奈落- 古市憲寿

多くの脚光を浴びていたアーティストから、事故を機に眼球以外は動かせない体に。
それでも意識はあって、勝手に資産や過去の作品を使い果たしていく姉や母の様子を苛立ちながら見ている生活。

人はその場の環境によって簡単に変われるけれど、と同時に、変えさせてしまうものだ。
悲しくも変わってしまった「海くん」であったけれど、
海くんが発していたこの言葉には刺さるものがあったな。
「嫌だっていう感情は、知らないか期待すぎかのどっちかだと思うよ」

言葉は発せなくなったけれど、
「仮に意見を持っていても、それを表明することがいいとは限らない」
きっとなんでもそう。発したからって、いつも自分から伝えることだけが良いわけではない。


小説とはいえ、古市憲寿さんのストレートな物言いが巧みに使われており、引き込まれて読み切ってしまう1冊。

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