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WHAT IS COMING


髭は濃くなり頭が薄くなるという、未来。
ドルは高くなり円が安くなるという、現在。


ため息の出るような未来を思うとき、最早吐く息さえ無いような現在が馬乗りになってくる。そんなことを考えている暇があれば1円でも多く貯金をして、1枚でも多く海藻類を摂るべきということはとうに理解しているのだ。我々はできることはやっておくことが、できる。

高騰した物価とともに生きていかなければならない。その為に試行錯誤して様々な方法を試さなければならない。例えば将来のための投資をしなければならない。無駄遣いを辞めて日常の習慣を見直さなければならない。ライフプランを組み直さなければならない。足がイッチバン速い馬を予想しなければいけない。


足がイッチバン速い馬を予想しなければならない


来たるべくして来るものがあり、それは当然避けることもできずただ身を委ねるしかない。年々逆らうことのできない大きな流れのなかで生きている自覚の輪郭が明確になっていく。「今まで一度も経験したことのないもの」というのは時間が経てば経つほど百濟ない箔がつくが、案外脆くあっさりと剥がれる。この時を待っていたんだろう。


元来石橋ですら渡ることを躊躇し、陸続きを探して迂回する男のはずだと青い芝を見つめながら思う。就寝前すでに後輩に声をかけていて、目が覚めたらそこには東京・中央競馬場の風景が広がっていた。公園も隣接しておりカップルや家族客も多くいた。成程、競馬は思いのほかここまでエンターテイメンツとして幅広い人気があるものか。

競馬に明るい後輩からレクチャーを受ける。単勝複勝から枠連などの買い方。競馬新聞での予想家のコメント。逃げ馬などの馬自身の性格。得手不得手も血統に大きく影響すること。彼は私が興味を示したのが何よりも嬉しいと熱意を持って対応をしてくれた。まだ風当たりが強い頃から競馬を愛している彼の強さに敬意を表する。

エンコちょっと詰めた?

エンコが短く写ってしまった。馬の尻を追い過ぎて金回りが悪くなってしまったとしたら私にとってもそう遠くない未来である。熱血指導を受けていたら予想締め切りのアナウンスが場内に流れる。慌てて予想をマークシートに記入するも一枚の紙で様々な買い方ができるため、困惑した。誤って記入すると全て崩れてしまう緊迫感が大学受験を思い出させ、郷愁にかられる。予想した馬の名は「ノスタルジック」かなんかだったような気もする。

すごい速さで馬が目の前を走り去り、ものの5分足らずで3,000円が消え去った。隣の師範は10,000円を軽々と失っていた。特段落ち込む素振りを見せる訳でもなくただ馬が走った後の芝を見つめていた。こういう時、なんと声をかければいいかがわからない。

「何を与えるわけでもなく、無理に寄り添うわけでもなく、つまりは探しに行こう二人の最大公約数を」

事実二人の最大公約数は1,000であるがこんなに回りくどい言い方をしても相手を苛立せないのはどこを探しても野田洋次郎だけであるし、そもそも最大公約数を見出したとして何の気休めにもならない。だったら1,000円でお互いやめときゃ良かったねになりかねない。

「君の心は僕の2倍、僕の小指は君の2倍」

そもそも彼とは掛け金の桁が違った。大金が当たった者にしか持ち得ない巨大な肝が座っており、心の臓の強い奴である。指は言わずもがな君の2倍くらいだけれども。

その後夢中で馬の尻を追いかけた訳であるが、私の記念すべき初戦は1歩進んで2歩下がる結果で幕を閉じ大体5歩ほど後退した。師範は1歩進んで560歩下がっておりその後退歩数は2,795歩。もはや彼の姿はそこに無かった気もする。ちなみにふたりの最大公約数は5である。


失った財産も多いが後悔は微塵もなく、思わぬタイミングで未経験という箔があっさりと剥がされたことを非常に満足している。これも大きな流れのなかの出来事なのだ。

何かを忘れている気がする。
帰り際、初夏の風が頬を撫でた。
生え際、ふわりと膨らんだ。
明順応で思わず目を細めて外に出る。

HAGE IS COMING…?


HIGE IS COMING…?


     


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