を行う。あわせて、不妊治療における安全管理のための体制の確保が図られるようにする。
・不妊治療の治療水準の向上につなげるため、不妊症の治療方法等に関する研究開発に取り組む。また、年齢が高くなると妊娠・出産に至る可能性が低くなること、不妊の原因は男女どちらにもあり得ること、不妊治療を行っても子供を授かることができない場合があること等を適切に情報提供する。

続いて経済的負担の軽減について。

医療保険の適応検討は嬉しいニュースですが、すべてが保険対象にはなりえないだろうなという印象です。結局混合診療(保険適応外のものはこれまで同様に自費診療)となり、ある程度は負担軽減になるとは思いますが、満足のできる料金になるのかは疑問ですね。

これから研究調査を進めるそうなので、どの程度保険適応になるかはまだまだわかりませんが、効果的な治療に対してとの文言がありますので大々的な改変はないのではと悲観してしまいます。


また、令和2年度厚生労働省補正予算案では、【成育基本法を踏まえた母子保健医療対策の推進】という項目に277億円を投じると記載されています。前年度は256億円でしたので21億円の予算が追加で計上されていることがわかります。

不妊治療への助成もこの中に含まれていますので期待できるかと思いきや、他の「妊娠期から子育て期にわたる切れ目ない支援」「子供の死因究明に係る体制整備」の項目も含まれます。「子供の死因究明に係る体制整備」は今年からできた項目になりますので、不妊治療助成への予算が増えたとは考えにくいです。

あくまでも2020年度は調査研究を掲げておりますので、今年度の助成金増額はないのではないかと思っております。すぐさま調査に取り組み、今年度中に調査を終え、来年度からの増額を期待しましょう。


○不妊治療と仕事の両立のための職場環境の整備
・不妊治療について職場での理解を深めるとともに、仕事と不妊治療の両立に資する制度等の導入に取り組む事業主を支援し、仕事と不妊治療が両立できる職場環境整備を推進する。
・国家公務員についても、人事院とも連携し、引き続き民間の状況を注視しつつ、不妊治療を受けやすい職場環境の醸成等を図っていく。

最後に仕事との両立について。

NPO法人Fineさんの2017年の調査「仕事と不妊治療の両立に関するアンケートPart2」では、5526人もの不妊治療当事者の声を集められています。

実に95.6%が「仕事と不妊治療との両立が困難」と回答し、50.1%が「不妊退職」をしたとの結果が出ています。

待ち時間が長く時間がかかり通院回数も多いため、急な休暇の取得が必要になります。スケジューリングが難しく、周りに迷惑をかけてしまうとの罪悪感もありますよね。

仕事と両立できる環境を整えることは必要不可欠であり、多くの方がこれを求めています。事業者に丸投げするのではなく、社会問題として改善していくことが望まれます。

またプレ・マタニティハラスメント(不妊治療に関するハラスメント)に対する防止策が6月1日より「労働施策総合推進法」に明記されます。

こちらは以前決定した内容ですが、このような環境整備も含めてどんどんと勧められていくといいですね。


別添2 対策に関する数値目標

不妊治療に直接関わる項目としては

・不妊専門相談センターの数

間接的な指標としては

・妊娠・出産について満足している者の割合
・女性(25~44歳)の就業率
・結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現に向かっていると考える人の割合

でしょうか。


不妊治療に対する数値的目標が少ないですが、今後の調査検討とやらを期待しましょう。

不妊専門相談センターの課題は先ほどふれたとおりです。

現在76都道府県市に設置されており、2025年度までに全都道府県・指定都市・中核市に設置することを目標にしているそうです。

繰り返しになりますが、数が多ければいいわけではないと思っています。

それよりも生殖専門医や看護師、培養士などを配置し、誰でも利用できるプラットフォームをインターネット上に作り、どうしても自治体単位を用いたいのであれば、それを自治体単位で周知するほうがいいのではないでしょうか?


妊娠・出産について満足している者の割合、こちらは2017年現在82.8%、2024年度までに85.0%を目指しているそうです。

不妊治療に満足している方が含まれているかどうかは怪しいですし、そうであればもっと数値が低くなってもおかしくないのではとは思いますが、きっと不妊治療への満足度がそのまま通ずると解釈いたしました。

妊娠・出産を目指す医療を提供している身としては無視できない数値です。不妊治療を終え妊娠出産のステージになったときにまで不満続出だとあんまりだと思います(おそらく不満続出している現状ですが)。

妊娠前から、さらに妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援をし、安全かつ安心して妊娠・出産できる環境の整備を目標に掲げている今回の大綱ですので、次のステージも見据えて現状が改善されていくのを見守っていきたいですね。


女性(25~44歳)の就業率、こちらは2019年現在77.7%、2025年には82%を目標にしているそうです。

先述しました「不妊退職」や「仕事と不妊治療の両立」に関連する項目かと思います。

大綱内では
・「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」等に基づく取組の推進
・非正規雇用対策の推進
・多様な正社員制度の導入・普及
・女性の職業生活における活躍の推進 
なども目標に掲げておりますので、(すべて達成できるとは思っていませんが)働きながら不妊治療を受けられる環境整備が徐々にでも普及していけば嬉しいですね。


最後に「結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現に向かっていると考える人の割合」こちらは2019年3月現在45.2%、2025年には50%を目標として設定しているそうです。

この数字にはとても驚きました。よくこの数字を載せられたなとも感じます。
現在も低すぎるし、目標の50%ですら低すぎやしませんか。

これは少子化が進んで当然ですね。現段階の実感でなく、将来的な希望を持てる人が半数もいないのですから。悲観せざるを得ない現在の日本。

住みやすい社会をつくるということこそ、政治の役割ではなかったのでしょうか。希望の持てる明るい社会はどこへいったのでしょうか。もっと早い段階で見直すことはなかったのでしょうか。

…なんて言っていてもしょうがないですね。

私たちが今できることは、声を上げ続けることかもしれません。パブリックコメント然り、Twitterやブログでも、声を上げ賛同してくれる人を増やすことかもしれませんね。


最後に

今回は「不妊治療の観点から見た少子化社会対策大綱」を書きました。
満足のいく不妊治療を受けられる社会は、正直もう少し先の未来のようです。

しかしながら、今回不妊治療に関連した声を上げること(パブリックコメント)は大きな出来事であったと思います。

助成金が満足できる額でないこと、技術や研究がまだまだなこと、国家資格化を望んでいること、こんなにも不満を抱えているんだということ、保険適応に関する問題などについても声がきっと届いているんじゃないでしょうか。

今年度の調査研究やその結果を見守り、不満があれば都度声を上げていきましょう。


世の中の価値観を変えるには、多くの苦労や批判が伴います。時間が必要です。

賛同者が増え、大きな声となり、世論となっていくことを願って。


ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。
何かお役に立てたことがありますように。

少子化社会対策大綱、全文をご覧になりたい方は以下のリンクからどうぞ。




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