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Be With You


そばにいるね

心体ともに弱っているときにホッとするようなたった一つの言葉でさえ、遠慮してしまう時代になって久しい。
この言葉だけで救われる人達はうんといるだろうに。相変わらず会いたい人には会えないまま、ただ流されるように毎日は続いていく。


濃厚接触者の疑いがあったので、PCR検査を受けた。突然のことだった。結果は陰性だった。
PCR(名称:ポリミラーゼ連鎖反応)検査とはウイルスなどのDNA(名称:デオキシリボ核酸)を増殖させ、検出する方法だそうだ。試験管のある程度の高さまで自分の唾液を集める。これがまた意外と集めなければならない。


検査室に入ると早速、隣の検査室から「カーッコカッ‼︎コケッ‼︎」と女性の声が聞こえてくる。

それはもうジイと一緒じゃん。

時間に迫られているのか、かなり切羽詰まった様子だった。頑張れ!と心の中で応援すると同時に、自分も頑張ろう!という気持ちになった。ふと顔を上げると目の前の壁に梅干しとレモンの写真が貼ってあった。

それはもう自慰と一緒じゃん。


想像力で唾液の分泌を促されているのだ。
どこかデジャビュを感じつつも、人間の脳は単純なので見ていると分泌が物凄い勢いで促進された。来院してからものの数分で退院する私の様子はTKM(名称:匠)の技であった。


自分がもしかしたら感染しているかもしれないと思いながら日中の街中を歩くのはとても窮屈だった。SBN(名称:サボン)の路面店を通り過ぎ、香水の匂いがすることを確認して嗅覚が生きていることに安心する。
香水といえば、相手に自分の印象を忘れさせないためのものでもあるらしい。いつでも思い出してもらうためだ。街中ですれ違った時にその香りがすれば思わず振り向いてしまうのは、IRY(名称:I remember you)ということか。


さて、そろそろ終わろうかなと文章を見直してみる。するとどこからかほっこりと温かい気持ちが込み上げてくる。こんな時代に欲しかった言葉が、それでもどうしても叶わないことが頭の中に浮かんでくる。我々に必要なのは、特効薬でもなんでもない。今にも崩れてしまいそうなそのなかで、大切な誰かにそばにいてもらうことではないか。もう一度見直し、散らばったキーワードを並べてみる。



DNA     どんな

TKM     ときも

SBN     そばに

IRY      いるよ




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