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エッセイ【食い物の恨み】

ふたたび世相が悪化してきました。大好きなお店の好物が食べられなくなったりして…ベソかいておられないでしょうか。

先日食べ物について書いてはどうかとアドバイスをもらったので、今日はそんなテーマでお送りいたします。

"食いものの恨みは怖い"なんてよく言いますけど、食べ物にまつわる恨みって、ほんとにありますよね。もし忘れられない恨みがありましたらぜひ教えてください。

さぁみなさんご存じ、国際線でのお楽しみといえばお食事サービス。ここではエコノミーに限った話ですが、「到着してから美味しい物を頂くというのに、粗食で胃を満たしたくなどないわっ」と、食事をキャンセルされるブルジョワジーの方が一定数いらっしゃいます。

機内食というのは、実は必ず食べて頂きたいものなのです。なぜなら、万が一飛行機が砂漠などで緊急着陸した際に飢えを凌ぐため。長距離飛行の便では提供が義務付けられているとか、いないとか。

ですが乗務員は、そんなブルジョワ乗客に感謝することもあるのです。
皆様も一度は経験アリかもしれません。そう…後方座席に座ると、食事のチョイス(選択権)が無くなってしまうこと…。

前の列から突然、"BEEF or FISH?" の質問が聞こえなくなる。これはもう、「何のために飛行機に乗ったんですか…‼︎」と泣き叫びたくなる事態ではないでしょうか。私だけでしょうか。

案の定。ご機嫌を悪くされ、降りるまで笑顔が戻らなかったお客様を何度世に送り出したことか…。

これは私が人生で二番目に勤めた外資系エアラインでのこと。一緒にカートを動かしていた外国人の先輩からこのように耳打ちされていました。
「チョイス無くなったら "今日はもともと一択だった作戦" 決行な」

つまり、最初は "BEEF or FISH?" で行くのに、途中から「本日はお魚でございます。」と言って出せ!というわけです。

私は怯えました。
日本人として、サービスのプロとして、間違っているのではなかろうか?
オレオレ詐欺ならぬ、"お魚お魚詐欺" ではなかろうか?と……。

そうして私は、この良心の呵責をはじめとした様々な文化的衝撃から逃げ出すように、日系航空会社へと転職したのでございます。

さぁやって来ましたこちらは、我らがNipponの航空会社。お客様に質の高いサービスを約束しています。以前の会社とうってかわって先輩方みな大変真面目です。正直に、真摯に頭を下げておられます。

「大変申し訳ございません…お肉がなくなりまして、恐れ入りますがお魚のみでございます…」

と、一人一人のお客様に丁寧に謝罪されるではありませんか。私も最初の頃はその姿に感銘を受け、一生懸命謝り倒しました。

しかし…。
外資系からやってきたアマノジャクで世界一めんどくさがりな私。その後も真摯に謝罪を続けていく…
わけがありません。
さて、どうなってしまったのでしょうか。

わたくし考えました。
せっかくのお食事タイムです。こう乗務員に謝られては、「自分は選べなかった…誰も選ばなかった残り物を食わされるんだ…」と、お客様をションボリさせてしまうではありませんか。

わたくし考えました。
そもそも、どうすればお客様の選択がかたよらないのだろうかと……!!

「"白身魚のクリーム煮"か、肉のご飯です。」

前者をゆっくり笑顔で、後者を超高速真顔で言うのがポイントです。

いかがですか。どちらを選びますか。

私、やりました。
これでなんとかバランスを取りながら、一番後ろの席のお客様までお好きな食事を選んで頂くことに成功したのです。

それまでは大きな悩みだったお食事チョイス問題。その後、これは私にとって密かな楽しみになったのでした。あっちもこっちもみんなハッピー、万々歳でございます。

そしてこの技は決して誰にも教えませんでした。
だっていつかお客様に知られてしまったら、私が恨まれてしまいます……。

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