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堀田量子 第12章の解説

 第 12 章は角運動量についての話をひとまとめにした章です。スピン角運動量と軌道角運動量の話がどちらも出てきます。あらかじめ全体の構成を意識して読むと分かりやすくなるかもしれませんので、まずは要約してみます。

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各節の要約

12.1節
 第 6 章の最後の節でちらっと出てきていた「演算子と保存則との関係」がこの章の内容と強い関係があることが宣言されます。要するに、空間の回転というものは連続的なパラメータで表すことができますが、どの方向を向けても保存している量が存在しており、それは角運動量であるという話です。

12.2節
 第 2 章で出てきたスピンの話を思い出しながら「スピン演算子の交換関係」の意味を説明する話です。空間の回転変換行列を考えた場合に出てくるものと同じ形の交換関係が成り立っているのを知るのが目標です。この交換関係はスピンだけでなく、角運動量一般について成り立つものです。

12.3節
 前節で出てきた関係を使ってその性質を説明する話です。数学的構造と物理的な量との対応を知るのが目標です。

12.4節
 前節で説明した性質をさらに発展させて、複数の系が持つ角運動量をひとつの数学的空間の中にまとめて理論化する方法を説明します。系の全体の角運動量、つまり全角運動量を議論するために使うものです。

12.5節
 ここまでの節で説明してきた角運動量の一般論を軌道角運動量に当てはめる話です。波動関数との関係を理解するのが目標です。軌道角運動量の固有状態を波動関数で表したものは球面調和関数になっています。

12.1節 はじめに

 第 6 章6.7 節を開いてみましょう。状態変化を表すユニタリ行列$${ \hat{U} }$$は、物理量を表す演算子$${ \hat{Q} }$$と連続的な実数パラメータ$${ \theta }$$を組み合わせて作れるという話が載っています。次のような形の式です。

$$
\hat{U}(\theta) \ =\ \exp \left( -i\theta \hat{Q} \right) \tag{1}
$$

 逆に状態変化を表すユニタリ行列の形から物理量を表す演算子についての形の類推ができ、制限なども作れるはずです。第 6 章ではまだ有限の$${ N }$$準位系の話しかしていませんでしたが、$${ N }$$を無限大にして作った粒子系についても同じことが言えるはずです。

 この章で考えたいのは角運動量であって、この場合の状態変化というのは系の姿勢を回転させて観測するときに観測結果に生じる変化のことです。回転変換をユニタリ行列で表現してやれば、角運動量という物理量を表す演算子の性質も見えてくることでしょう。次節以降ではそのような話をしていきます。

 なお、第 6 章に戻ってじっくり考え直す必要はあまりないかと思います。少し関係のありそうな話が載っていたなという確認だけしておけば大丈夫です。私の「EMANが堀田量子第6章を書いてみた」という解説でもこの辺りの話はカットしてあります。

12.2節 二準位スピンの角運動量演算子

 第 2 章の 2.6 節を読み返すと、今回の話に必要な話がかなり先取りして説明されていたことに気が付きます。私の「EMANが堀田量子第2章を書いてみた」という解説ではこの辺りの話はカットしてあります。いきなり情報を詰め込み過ぎだろうと判断したからです。実際この第 12 章でようやく回収される話だったわけです。

 今回のために「EMANが堀田量子2.6節を書いてみた」という解説記事を新たに追加しました。そちらも参考にしてみて下さい。

 では 2.6 節では何をやっていたかを簡単に振り返りましょう。

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