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デルタ関数の性質

 この記事は堀田量子の第 8 章で使うデルタ関数の性質とそれが成り立つ理由を短くまとめたものです。元々は解説記事の最後に付録として載せる予定のものでしたが、長くなり過ぎたので別の記事として分けることにしました。この記事は「EMANの物理学」の中で私自身が書いた「デルタ関数」「超関数のフーリエ変換」という記事をベースにしています。この章で必要になる性質だけを抜粋して、この記事内だけで話がつながるように少し表現を改めたりしています。もっと詳しくお知りになりたい場合はそちらもご参考にどうぞ。

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 堀田量子とは直接関係しないパートですし、既に「EMANの物理学」で公開されているのと同じ内容なので全文無料にしてありますが、少額でも高額でもいつでも何度でもサポートしていただけると大変助かります。

 それでは、どうぞお楽しみください!

デルタ関数の定義

 デルタ関数$${ \delta(x) }$$というのは$${ x=0 }$$の一点のみにおいて無限大の値を取り、それ以外の点では 0 だというイメージの関数である。ディラックが空間の一点にのみ存在する電荷の電荷密度を表現するために導入したものであり、積分してやると 1 になるという性質も仮定している。

 ところがデルタ関数は、数学で関数と呼んでいたものに共通する性質を破ってしまう。数学者たちはこのやっかいなアイデアの扱いに困り、関数 (function) とは全く異なる「超関数 (distribution)」という分類を新たに作って理論化するに至った。今や、デルタ関数は数学的には関数ではなく、超関数の一種である。

 ところで無限大というのは数がどこまでも大きくなるという動きや操作を表したものであって、数値ではない。定義の中に数値であるかのように無限大が使われるのは不確かな面が多いので良くない。そこで、次の式で表されるような性質を持つものがデルタ関数であると定義し直したのである。

$$
\int^{\infty}_{-\infty} f(x) \, \delta(x-a) \, \mathrm{d} x \ =\ f(a) \tag{1}
$$

 デルタ関数を何らかの関数$${ f(x) }$$と一緒に積分したときに、デルタ関数の変数が 0 になる点、つまり$${ x=a }$$のことだが、その点における$${ f(x) }$$の値、つまり$${ f(a) }$$を返すという意味である。例えば$${ f(x) = 1 }$$という関数を使って上の式を計算すると

$$
\int^{\infty}_{-\infty} \delta(x-a) \, \mathrm{d} x \ =\ 1 \tag{2}
$$

のようになり、デルタ関数を積分すると 1 になるというイメージもうまく表現できていることになる。

デルタ関数は偶関数的である

 デルタ関数には偶関数的な性質がある。

$$
\delta(x) \ =\ \delta(-x) \tag{3}
$$

 これを導くには次のようにすれば良い。まず (1) 式の$${ f(x) }$$の代わりに$${ f(-x) }$$を使ってやると、次のことが言える。

$$
\int_{-\infty}^{\infty} f(-x) \, \delta(x) \, \mathrm{d} x \ =\ f(0) \tag{4}
$$

 積分範囲が全範囲の積分では被積分関数の積分変数の符号を変えても結果は変わらないので、この左辺の被積分関数の$${ x }$$を$${ -x }$$に置き換えた次の式が成り立つ。

$$
\int_{-\infty}^{\infty} f(x) \, \delta(-x) \, \mathrm{d} x \ =\ f(0) \tag{5}
$$

 この式と (1) 式とで引き算してやれば次の式が成り立つ。

$$
\int_{-\infty}^{\infty} f(x) \, \Big[ \delta(x) - \delta(-x) \Big] \, \mathrm{d} x \ =\ 0 \tag{6}
$$

 これが任意の関数$${ f(x) }$$について成り立つことから、カッコ内も 0 だと言えて、先ほど書いた性質が導かれるのである。

デルタ関数の微分

 デルタ関数を微分したものはどんな性質を持つだろうか? 次のような積分を考えて部分積分をしてみると面白いことが導かれる。

$$
\int_{-\infty}^{\infty} f(x) \, \delta'(x) \, \mathrm{d} x \ =\ \Big[ f(x) \, \delta(x) \Big]_{-\infty}^{\infty} \ -\ \int_{-\infty}^{\infty} f'(x) \, \delta(x) \, \mathrm{d} x \tag{7}
$$

 この右辺第 1 項は 0 になる。なぜなら、デルタ関数は無限の彼方では 0 だからである。要するに次のような関係が得られるわけだ。

$$
\int_{-\infty}^{\infty} f(x) \, \delta'(x) \, \mathrm{d} x \ =\ -\ \int_{-\infty}^{\infty} f'(x) \, \delta(x) \, \mathrm{d} x \tag{8}
$$

