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自己責任論に効くクスリ「困ってるひと」はメチャクチャ名作だった

ここ10年ぐらいの間に読んだ本の中で、僕がもっとも衝撃を受けた(人生観を変えたといっても大袈裟ではない)本が、大野更紗「困ってるひと」である。

あまりの衝撃に周囲に貸して回り、結果的に紛失してしまったぐらいだ。最近あらためて買いなおして読んでみたところ、やはりまごうことなく名作だった。

そこには絶望しかない…はずなんだけど

ビルマ研究者を目指す大学院生だった大野更紗さんは、ある日突然難病になってしまう。

病名が特定できずに病院をたらいまわしにされ、やっと入院できたかと思えば地獄のような検査の嵐。最初は暖かかった周囲も次第に疲弊し冷淡になっていき、自立しようにも複雑な社会制度が「モンスター」としてたちはだかる…。

活字にしてしまうと絶望しかない状況にもかかわらず、大野さんの筆致はどこかユーモラスで、シュールで、はしばしから希望を感じてしまうのが、本書の魅力だ。

例えば「筋生検」という筋肉を切り取るという凄まじい痛みを伴うであろう検査の様子は以下のように描かれる。

キテレツ先生が、わたしの左腕、二の腕部分に、表面だけの局部麻酔をする。麻酔の注射だって、立派に痛い。そしてメスが入る………………...。

切られているのが、はっきりわかる。局部麻酔程度で炎症している肉を切られる痛みが和らぐはずもない。はい、続いてキヨシローのBGMが流れはじめる。
Hey Hey Hey どうなってるんだよー♪
Hey Hey Hey 麻酔なしかよー♪
「ぎゃああああああああいたーいーいたいーーーーーーーーーー」
阿鼻叫喚、絶叫するほかに、何ができるというのか。

この本の中で、大野さんは自らの状況を「難病というくじを引いた」と表現する。

自分がいま健康に生きているのは、くじ引きの結果でしかない。だとしたら、くじ引きの結果、偶然にも「困ってるひと」になってしまった人たちと自分はまったくかわらないはず。だからこそ「困ってるひと」を「自己責任だ」で片づけていいのだろうか…。

人はとかく「自分の正しさ」や「自分がこれまでちゃんとやってきた」というように思いがちだけれど、それによって苦境に陥らずに済むかどうかは結局はくじ次第。いつか何らかの不幸なくじを引いてしまう日が来るかもしれない。そう思うと僕は、とてもじゃないけれど「自己責任論」を唱える気にはなれない。

病気に泣かされ、制度に泣かされ、人に泣かされ、それでも人に救われる。凄まじい絶望の中で奏でられる人間賛歌。それが本書「困ってるひと」だ。ぜひ多くの人に読んでほしい。

ちなみに下記は最初に読んだ後にインタビューさせていただき、書いた記事。

この記事を書き、世に出すことができたというという1点だけでも、自分がWEBメディアで仕事した価値はあったと思う。

ちなみに続編である「シャバはつらいよ」もおススメ。読むとキクラゲラーメンが食べたくなるよ!


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