映画『ナポレオン』で使われた2つの歌に物申したい

先日、リドリー・スコット監督の映画『ナポレオン』を観たのですが。

ちょうどこのあたりのことを調べたことが過去にあり、この映画に対しては観たい・観たくないではなく、観た方がいい、もっと言うと観ないといけないような印象を持っていました。
例えるならば「大学の必修科目の授業に行く」という感覚が近かったです。

実際に観た感想としては、やはりこの映画は私にとって必修科目のような存在でした。
なぜならば、劇中で使われている2つの歌について、言いたいことができてしまったから・・・

※上映中の作品なのでなるべくネタバレは避けますが、結果まどろっこしい表現になっているのでご容赦ください。
また、一切の情報を得たくない方はこの先を読まないことをお勧めします。「知りたくない情報」に何が触れるのかわからないので・・・


サントラにも入っていない2つの歌

当然(?)、サウンドトラックも存在します。

しかし、私がこれから書くのはそこに入っていない歌のことです。
入っていない理由はわかりませんが、単にオリジナルじゃないからでしょう。

ピアフの『サ・イラ Ça ira』

まず、映画が始まってすぐの場面でこの歌が流れてきます。

曲名は『サ・イラ』と言います。
1790年ごろに作られた歌ですが、ここで使われているのはエディット・ピアフが歌っているバージョンです。
もっと言うと、サシャ・ギトリの映画『ヴェルサイユ語りなば Si Versailles m'était conté』(1953年)で、エディット・ピアフが民衆の女性を演じた際に歌ったバージョンです。
ヴェルサイユ行進の場面ですが、困窮した民衆がヴェルサイユ宮殿に殺到する場面で、突然ピアフが門の柵に上って歌い始めます。

でも注意しておきたいのですが、この歌、フランス革命当時に歌われたものと歌詞が異なります。(映画オリジナル?)
なんでこのバージョンなのかと当初疑問でしたが、サシャ・ギトリはナポレオンの映画も作っているのですね。そのオマージュとして歌われた可能性が高いとみています。
いずれにせよ、この映画を知る人はピアフが歌った場面を連想し、グッと来たことでしょう。

『ラ・カルマニョール La Carmagnole』

もうひとつの歌は、比較的序盤のある有名事件の場面で流れる『ラ・カルマニョール』です。
これも1792年ごろにできたということはわかっていますが、作者は不詳です。
(近そうな音源を貼りましたが、映画と全く同じでないかもしれません)

この歌もフランス革命歌ではかなり有名な部類に入ります。
歌いだしの歌詞はこんな感じ。(意訳です)

Madam’ Veto avait promis (bis) / De faire égorger tout Paris (Bis)
Mais son coup a manqué / Grâce à nos canonniers.
(拒否権夫人が予告した・パリ中でのどを切ってやる、と
しかし計画は失敗だ・大砲隊のおかげでな。)
Dansons la carmagnole / Vive le son, vive le son
Dansons la carmagnole / Vive le son du canon !
(カルマニョールを踊ろう・万歳、万歳、
カルマニョールを踊ろう・大砲の音万歳!)

https://www.musee-armee.fr/fileadmin-cru-1526553008/user_upload/Documents/Support-Visite-Fiches-Objets/Fiches-Louis-XIV-Napo-Bonaparte/fo-Carmagnole.pdf

「拒否権夫人」というのはマリー・アントワネットのあだ名です。
国王ルイ16世が議会で自らの拒否権を行使しまくった結果「拒否権殿 Monsieur Veto」と呼ばれたことに由来します。
まさにフランス革命らしい歌なのですが、すでに映画を観た方であればこういう感想を持ってもおかしくないでしょう。

「これ、別の場面で使うべきだったんじゃない???」

私も、正直そう思いました。
その場面には別の曲が合っていて、でも有名な革命歌だから使いたいということでここに落ち着いたのでしょうか・・・
いずれにせよ、ナポレオンの映画を観に来て『ラ・カルマニョール』が聴けたこと自体は驚きでした。

その他音楽関係の感想

ともあれ(私だけかもしれませんが)、この2つの歌が序盤でかかると「当時流行った曲や歌をたくさん使うのでは?」などと期待してしまいます。
しかし実際はそんなことはないです。
まぁ確かにゴセックのガボットが流れた場面はありましたが、他にはあったでしょうか…?私は記憶にないです。
個人的には『玉ねぎの歌 Chanson de l'oignon』とか期待したのですが!!

しかし、音楽とプロットの関連について全く考えてないわけでもないと思います。
例えば印象的だったのが『キリエ』の使い方。
サントラにも入っている『アウステルリッツ・キリエ』という曲があるんですけどね。名前からしてどの場面で流れるか明白ですが笑。

これが流れる瞬間がよく練られているというか、私は少し背筋が凍りました。
ちなみに、「キリエ」自体は他の場面でもキーポイントになっています。

映画自体の感想

最後に映画自体の感想も軽く…と思ったのですが、なかなか簡潔にまとめることが難しい映画でした。
一つ言えるのは、「楽しい」とか「わくわく」のようなエンタメ要素はないです。これを期待していくと終始退屈です。
むしろ淡々としたドキュメンタリーを観に行くくらいの感覚で行くと、がっかりしないかもしれません。
特に戦争の場面はナポレオンにつきものですが、本作はかなりニュートラルに描く意図が見受けられました(実際どうか、は別として)。
邪推になってしまいますが、エンドロール前に出たメッセージを押し出したいがためにこういう描き方になったようにも思えます。

また、主軸はジョゼフィーヌとの関係の描写です。
その邪魔になるものは、時間の制約もあって徹底的に省かれます(後妻のマリー・ルイーズなんかは体感2~3分くらいしか出てない)。
あとは色々な意味で生々しい(詳細自主規制)ので、その意味でも友達とか家族とわいわい行くような映画ではないです。一応PG-12指定ですからね。

他にもあるような気がしますが、いくらでも書けそうなのでとりあえずこのあたりで。

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