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「悦ちゃん」の感想文

著者は獅子文六さんです。一言でいうと父と娘の物語ですが、昭和10年ぐらいの風景、人物、考え方がわかります。

父である柳碌太郎は妻に先立たれ、10歳の娘悦子と暮らしていました。彼は売れない作詞家でみんなからは碌さんと呼ばれています。

娘を悦ちゃんと呼び、一緒に銀座に行ったり海水浴に行ったりしてとても可愛がっていたのですが、見合いの相手である日下部カオルさんを好きになってしまいました。でもカオルさんは悦ちゃんのことを嫌いで、そのことを碌さんにも言うのです。

それでも碌さんはカオルさんと結婚しようとしますが、悦ちゃんはデパート売り場で働いていた、やさしい池辺鏡子さんにママになって欲しいと思っています。悦ちゃんにママはできるのでしょうか。

以上があらすじです。読んでいて懐かしい気持ちになりました。昭和を感じる、江戸っ子の落語のような話です。ロバのパン屋さんが出てくるのですが、私が小さい頃は家の近所に車で来ていたので何度か買いました。「ロバのパン屋はチンカラリン」と音楽を鳴らして売りに来るのです。今は見かけませんが覚えている人もいますよね。

悦ちゃんは自分がこうしたいと思うことは遠慮せずに言うタイプの女の子で、それがカオルさんには子供らしくない、可愛くないと見えたのでしょう。カオルさんは美人でお金持ちのお嬢さまですが、結婚するかもしれない相手の子供を嫌いだと言ったりして、常識がなさそうです。普通は言いません。

鏡子さんは若くてきれいで本当に悦ちゃんが好きです。カオルさんとは違うタイプですが、実は碌さんは鏡子さんも気になっています。ろくに仕事もしないで、よくあの女性がいいなどと言えたものだと思います。碌さんは生計を立てるほどの収入もなく、いつもお姉さんに金の無心をしているのですが情けないとは思わないのでしょうか。

悦ちゃんが大事だけれど、好きになるとどうしようもないのかもしれませんね。父親としてはダメですが。たまに自分の都合のいいときだけ悦ちゃんを思い出したりして感傷に浸っていました。勝手です。

それでも碌さんは人がいいらしく、慕ってくれる人もいます。一番慕っているのは悦ちゃんです。どんなにパパがカオルさんの方に目を向けてもパパが好きなのです。

悦ちゃんが家に帰ったらみんないなくなっていた場面がありましたが、どんなに心細かっただろうと思いました。そんなこともわからないなんてバカなパパですね。




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