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【短編日記】「Quiet Mode / 黒猫」


 無性に炭酸飲料が飲みたくなり夜更けにコンビニへスクーターを走らせた。颯爽と店の中に滑り込むとまずは冷蔵庫の前へ。他のものなど何の関心もなかった。店に入って最初に泳ぐ視線が止まった先には黒猫のボトルのワインがあった。以前よく誰かと飲んだワイン。こんなコンビニで再会するとも思ってもいなかった。

 足を止めてふと視線を落とすと、迷うことなくその黒猫に手を伸ばす。そしてそのボトルの首を掴んだ瞬間、この店を出たくなりはじめた。抑えられぬ気持ちが込み上げる中、ズボンの右ポケットに溜まっていた小銭を無造作につかみ、レジの上に並べただけでその黒猫は買えてしまう。スクーターのシートの中にボトルを放り投げると炭酸飲料の事など忘れて家へ帰る。

 とにかく今は炭酸飲料では十分に満たされない。どうしても黒猫が飲みたくなった。同じワインでも黒猫でなければいけなかった。コンビニでたまたま見つけただけの黒猫でなければダメだったんだ。炭酸飲料ではどうにもこの夜をやりすごせそうになかった。スクーターで見慣れた夜道をまっすぐ家へ飛んで帰った。

黒猫とともに突然蘇る記憶は黒猫に酔って自分を誤魔化さなければ避けられなかった。黒猫の思い出は懐かしむゆとりもなく、見つけ次第に回避しなければその重さに押しつぶされそうな気がしてならなかった。

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