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【短編日記】 「Quiet Mode / 青山の記憶」

 ふと急ぎ足で通り過ぎる。かの大学の前の通りをどこへ向かっているかも考えず。けれども時間には追われていた。約束の時間までに、どこで待ち合わせをしていたのか思い出すのが妙に億劫だった。そして足を止める。すると途端にどこからともなく焼き鳥の香りがしてきた。

「どうして焼き鳥の香りが」

 周囲を見回したところでどこにも香りのもとになるような店などなかった。しかしこうしている今でも確かに焼き鳥の香りを感じている。通り過ぎるバイクの音、何の音かも定かではない混じり切った騒音。もうこれ以上は明るくなりそうもない今日の空。そして焼き鳥の香り。

 再び歩き始める。約束の時間まであとわずか。その瞬間にあれだけ自分の周りを漂っていたはずの焼き鳥の香りは消えていた。

 冬近い街路樹の葉がせわしなく舞う曇天の空の下。急ぎ足で通り過ぎた。強烈な嗅覚で構成された青山の記憶。

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