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妻になっても、母になっても、人生は私のもので #たばことあたし

いつから吸い始めたのか覚えてないけど、長いことたばこを吸ってた。多分憧れとか「っぽさ」とか、きっかけはそういう陳腐なものにすぎない。

最初はちょっとした興味だけだった。でも、吸い続けることを後押ししたのは「17歳のカルテ」だった。遅れてきたモラトリアム期にワサワサしていた私には、劇中の彼女たちの葛藤が愛おしかった。

movie smoke data base
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長女の不妊治療、聖なる妊婦を夢みてたので禁煙を決意した。暮せども暮せども生理がやってきて「んだよ!酒だって、タバコだってやめてんのになんでだよ」と泣きつづけた3年だった。

ちなみに、「酒だって」と言うが、私はほろ酔いで泥酔するセクシーボディなので、そこまで禁酒はつらくなかった。でも、たばこはとても辛かった。

なんであんな辛かったのだろうか。それは、ADHDの私が身体も頭を止められるのが喫煙だったからなのかもしれない。たばこ一本吸う3分45秒前後の時間が、貴重な「静」の時間。アンコントロールな回転木馬に寝ても覚めても乗っているのは、自分の脳みそ相手でもストレス。だから、私には煙草が大事だった。

「2人で暮らしてるのに楽しくないのは意味ないやろ」と、夫に言われて涙ながらに不妊治療をやめた。その数ヶ月後に、長女を授かったことに気づき酒も煙草もスパっとやめた。

愛煙家夫婦だったが、夫は突然家から追い出され「まあ、わかるけどな、わかるんやけどな、、唐突やな」とホタル族となった。それから煙草を吸いたいと思うこともなく、次女を妊娠してしまったのでそのまま禁煙家歴を伸ばし続けてきた。

正直に話すと禁煙しているあいだ、仲良し家族との旅行中に何本か吸った。全然美味しくなかった「なんだこれペッペ」と吸ってるフリして、火が進んでいくのを待っていた。

つい数日前に「ああもうダメだ」と張り詰めていた糸が切れる音がした。「もう1人になりたい」「無の時間がほしい」。

4歳になった長女とのぶつかり合い、夫との色々、仕事と自分のやりたいこととの距離感…「しょうがない」で飲み込んでいたものが、私の脳みそをギュンギュン回していた。過去にない速さで財布を片手に寝ている子どもたちを寝室に置いてコンビニに走った。「キャスターマイルドソフト5ミリください!!!!あとライターください!!」ゼエハア言う私に「何番ですか?ライターは真後ろです」と冷静に返す店員。

「あ、ライター…ごめんなさい。何番…えっと…キャスター…」「キャスターってないです」「ない…?キャスターマイルドソフトです」「ちょっとわからないので番号を」「え?」

子どもたちが寝てる。はやく帰らないと。私の相棒だったキャスターを連れて帰らないと!!何番なの!!

とアタフタしてたらアル中っぽいおじさんに「あのさ、キャスターはないよ。ウインストンになったのよ」と教えてくれた。

泣いたね。調べたら2015年に無くなったらしい。何に泣いたってさ、2015年ってことはたばこを吸っていた時代なので、私は確実に廃盤になりウィンストンに後継されていた瞬間を知っているはず。基、最後のたばこはウインストンなのに、それを完全に忘れてたいた。この完全なる老化に泣いた。

謎のおじさんと店員さんに「お騒がせしました!お世話になりました!」と深々と頭を下げて猛ダッシュで帰宅。子どもたちの生存を確認し、もう一度外に出て4年ぶりのウインストンに火をつける。

たまんねえ…うんめえ…母ちゃんのチンジャオロースぐらいうまい…

と、久しぶりの相棒との再会に浸って、その日はよく眠れた。


母になって「子どもにとって副流煙があるから、喫煙は母親失格」とか、そんな風に思ってた。でもやっぱり「母」という役割に締め付けられて、息苦しいのは大変しんどいです。本当に、しんどい。

私が小さい頃、母はホタル族だった。ベランダに出てタバコを吸っている背中を見て「さみしいな」と感じたことを思い出した。

その寂しさは「私が入れない母の世界があること」「物理的に1人にされていること」だった。だからどうしてもやめてほしくて、学校からもらった喫煙によって茶黒くなった肺の写真を母に見せ「ママ、死んじゃうよ!」「こんな汚い肺になってるんだよ」「絶対やめたほうがいいよ」と涙ながらに訴えた。母はそこからたばこをやめた。

現在の自分からあの母を振り返ると、私は暴力的に彼女から「自分」でいる時間を奪ってしまったことに気づく。母だからこうあるべき、そんなことは誰かが勝手に決めた正義で、理想論で、そんなものに縛られる必要はないのである。というか、そんなことにとらわれるよりも、家庭がうまくまわり続ける方が重要なのでは?と思います。

母さん、母になって気づくこといっぱいあるよ。我慢してくれてありがとう。そしてそろそろチンジャオロースが恋しいよ。

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