 この右辺についてはデルタ関数の基本的な性質から、どうなるかすぐに分かるだろう。$${ - f'(0) }$$である。よって次の関係が成り立っていると言える。

$$
\int_{-\infty}^{\infty} f(x) \, \delta'(x) \, \mathrm{d} x \ =\ -\ f'(0) \tag{9}
$$

 この式は$${ \delta'(x) }$$が持つ性質を表している。任意の関数$${ f(x) }$$とともに積分すると、なぜか$${ x = 0 }$$における$${ f(x) }$$の微分値にマイナスを掛けたものが放り出されてくるのである。

デルタ関数の 1 階微分は奇関数的である

 デルタ関数を 1 階微分したものの性質をもう少し調べてみよう。前にデルタ関数が偶関数的であると説明したときと同じ手順を使う。(9) 式の$${ f(x) }$$の代わりに$${ f(-x) }$$を使ってみよう。

$$
\int_{-\infty}^{\infty} f(-x) \, \delta'(x) \, \mathrm{d} x \ =\ \ f'(0) \tag{10}
$$

 右辺のマイナスが取れている理由が分かるだろうか。$${ f(-x) }$$を微分したものは$${ -f'(-x) }$$となるので、(9) 式の右辺にあったマイナスが相殺されているのである。ここからは先ほどと同じ話である。この式の左辺の被積分関数内の$${ x }$$の符号を入れ替えても積分結果は変化しないので、

$$
\int_{-\infty}^{\infty} f(x) \, \delta'(-x) \, \mathrm{d} x \ =\ \ f'(0) \tag{11}
$$

となり、これと (9) 式とを足し合わせることで、次の関係が得られる。

$$
\int_{-\infty}^{\infty} f(x) \, \Big[ \delta'(x) + \delta'(-x) \Big] \, \mathrm{d} x \ =\ 0 \tag{12}
$$

 これが任意の$${ f(x) }$$について成り立つのだから、カッコ内が 0 だということになり、次の式が成り立つことが言える。

$$
\delta'(-x) \ =\ -\delta'(x) \tag{13}
$$

 変数の符号が変わると全体の符号が変わる。原点以外では 0 であって左右の広がりを持たないのに、まるで奇関数のような性質を持つのである。具体的なイメージは難しいが面白い性質だと言えるだろう。

デルタ関数の積分表示

 フーリエ変換の知識を使うと、デルタ関数を次のように表せることが分かる。

$$
\delta(x) \ =\ \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} e^{ikx} \, \mathrm{d} k \tag{14}
$$

 デルタ関数の「フーリエ積分表示」である。簡単に「積分表示」とか「積分表現」とも呼ばれる。

 これが成り立つ理由をごく簡単に説明してみよう。フーリエ逆変換の式にフーリエ変換の式を代入すると次のようになる。

$$
f(x) \ =\ \frac{1}{2\pi} \, \int^{\infty}_{-\infty} \left( \int^{\infty}_{-\infty} f(x') \, e^{-ikx'} \, \mathrm{d} x' \right) \ e^{ikx} \, \mathrm{d} k \tag{15}
$$

 これは$${ f(x) }$$をフーリエ変換したものをフーリエ逆変換すると元通りの$${ f(x) }$$に戻るというだけの当たり前の意味である。少し変形してやると次のようになる。

$$
f(x) \ =\ \int^{\infty}_{-\infty} f(x') \left( \frac{1}{2\pi} \int^{\infty}_{-\infty} e^{ik(x-x')} \, \mathrm{d} k \right) \, \mathrm{d} x' \tag{16}
$$

 良く見るとデルタ関数の定義と似た形になっている。カッコ内がデルタ関数と全く同じ機能を持っているのである。分かりにくいかもしれないので、デルタ関数の定義式と並べてみよう。次の式がそれである。

$$
f(x) \ =\ \int^{\infty}_{-\infty} f(x') \ \delta(x-x') \, \mathrm{d} x' \tag{17}
$$

 $${ \delta(x-x') }$$ではなく$${ \delta(x'-x) }$$と書いた方が元々の定義式と同じ形になるが、デルタ関数は偶関数的なのでどちらでも同じである。(16) 式と比較しやすいようにこの形で書いておいた。これら二つの式を見比べると、次のような関係が成り立っていると結論できそうである。

$$
\delta(x-x') \ =\ \frac{1}{2\pi} \int^{\infty}_{-\infty} e^{ik(x-x')} \, \mathrm{d} k \tag{18}
$$

 この式の$${ x-x' }$$の部分をただの$${ x }$$に置き換えて分かりやすくしたのが (14) 式である。

 ところで (14) 式の指数関数の肩の符号を変えたとしても積分の結果は変わらないので次のように表現されることもある。

$$
\delta(x) \ =\ \frac{1}{2\pi} \int^{\infty}_{-\infty} e^{-ikx} \, \mathrm{d} k \tag{19}
$$

 デルタ関数は偶関数的であるという話とも矛盾がない。

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