#64 カーソン・マッカラーズ「家庭の事情」〜アルイーとの向き合い方 の感想

※これはポッドキャスト番組「翻訳文学試食会」の感想です

今回の本

今回のキーワード

  • 断酒して人生の後半を素面で生きていく干場さん

  • 「家庭の事情」は絶品のつけあわせ

  • 人間は環境の変化に弱い。アラバマからニューヨーク、共同体を失ってバランスを崩すエミリー

  • 南部作家、カポーティー、フォークナーの面白さ

  • どこに行っても特に臆しない大東先生

  • ほっこりするユーモア派と感じ悪いユーモア派(マッカラーズvsオコナー)

  • 夫があかん。ケアできてない。妻はもともと他人、奥さんの危機は自分の危機

  • アルイーになる人=効率重視の社会に馴染めない人

  • 妻と敵対している夫。状況は変わらない

  • ガソリン入ったら一気に喋り始める(だろう)大東先生

  • 還暦までは禁酒する(だろう)干場さん

環境の変化と適応障害

 エミリーに完全に感情移入しながら読んだ。というのも私自身が東北で生まれ育ち、結婚と同時に東京に移り住んだから。しかも勤務先が新宿。毎朝新宿駅で途方に暮れていたことを思い出す。満員電車に足がすくんでいたことも。

自分の家や、いとこや、子ども時代の友だちなどでできた基盤に安住していた彼女は、北部でのきびしい孤独な環境に適応することができなかったのである。

本文より

これ、エミリーは完全に適応障害でしょう。治療にいかずアルコールに進んでしまっているのが辛い。辛い現実から逃れるためにひとは酒を飲むが、酔いが覚めると辛い現実がより大きく重くなってのしかかってくる、という研究を何かで見た気がする。

「友だちをつくればいい」とか簡単に言われるけど、大人になってからの友だちってそうそう簡単にできないよね。仕事してたら何かしらの出会いがあるかもしれないけどエミリーみたいな子育て真っ最中の主婦はどうなるのか。世間の転勤族、駐在員の奥様たちってどうしてるんだろう。メンタル大丈夫なんだろうか。

震災時に原発事故の影響で故郷を離れることになった方で、その後命を絶ってしまったという話を読んだことがある。そのくらい慣れ親しんだ故郷を離れることは、人によっては耐え難い苦痛なのだ。

マーティン(エミリーの夫)

この人も#1「菜食主義者」のヨンヘの夫と似てる。エミリーの苦しさを本当にわかってるのか?という疑問大いにある。なんとなくその場その場でなだめてやり過ごそうとしている気がする。

「お願いだから寝ておくれ。子どもたちも、明日になれば忘れてしまうから」

本文より

 マーティン、こんなこと言ってるし。
配信で「マーティンに絡むエミリーのしどけなさ」が滑稽でもあり、かわいげもある、と言っていたが、これはちょっとひっかかった。それって結局はマーティンと同じく「エミリーを子どもと同じ扱いをしている」ってことじゃないのかな。
 でも、じゃあどうするのか?っていったら、エミリーがアラバマに帰る、っていう選択肢が一番なんだけど、そうすると家庭は成り立たないしな。この問題って本当に根深くて、結婚生活って本当にままならない。
 私は夫が相談にものってくれたし共感もしてくれたけど、それでも毎日絶望してたし、何度も帰ってしまおうかと思ったし、10年たってもまだアウェイでいる気がするし、今でも故郷に帰りたい。じゃあ離婚するのか、って聞かれるとそれはしたくない。どうすりゃいいんだよ、って思いながらずっと過ごしている。(幸いアルイーではないけれど)

番組内で触れられた本

南部とアルコールと主婦のキッチンドランカー

この小説を真っ先に思い出した。これは舞台がルイジアナ。大好きな小説。映画も面白かった。

アメリカ南部の文学

もっと掘り下げて調べてみたいな。これ読んでみよう。

アルイーを知る本

ざっと思いついたものたち



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