2022年10月7日

人類にはガッカリだ。

猿人がアフリカに登場してから500万年あまり。500万年という数字は46億年の地球の歴史の中でわずか0.1パーセントしかなく、その短さを「地球の歴史を1日に例えると人類史はたかが数十秒」と喩えて言うことがある。その数十秒の歴史の中で人類は他に例を見ない高度な文明を発達させ、地球上のあらゆる場所、あらゆる資源を我がものとした。高度な文明を下支えするのは「科学」だ。この世の理を体系化し自分達の道具として使い熟すことで生活レベルを際限なく上げ続けてきた。僕たちの生活は他の生物種とは比べ物にならないほど安定していて豊かだろう。
ところが、そんな生物史上最高に知能レベルの高い人類の科学技術が長いこと進歩せず停滞している文明がある。__________傘だ。

傘【かさ】読み方:かさ
《「笠」と同語源》雨・雪・日光などがじかに当たらないように、広げて頭上に差しかざすもの。竹や金属の骨に紙や布をはり、柄をすえて開閉ができるようにしたもので、「笠」と区別するために「さしがさ」ともいう。「—を差す」
デジタル大辞泉/小学館

雨が降る日には誰もが傘を持って家を出る。雨風を凌ぐためだ。傘を持っていない人などいない。生活必需品のひとつと言える。だが、考えてほしい。これほど生活に欠かせないものなのにこれほど進化しないものが他にあるだろうか?
多くの人が経験したことがあるだろう。傘では雨を凌げずにびしょ濡れになったこと、風が強いあまり飛ばされそうになったこと、満員のバスや電車に乗って隣の人の濡れた傘が当たって不愉快な思いをしたこと……。傘にはあまりにも雨具としての課題が多い。その癖に長年全く進化してきていない。骨が強くなったとか撥水性が高まったとか軽量化したとか、小さな点での改良は日々見られるものの、そんなことよりもずっと大事な「いかに雨風に濡れないように出来るか」という雨具としての本質的な部分における改善は全く見られない。何十年、何百年もの間、いわゆる「傘」の形状から変化することなく、横殴りの雨で足元が濡れたり風に飛ばされそうになったり持ち運びが不便だったりという課題は改善しないままでいる。人類はこれまで本当に数多くの「発明」をしてきた。それは間違いなく人類の生活を豊かにしてきた。ただ、もし宇宙にいる高度な知的生命体が雨の日の人類を見てしまったら、「くくくーっ、あんなしょーもないビニールで雨避けしてやんのーっ🤣」と馬鹿にしてくること必至である。
進歩しないもの、というと傘に限った話ではない。たとえばまな板も大きな機能面での進化は無いだろう。ただ、まな板はこれ以上進化の余地を残していないという点で傘とは大きく違う。我々がまな板にこれ以上求めることは無い。だが傘には皆が不満を抱いている。もっと楽に、もっと正確に雨を避けられるようになることを望んでいる。傘ほど不十分であるにもかかわらず進歩していない文明は他には無いだろうと僕は思う。
おそらく人類は傘の改善、革命に手をつけてこなかったわけではない。何百年も前からあるいわゆる「傘」よりも飛び抜けて素晴らしい「シン・傘」を開発出来ずにいるのだろう。傘のブレイクスルーは、すなわち雨が降るなかでの生活スタイルを一変させることだ。雨天中止によってどれほど人類の行動が制限されてきたかを考えると、雨による制限を突破するというのは一見地味だが人類にとって相当レベルの高い目標なのかもしれない。

誰か「シン・傘」を発明してくれよ、と言うと、「お前がやればいいだろ」と言われてしまう。だが残念ながら僕には無理だ。だからこうして何百年も進化しない傘に腹を立ててしょうもない文章を書いている。濡れたズボンの裾で脚元を寒くしながら帰ってきて、どうしようもなく嘆いている。これが現実なのだ。

僕にはガッカリだ。

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